ワールド・フォーカス

東京国際映画祭のラインアップが発表されたら、「今年は何を観ようか?」と筆者が真っ先にチェックするのがワールド・フォーカス部門だ。

【特集】「第28回 東京国際映画祭」の舞台裏

ここでは国際映画祭の常連監督の最新作や、すでに海外で受賞するなど高い評価を得た作品が上映される。

要するに“折り紙付き”の秀作が揃う部門なのだ。

今年もホセ・ルイス・ゲリン監督の『ミューズ・アカデミー』、マルコ・ベロッキオ監督の『私の血に流れる血』、ホン・サンス監督の『今は正しくあの時は間違い』などにシネフィルの注目が集まるに違いない。

140分本編ワンカット撮影!『ヴィクトリア』

上記の他にぜひとも観てみたいのは、ドイツ映画『ヴィクトリア』(セバスティアン・シッパー監督)だ。

ある早朝、ベルリンのカフェで働くスペイン人少女が見知らぬ若者たちに声をかけられたことをきっかけに、銀行襲撃事件に巻き込まれていくという物語なのだが、この映画の最大の特徴は140分の本編がぶっ通しのワンカットで撮られていること。

最近ではアカデミー賞4部門を制した『バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』でも採用された手法だが、本作はクライム・サスペンスというジャンルと結びつき、ただならぬ臨場感の映画体験を予感させる。

観たことのないシュールなサスペンス&アクションを堪能『シュナイダーVS.バックス』

謎の集団“ボーグマン”がある裕福な家庭を浸食していく様を、摩訶不思議なまでに美しくも不気味な映像感覚で描き上げた『ボーグマン』のアレックス・ファン・ヴァーメルダム監督の新作『シュナイダーVS.バックス』も見逃せない。

題名の“シュナイダー”は殺し屋、“バックス”はその標的となる作家の名前なのだが、バックスが暮らす一軒家を取り囲む広大な湿地帯の空間が、どのような映画的な面白さに転化されているかが見どころ。

不条理系のスリラーやコメディで名を馳せてきた鬼才ヴァーメルダムならば、きっと観たことのないシュールなサスペンス&アクションを堪能させてくれるはずだ。

香港アクション映画の鬼才ダンテ・ラムの新作『破風』

苛烈な人間ドラマと犯罪ジャンルを融合させた『ビースト・ストーカー/証人』『密告・者』などで知られる香港のダンテ・ラム監督の新作は、総合格闘技を扱った近作『激戦 ハート・オブ・ファイト』に続いてのスポーツ路線。

今回はサイクル・ロードレースを題材に、自転車に人生を捧げた若者3人の熾烈な競争が描かれる。

物語の舞台となる台湾各地でロケを敢行し、空撮ショットなどをふんだんに織り交ぜて映像化されたレース・シーンは、異様なテンションの高さをみなぎらせて期待感を煽るに十分。

観ているこちらの胸がアツくなるどころか、焼け焦げるような熱血青春映画に仕上がっているはずだ。

コンペティション

映画祭のメイン部門であるコンペティション部門には、世界的に名の知れた巨匠や鬼才ではなく、“これから”の中堅や若手監督の作品が並ぶ。

それゆえに実際に観てみないとわからない未知数の度合いが高くなるのは必然だが、近年は作家性の強いアート系作品からエンターテインメントとしてしっかりと成立している作品まで、幅広いタイプの映画が出品されている。

いわゆる“外れ”が多かった一時期よりも明らかにクオリティが高まったし、世界中のさまざまな地域からバランスよく選出されている。プログラム・ディレクターの努力の賜物だろう。

イスラム圏特有の問題をあぶり出す『ガールズ・ハウス』

まず興味をそそられるのは、イランから出品された『ガールズ・ハウス』(シャーラム・ホセイニ監督)。

イラン映画というと、以前は子供の健気さや純粋さを描いた素朴な味わいの作品が日本でも人気を博したが、アスガー・ファルハディ監督(『彼女が消えた浜辺』『別離』)の登場以降、都市部を舞台にした優れた現代劇が目につくようになった。

結婚式を翌日に控えた花嫁が謎の死を遂げたことで物語が動き出す本作は、友人であるふたりの女性が謎解きに乗り出すミステリー仕立てのドラマ。

イスラム圏特有の問題をあぶり出す社会派ものの側面を秘めているであろうことは容易に想像がつくが、はたしてどのような方向性で“映画的な魅惑”を打ち出しているのか。

その点が本編を観てのお楽しみとなりそうだ。

戦時下の史実をベースにしたドラマ『地雷と少年兵』

デンマークのマーチン・ピータ・サンフリト監督が撮った『地雷と少年兵』は、戦時下の史実をベースにしたという設定が異彩を放っている。

第二次世界大戦直後、デンマークの海岸沿いに埋められた大量の地雷を除去するために、捕虜であるドイツ兵たちが駆り出される。

地雷を埋めた側であるドイツ兵に責任を取らせるのは当然の理屈のようにも思えるが、それは死と背中合わせの危険極まりない作業であり、しかもドイツ兵はあどけなさの残る少年ばかりなのだ。

ただでさえ爆弾処理を題材にした映画には緊迫感みなぎる作品が少なくないが、そこにデンマーク人指揮官の倫理的な葛藤を織り交ぜた本作は、観る者の心に揺さぶりをかけるエモーショナルな展開が予想される。

極限状況下のドラマと、広大にして美しい海辺のロケーションとの鮮烈なコントラストにも目を奪われそうだ。

コンペ部門の中で最も謎めいている『家族の映画』

これが長編2作目で日本初紹介となるチェコのオルモ・オルメズ監督作品『家族の映画』は、この原稿執筆時点でトレーラーすら公開されておらず、事前情報が極めて乏しい。

しかしこの映画は、未知のオモシロ映画発掘にいそしむ筆者の探知レーダーをなぜか刺激してやまない。

ヨット旅行に出かけた両親が不在のなか、留守番をしながら羽をのばす姉弟が思いがけない事態に陥っていくという物語。

その“思いがけない”という部分が重要なポイントである反面、その先の展開がさっぱり予想できないところが逆に鑑賞意欲をそそる。

そもそも『家族の映画』などとテーマそのものを冠した題名からして大胆不敵で、“あっと驚く”レベルの家族ドラマに仕上がっている可能性が高い。

さらに筆者の経験上、動物をうまく使う映画には秀作が多いが、本作では“犬”も家族の一員に含まれるという。

コンペ部門の中で最も謎めいていて、最も個人的な期待値の高い作品である。