朝日放送『おはようコールABC』公式サイトより

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 維新の内部分裂は泥仕合のあげく、橋下徹市長が元みんなの党代表の渡辺喜美氏と会談、合流を示唆するなど、なんでもありの状況になっているが、大阪では、テレビ局に圧力をかけ、言論の自由を脅かす状況がおきている。

 10月16日、橋下徹大阪市長が代表をつとめる大阪維新の会が情報番組『おはようコールABC』(ABC朝日放送)が政治的公平を定めた放送法4条に違反するとして、放送倫理・番組向上機構(BPO)に調査を申し立てたのだ。

 ターゲットは同番組でコメンテーターをつとめる藤井聡・京都大大学院教授だ。藤井氏は橋下市長が掲げた大阪都構想反対の急先鋒的存在で、これまでも橋下市長と都構想の問題点を鋭く追及。今年2月にも維新の党が在阪各局に、藤井氏を出演させないよう"圧力文書"を送った経緯がある。

 今回、維新が新たに問題にしたのは、その藤井氏が11月のダブル選挙で維新の対立候補者や自民党議員にメールを送っていたことだった。そのメールに、大阪維新の対立候補を全力で応援すること、さらには『おはようコール』の番組中に紹介されるパネルで大阪維新に不利になるようつくりかえたことを報告していたのだ。

 大阪維新の会はBPOへの「申立書」にこのメールの全文を添付した上で、こう指摘している。

〈同氏(藤井氏のこと)は特定の候補者や特定の政治団体を利すること、または特定の候補者や特定の政治団体を不利にすることを目的としてテレビ番組を利用していることが明らかとなった〉
〈特定の候補者や特定の政治団体を利すること、または特定の候補者や特定の政治団体を不利にすることを目的としてテレビ番組を利用しようとする意図を明確に持つ者を、テレビ番組のレギュラーコメンテーターとしで起用し続けることは、放送法4条に明確に違反する〉  

 すると、このBPO申立翌日、藤井氏がレギュラーコメンテーターをつとめる朝日放送の別番組『教えて!NEWSライブ 正義のミカタ』で、藤井氏が「諸般の事情で」しばらくの間、休養することが発表されたのだ。

 朝日放送は大阪維新の問題とは無関係としているが、それを信じる者はいないだろう。

 いや、それどころか、朝日放送はBPOに提訴される前に、大阪維新から抗議を受けており、その時点で藤井氏をこっそりすべての番組からおろすことを決めていたという。

「大阪維新はメールを入手した直後に、朝日放送に抗議をしてきたらしい。朝日放送側はこれに対し、『藤井氏を降板させる』ということで、維新側と手打ちしていたようなんです。その時点では内々で解決するということになっていて、BPO に提訴するなんて話はまったくなかったらしい」(在阪テレビ局関係者)

 権力にはからきし弱いテレビ局らしい話だが、しかし、こうした手打ちにもかかわらず、維新はそれを破って、BPOに訴えてきたということらしい。

「おそらく橋下市長がそんなことで手打ちするなんて生ぬるいと、ひっくり返したんじゃないか、といわれています。朝日放送をBPOに訴えることで、テレビ局全体を恫喝し、維新への批判報道を封じ込める狙いがあったんじゃないでしょうか」(大阪維新関係者)

 まさに、藤井氏の脇の甘い行動と姿勢が大阪維新側に報道介入の格好の口実を与えてしまったかたちだ。おそらく、これからダブル選挙の11月22日まで、大阪のテレビ局はこれまで以上に、凍りついたように、大阪維新批判を封印してしまうだろう

 しかし、今回のメールは本当に、番組降板やBPO提訴に値するような事態なのだろうか。

 たしかに、藤井氏が大阪維新や大阪都構想に真っ向から反対し、対立候補を支持しているのは事実だ。番組で反大阪維新、反橋下、反都構想の論調を誘導しているのも事実だろう。

 しかし、そういった人物が出演することが放送法違反だというなら、大阪維新を支持する側、たとえば、辛坊治郎やたむらけんじはどうなのか。彼らは、大阪維新の選挙候補者に名前がのぼるほどの熱烈な支持者で、橋下市長とはしょっちゅうメールをする間柄。じぶんたちの番組では、露骨に維新側の主張に誘導するような発言をしょっちゅう行っている。

 藤井氏をテレビから降ろすなら、辛坊やたむらもまたテレビに出してはダメということになる。いや、それどころか、橋下市長自身も未来永劫、テレビに出られないということになってしまう。

 しかし、もちろんそんなことにはならないし、なってはいけないのだ。テレビは放送法で公正中立であることが求められているが、それは全体としての姿勢であって、番組に特定の政治的立場を代弁するような人間が出演することとはまったくちがう。そのことまで禁じてしまったら、それこそ、権力に都合のいい人間しか出せなくなり、統制報道になってしまう。

 大阪維新はそんな民主主義として当たり前のことを無視して、テレビ局の出演者選定にまで介入してきているのだ。これは明らかに「報道の自由」に対する侵害だろう。

 しかも、今回のことでもうひとつ、橋下市長と大阪維新の恐ろしさがあらわになった。それは、秘密警察よろしく、個人のメールまで監視をし、それを攻撃材料に使ってくるという事実だ。

 当事者である藤井氏もホームページで維新のメール公開についてこんな疑義を呈している。

「まず第一にこれ(メール)については、維新側の違法行為の疑義が存在します。
 そもそも維新の側の当方の私信の(公党による窃盗の可能性も排除できない不明な極秘ルートでの)入手、ならびに、それを報道各位に無作為に「ばらまく」行為に関しては、憲法が保障する通信の秘密を侵された疑義が濃厚に存在します。
 これではまるで全体主義における監視社会そのものです。維新は私信を傍受して政治的に利用しているわけですから、文字通り、全体主義的な政党であることが証明されたと言えるでしょう。維新は批判する者なら傍受でも何でも行いながら黙らせようとしている、という次第です。これは、市民にとって大変に怖い話です」

 まさにそのとおりだろう。報道やメディアが政治家のメール、私信を暴露したというなら、「報道の自由」「知る権利」の行使として認められるべきだが、今回は公党である大阪維新が、学者である藤井氏の私信を暴き立てるのだ。これは明らかに権力による検閲行為だろう。

 しかも、藤井氏が指摘しているように、大阪維新の会はこのメールを入手する為に、非合法な通信傍受、窃盗を行った可能性まで浮上している。大阪維新はBPOに対して、メールの事実関係の調査を認めているが、その前にまず、そのメールの入手の経緯を自ら釈明すべきだろう

 いずれにしても、自分に従わない人物を排除するため、こんな強権的な行為までやってのけるような政党が我が物顔で跋扈し、その代表者である人物が "次期首相候補"の一人として持ち上げられているのだ。日本の現状は異常としかいいようがない。
(田部翔太)