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大災害や戦争などの非常事態が起きた際、総理大臣に権力を集中させる「国家緊急権」。現在の憲法では認められていないこの制度を、憲法改正によって導入すべきなのか。そんな問題を考える意見交換会が10月21日、東京都内で開かれた。

意見交換会は、震災などの被災者支援の経験から、国家緊急権の創設に反対している弁護士たちが、条件つきで国家緊急権の導入を支持する小林節慶大名誉教授を招くという形で行われた。

国家緊急権は、自民党が公表した改憲草案に含まれており、「憲法改正」をめぐる今後の議論で注目を集める可能性がある。

●緊急事態に国家に権限を集中させる理由とは?

国家緊急権は、アメリカの憲法などで認められているが、なぜなのか。その理由について、憲法学者の小林氏は次のように説明する。

「大災害などの際には、法律がないからといって、すったもんだやってる場合じゃなくなる。内閣総理大臣に大権を集中してスピーディに動くことが大事だ。非常事態が去った時点で、総選挙をして民意を仰ぎ、補償をすればいい。ただ、国家緊急権はある意味危険なので、憲法上の根拠が必要だ」

小林氏は「もし私に白紙から憲法を書かせてもらえるなら、人権を制限された人への補償や、非常事態が終わった後に解散総選挙をすることなどを盛り込んだ、世界に比類なき、安全な緊急事態条項を書きたいと思っている」と話した。

●日本には緊急災害に対応する制度がすでにある

一方で、阪神大震災で被災した兵庫県弁護士会の永井幸寿弁護士は「災害をダシにして、憲法を改正してはならない」と強調。「災害への対策は『事前に準備していないことは、できない』というのが原則。国家緊急権は『事後の応急対策』にすぎない。災害がおきた後に、憲法を停止しても何もならない」と話した。

永井弁護士は「災害への緊急対策は、現場に近い市町村が主体的に動くべきで、国家はあくまでそれをサポートする役割だ」と指摘。仮設住宅の用地をめぐる交渉でも、住民に顔がきく市町村職員が頼んだほうが、国から仕事を請け負った業者が頼むよりもずっとスムーズにいくと説明した。

また、緊急災害に対処する仕組みとしては、すでに「災害対策基本法」がある。さらに万が一の際には、「参議院の緊急集会」といって、衆議院が開催できない場合に、参議院が国会機能を代行する制度が、憲法に盛り込まれているとした。

●「アメリカと日本では状況が違う」

だが、海外には、アメリカのように国家緊急権を認めている国もある。日本もそれにならうべきではないのか。

その点について、永井弁護士は「アメリカでは、国家緊急権が憲法上認められ、何度も行使されているが、あの国は大統領と議会の権力がハッキリ分立し、司法が違憲判決をバンバン出す国だ。日本とは状況が違う」と指摘。アメリカと違って議院内閣制をとっているうえ、司法も違憲判決に消極的な日本で、国家緊急権を導入することは、「危険性ばかりが高い」と主張した。

実際、自民党の憲法改正草案にある「国家緊急権」には次のような問題点があると、永井弁護士は指摘した。(1)緊急事態の発動要件を法律で定められること。(2)緊急事態の期間に制限がないこと。(3)内閣の承認が得られない場合の規定がないこと。(4)できる範囲に限定がないこと。

一方、小林教授は「国家緊急権の概念は、理論的に不要とは言い切れない」としながらも、「非常時に、権力側が一方的に『国を預かりました』とするだけなら、私も賛成できない」と意見を表明。「災害が起きたあと、総理大臣が大元帥みたいになって、突然何かしようとしてもどうなるものでもない。すでに法律が整っている今の日本で、国家緊急権の議論をする必要はないだろう」と締めくくっていた。

(弁護士ドットコムニュース)