慢性腰痛の要因は多岐にわたる (shutterstock.com)

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 多くの現代人を悩ます「腰痛」。腰痛にはさまざまな原因、病態があり、全て原因も治療方法も異なる。そして、腰痛の85%が"原因不明"といわれている「非特異性腰痛」。「画像所見で異常が見られない腰痛」と定義されているものだ。

 そのなかでも、厄介な「慢性非特異性腰痛」を知るには、腰痛には「急性腰痛」と「慢性腰痛」があることを理解することも重要だ。これは単に「発症した直後が急性、時間が経つと慢性」という単純なものではない。

 急性腰痛とは、俗に「ぎっくり腰」と呼ばれるものと、ほぼ同定義である。何回か経験した人も多いのではないだろうか。一方、腰痛が3カ月以上(文献によっては4カ月以上、半年以上などと記されている)続いている状態のことを慢性腰痛と呼ぶ。

 では、数カ月、あるいは何十年も続いている腰痛は、どのようにして作られてしまうのか? というのも、ぎっくり腰を起こした人は、適切な治療、アドバイスに沿って治療をすれば、ほぼ完治する。しかし、ぎっくり腰になって1カ月後には普通に日常生活を楽しんでいる人もいれば、それが慢性化したり再発を繰り返してしまう人もいる。その違いはどのように生まれるのか?

何年間も風邪をひき続ける人はいない!

 急性腰痛(ぎっくり腰)は、いわば風邪や指を切ってしまったようなものであり、適切に処置をすればきちんと完治するものである。このことをもう一度、明記しておく。風邪をひいて、それがそのまま何年間も続く人というのは稀だ。もしそうであれば、何かしら適切ではない方法で処置をしている可能性が高い。腰痛に関しても全く同じことがいえる。腰痛は、急性腰痛の時点で適切にマネージメントをすれば、恐るに足りないものなのだ。

 急性腰痛が骨折や感染などの重大な疾患でない限り、適切な処置方法が存在しており、これは日本を含む世界各国でガイドラインとして発行されている。その通りに治療すれば、高確率で完治できる。

 一方で慢性腰痛になってしまっている人は、その急性腰痛を「こじらせてしまった人」が大半である。こじらせてしまうとは、一体どういうことか? それはほとんどの場合、適切な処置を行わないで放っておいてしまったり、稀に他人(これは残念ながら医師などの医療従事者も含まれる)から、間違ったマネージメント方法を教わったりする場合がある。

 急性腰痛の痛みは、ほとんどが器質的な問題である。物を持ち上げるなどのきっかけで筋肉が損傷したり、靭帯が痛んだり、解剖学的、医学的に説明できるものが多い。これは適切な医学的な処置を行えば回復する。

「医学的な問題」が適切な治療をせずに「心理的なもの」に

 一方で慢性腰痛というのは、器質的な問題というよりも、そのほかの複雑な問題が絡み合ってしまっている場合が多い。だからこそ治りにくく慢性化してしまっているのだ。

 その複雑な問題というのは多岐にわたる。具体的には「腰痛に対する間違った考え方、思い込み」「動くこと、痛みへの恐怖」「非効率な動きの獲得」「筋力低下」「日常生活」「間違った寝具選び」「投薬依存」「睡眠不足」などが挙げられる。

 ここで気づいた方がいるかもしれない。そのほとんどが医学的、解剖学的な問題ではなく、心理的なものや日常生活における話なのである。

 きっかけは医学的な問題であったかもしれない。だが、そこで適切な治療をせずに、動くことへの恐怖、何週間もの過度な休息、痛みへの間違った理解、などを自分の判断(時には第三者)で処置を行ってしまい、慢性腰痛に進んでしまう。

 慢性腰痛になってしまった場合、それを治すためには、ただ通院して医学的な問題にアプローチするだけでは不十分だ。そのような心理面や日常生活のアドバイス、日常生活の見直し、など医学面以外のアプローチも必要になってくる。そこには、理学療法士はもちろんのこと、臨床心理士など他のエキスパートと協力することも大切だ。複雑に絡み合った紐を、一つ一つ解きほどいていく作業となる。

 しかしながら、日本は未だに急性腰痛も慢性腰痛も同じように「腰痛」として扱い、同じように治療や処置をしている場合が多くある。それでは、慢性化している非特異性腰痛は一向に治らない。

 慢性腰痛とは、急性腰痛が何らかの原因で慢性化してしまったもので、その原因は身体だけの問題ではなく多岐にわたる。それを完治させるには、視点を変える、広げることが必要だということを覚えていただきたい。


三木貴弘(みき・たかひろ)
理学療法士。日本で理学療法士として勤務した後、豪・Curtin大学に留学。オーストラリアで最新の理学療法を学ぶ。2014年に帰国。現在はクリニック(東京都)に理学療法士として勤務。一般の人に対して、正しい医療知識をわかりやすく伝えるために執筆活動にも力を入れている。