■福田正博 フォーメーション進化論

 日本代表は10月15日に行なわれたW杯アジア2次予選で、シリアに3−0で勝利。この結果で日本は勝ち点を10に伸ばし(3勝1分け)、グループEの1位・シリアに勝ち点で2差に迫った(試合数は4勝1敗のシリアがひとつ多い)。

 E組3位のシンガポールも勝ち点10(3勝1敗1分け)につけるため、楽観視はできないものの、日本代表はW杯アジア2次予選の初戦でシンガポールに引き分けたつまずきを取り戻しつつある。
※2次予選各8組の1位と、各組2位の成績上位4カ国がW杯アジア最終予選に出場できる。

 シリア戦後、日本は最終予選で対戦する可能性があるイラン代表(現在2次予選D組2位)と10月18日にテストマッチを行ない1−1で引き分けたが、この試合で現在の代表チームの課題が浮き彫りになった。それがパススピードだ。

 イラン戦での日本代表はパスのボール速度が遅く、そのため相手に寄せられてプレッシャーを受けて慌てるシーンが多く見られた。

 パススピードが遅くなった要因は、試合が行なわれたイラン・アザディスタジアムのピッチコンディションにある。先日のアフガニスタン戦(9月8日/6−0で日本が勝利)でこのスタジアムに行ったときに実際に見たのでわかるのだが、ここは芝が長く、水が撒かれていなければボールが止まりやすい。だが、それは相手にとってみれば当然の策だ。

 日本代表の特長である速いボール回しを消してしまえば、イランは日本代表よりも優る体格やパワーを生かすことができる。ホーム&アウェーで行なわれる最終予選で戦う国が、イランと同様の手を打ってくる可能性は高いだろう。

 芝が長く、水が撒かれていないピッチは、抵抗が増えるためボールは転がりにくい。短い芝のときと同じ力で蹴っても、勢いが削がれてボールの速度は遅くなる。イラン戦での日本代表は、これに対応できていなかった。パススピードが遅くなると、相手に日本のボールホルダーへ寄せる時間を与えてしまい、日本が苦手にするボディコンタクトが増えることになった。反対に、パススピードが速ければ、パスの受け手の選手が敵に対応する「時間をつくる」ことができるということだ。

 体格差で優るイランのような相手とフィジカル勝負で戦ったら、形勢不利になるのは火を見るより明らかだ。イラン戦では、相手に寄せる時間を与えたことで、とくに最終ラインのボール回しで慌てることになった。そのため、前線の選手たちも、守備陣に不安を覚えて低い位置にポジショニングし、全体的に下がってしまう悪循環に陥ってしまった。

 相手が得意とするボディコンタクトが発生しないようにするには、長い芝でも速いパスを出して、相手が寄せてくる前に次のプレーに移るしかない。そのためには、芝の長いピッチでも速いパスを出すためのパワーと技術が求められる。

 しかし、Jリーグが誕生して20年以上が経ち、選手たちは子どもの頃から芝や人工芝グラウンドの恵まれた環境下でプレーしている。そのため、軽く蹴っただけでも、ボールが転がる感覚が染み付いている。さらに、Jリーグでもボールが速く転がるように芝を短く刈ったピッチで試合が行なわれている。

 もちろん、こうした環境でプレーすることで、日本の選手はつねに顔を上げてプレーし、視野が広くなってテクニックを伸ばすことにつながっている。その反面「ボールを蹴る筋力」は、意識して鍛えなければ養われない環境になっているといえる。

 ヨーロッパの強豪国もサッカー環境は日本のように整っていて、芝が短く刈られた凸凹のないピッチで子どもの頃からサッカーをしている。しかし、スペイン代表やドイツ代表は、どんなピッチコンディションであろうともパススピードが遅くなることはない。

 これは、ヨーロッパの多くの国は育成年代から陸続きの近隣国に遠征して、整備されていないグラウンドでの試合もユースの頃から経験しているからではないだろうか。つまり、子どもの頃からさまざまなグラウンド状況に適応する能力や筋力を養えている。

 この20数年でサッカーを取り巻く環境が整った日本サッカー界にとっても、さまざまなコンディションでプレーできる選手を育てるのは、育成の課題だ。

 もちろん、育成年代ではない日本代表であっても、イラン戦のようにさまざまな環境での試合を経験し、それに適応しなくてはいけない。前回W杯のアジア予選を戦った選手たちは、その経験を現在の日本代表に還元し、また、今回初めてW杯予選を戦っている選手たちはイラン戦で得た経験を今後に生かしていくことに期待している。

 そして、長い芝であっても、水が撒かれていなくても、それをものともせず、速いパスワークという日本の特徴を最終予選でも発揮してほしい。

 まずは11月に控えるW杯2次予選、シンガポール、カンボジアとのアウェー2連戦の勝利は必須だ。勝ち点を積み上げて、来年3月にホームで行なうW杯2次予選の最終2試合につなげてほしい。

福田正博●解説 analysis by Fukuda Masahiro