ファストファッションを売るための代償とは

低価格で流行の服が手に入るファストファッションは、手ごろな価格でオシャレを楽しみたい女性たちにとって、いまやなくてはならない存在だ。だが、衣服を作るには当然コストがかかる。手ごろな価格を実現するため、どんな代償が支払われているのか、想像してみたことがあるだろうか?

2013年4月、バングラデシュのダッカ近郊。欧米の大手アパレルの依頼を受けて生産していた縫製工場が入居する商業ビル「ラナ・プラザ」が倒壊し、死者1,100人以上、負傷者2,500人以上を出す大惨事が発生した。違法増築や労働者の安全を無視したずさんな経営が原因で起こった悲劇。そこでつまびらかにされたのは、ファストファッションブランドが生産拠点を置く発展途上国で、貧困にあえぐ女性や子供たちが劣悪な環境の下、労働を強いられていた実態だ。

ドキュメンタリーでファッション業界の裏側を暴く

そんなファッション業界の裏側にフォーカスしたドキュメンタリー映画『ザ・トゥルー・コスト〜ファストファッション 真の代償〜』が11月14日から公開される。公開に先駆け、都内で10月15日、本作の先行試写会が行われた。

映画は、ファストファッションブランドの隆盛で衣服の価格がどんどん下落し、デフレ状態にあるにもかかわらず、生産コストはむしろ上がっていると指摘。それでも経営者が利益を上げられるのは、そのビジネスが、生活を成り立たせることも困難な低賃金で長時間働いている労働者の血と汗の上に成り立っているからだと訴える。ほかにも、大量の農薬を使用する綿花生産者たちの健康被害、衣類の大量消費の末の大量廃棄による環境への悪影響など、ファッション業界の闇に次々と光を当てていく。

一方、こうした問題に声を上げている世界の著名人たちの姿も伝える。なかでも、オスカー俳優コリン・ファースの妻で、本作のエグゼクティブ・プロデューサーも務めるリヴィア・ファースの、服をたくさん買えればリッチなのか?逆に貧しくなっているのではないのか?という問いかけは、消費者として身につまされる。

どういう服を買うべきなのか

キャロル・ウィルズさん

上映後のトークイベントには、フェアトレードブランド「ピープル・ツリー」の胤森(たねもり)なお子常務取締役、ヤクの毛をつかったニットブランドを展開し、中国・青海省のチベット族をサポートしているSHOKAYジャパンオフィス共同代表 の林路美代さん、世界フェアトレード機関名誉会員のキャロル・ウィルズさんが登壇。「服というのは何十回も着てだんだん擦り切れて、最後にはボロ布のようになる。それくらいまで大切に着るものであってほしい」という胤森さん。「ピープル・ツリーの商品も、買ってもらわなくてはいけないので、もちろん流行は研究するが、ワンシーズンで使い捨てられるものではなく、大切に着てもらえるものを目指したい」と語った。

左:胤森(たねもり)なお子さん、右:林路美代さん

元『VOGUE』の編集者である林さんは、当時から人や環境に優しいエシカル(倫理的)ファッションの特集を組むなど、エシカルなライフスタイルを提唱してきた。「SHOKAYは、基本的に定番の、一生ものの製品をつくって販売している。個人的にも、ギルティを感じるものだったら作らない方がいいし、買わない方がいい。やはり長く着られるものを買わなければ」。

消費者にとって、決して安くはないエシカルファッションやフェアトレード商品で身の回りを固めることは、理想であっても、現実的ではないかもしれない。ファストファッションは特に、上手に節約したい消費者にとっては強い味方でもあり、その存在を否定することは難しい。ただ、新しい衣服を手に取るとき、それが愛着を持って長く身につけたいと思える商品であるかどうかを考えること。それだけでも、ファッションを取り巻く環境を少しずつ変えていけるかもしれない。

ザ・トゥルー・コスト〜ファストファッション 真の代償〜
監督:アンドリュー・モーガン プロデューサー:マイケル・ロス
製作総指揮:リヴィア・ファース、ルーシー・シーゲル
出演:サフィア・ミニー、ヴァンダナ・シヴァ、ステラ・マッカートニー
ティム・キャッサー、リック・リッジウェイ
配給:ユナイテッドピープル 特別協力:ピープル・ツリー 協力:Dr.Franken
2015年/アメリカ/93分

(新田理恵)