3位2回、4位1回、ラウンド・オブ・8敗退2回、ラウンド・オブ・14敗退3回。総獲得ポイント23、年間総合6位。

 これが2015年シーズンのレッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップで、室屋義秀が残した成績のすべてだ。

 室屋が最終的な目標として世界チャンピオン、すなわち年間総合優勝を掲げていることを考えれば、とても十分な結果とは言い難い。

 アメリカ・ラスベガスで行なわれた今季最終戦(第8戦)にしても、自身初となる予選トップを記録し、初優勝への期待も高まったが、結局ファイナル4で失速し、4位に終わった。3位となった前回のレース後、「ラスベガスでは勝ちにいく」と宣言していたものの、優勝はおろか、表彰台に立つこともできなかったというのが現実だ。

 しかし、今季後半の4戦だけを見れば、室屋は3戦でファイナル4に進出し、うち2戦では表彰台に立った。過去3シーズンで室屋が表彰台に立ったのはわずかに1度、ファイナル4に進出したのもそのときの1度だけだったことを思うと、比較にならないほどの大きな進歩があったシーズンだったと言っていい。室屋が語る。

「シーズンの頭に考えていたチームの体制作りが予定どおりにできてきて、小さなトラブルはいろいろあったが、最終的にはほぼ目標としていたところまで来ている。急速にチームは強くなっていると思う」

 たしかにシーズン前半は第2戦(千葉)から新型機エッジ540 V3を導入し、「マシンのポテンシャルはあるのに、上位に行けそうで行けない」状態が続いた。だが、機体の調整が進んだ後半戦は大きく成績を伸ばした。室屋が続ける。

「第4戦(アスコット)あたりから結果が出始めたが、すでに来年に向けての準備を9月くらいから始めていて、冬場のシーズンオフには機体の改良も進める。2016年はさらにいい状態でシーズン開幕から入れると思う」

 このオフに室屋が予定する機体改良の目玉が、ウイングレットの導入だ。ウイングレットとは、胴体から水平方向に伸びる主翼の先端に、垂直方向に立ち上がるように付けられた小翼のことだ。これまではどの程度の効果が得られるのかの分析が難しく、導入に二の足を踏むケースも多かったが、今季年間総合2位となったマット・ホールらがその威力を証明したことで、他のパイロットにも採用の動きが広がっている。

 室屋もまた、現在のエアレース界で最注目のトレンドと言っていい武器の導入を決めた。「これによってターンのときの旋回半径が縮み、ターンを抜けた後のダッシュ速度も速くなる」と、室屋はその効果に期待し、「これでかなりレースが楽になるはず」と笑みを見せる。

 もちろん、"バージョンアップ"が進んでいるのは機体だけではない。室屋は「安定して飛べるようになっている実感がある」と言い、今季を「パイロットとしての技術が向上したと実感できたシーズンだった」と振り返る。

 今季の室屋は8戦中3戦でラウンド・オブ・14敗退に終わった。予選ではコンスタントに上位につける一方で、一発勝負での勝負弱さを露呈するようなところがあった。室屋自身、「ひとつ勝ち上がるとスムーズに勝ち上がっていけるが、ラウンド・オブ・14への苦手意識というか、そこで集中し切れないところがあった」と認めている。

 だが、これについても明らかに改善の様子がうかがえる。

 今季最終戦。ラウンド・オブ・14のフライト直前に雨が降り出し、室屋は上空で待機させられることになった。しかも、対戦相手は昨年の年間総合優勝のナイジェル・ラムである。これまでなら集中力を保つのが難しい状況だったが、室屋は問題なく昨年王者を退けた。

 また、続くラウンド・オブ・8でも先に飛んだ地元・アメリカのマイケル・グーリアンが好タイムを出してプレッシャーをかけてきたが、室屋はそれを1秒以上も上回るタイムでねじ伏せた。この一連の勝ち上がりは、もはや余裕や貫録といったものすら感じさせる圧倒的な強さだった。室屋が語る。

「相手のタイムが分かったうえでフライトをコントロールできていたので、全開で攻めていたわけではない。こういう戦いをすればファイナル4まで常に残っていけるんだと感じたし、どうゲーム(レース全体)を戦っていけばいいのかという手応えをつかむことができた」

 室屋は常々、「チームが機体をセットアップすることと、パイロットが安定してテクニックを発揮することが合わさったときに勝てる」と口にしているが、こうして振り返ると、今季はそのふたつの要素が合わさった状態を作り出すための基礎が固まったシーズンだったのではないだろうか。

 室屋のこれまでの成績を振り返れば、自己最高成績は3位止まりであり、まだ優勝は一度もない。これで年間総合優勝を目標に掲げるのは、時期尚早なのかもしれない。

 だが、今季後半戦で加速度的に成績を伸ばし、最終戦では負けてなお強しを印象づけたことを考えると、2016年の室屋がどんな成績を残すのか、期待は高まる。

「(2013年までのエアレース中断期間が明けて)今季はリスタートから2年目。勝つチーム体制を作ったシーズンであり、来年につながるシーズンだった」

 そう語る室屋は、力強くこう続けた。

「来年は初戦から勝ちにいくし、年間総合優勝を取りにいく」

 決して絵空事ではない。すでに予兆は見えている。

レッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップ
第8戦(ラスベガス)最終順位
1位マット・ホール(オーストラリア)
2位ポール・ボノム(イギリス)
3位マティアス・ドルダラー(ドイツ)
4位室屋義秀(日本)
5位ハンネス・アルヒ(オーストリア)
6位マイケル・グーリアン(アメリカ)
7位ニコラス・イワノフ(フランス)
8位マルティン・ソンカ(チェコ)
9位フワン・ベラルデ(スペイン)
10位ナイジェル・ラム(イギリス)
11位ピート・マクロード(カナダ)
12位カービー・チャンブリス(アメリカ)
13位ピーター・ベゼネイ(ハンガリー)
14位フランソワ・ルボット(フランス)

浅田真樹●取材・文 text by Asada Masaki