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10月22日にいよいよスタートする「第28回東京国際映画祭」。今回は、特にグローバルな視野を持った日本映画を発信しようという傾向がみられます。その中から、特に注目の作品を新旧問わずピックアップしてみました。

【特集】「第28回 東京国際映画祭」の舞台裏

監督の個性が光る“コンペティション”部門

コンペティション「FOUJITA」

私自身、海外の映画祭に参加した際、海外の映画人の声を聞いて気づいたことがあります。それは、「日本映画は画一化したスタイルにとらわれすぎており、独自のスタイル、新たな表現への挑戦を忘れている」ということです。

コンペに登場する小栗康平監督は、日本映画界で独自のスタイルを貫いている貴重な存在です(しかし、この巨匠が10年かからないと新作が撮れなかったというのもまた、日本映画の低迷を示しているのかもしれません)。

小栗監督の特徴は、心象風景を静粛なタッチで綴っていくというもの。デビュー作「泥の河」は万人受けのする傑作ですが、カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞した「死の棘」以降、そのスタイルは純化していき、孤高の域に達しています。

一方、今回の題材に選ばれているのは、戦争に翻弄された日本を代表する洋画家・藤田嗣治。激動の時代とそのスタイルが、どのように混ざり合っているのか見ものです。

コンペティション「残穢【ざんえ】 -住んではいけない部屋-」

溝口健二×田中絹代、小津安二郎×原節子、木下恵介×高峰秀子、市川崑×岸恵子、増村保造×若尾文子など、名作の多くは名コンビによって作られて来ました。そこで、現代における名コンビが存在するのかと考えた時に、まず思い浮かぶのが、中村義洋×竹内結子のコンビです。

今作は、小野不由美原作によるホラーミステリーとのこと。このコンビによるホラーは初めてですが、「リング」で注目された竹内結子と、初期に多くのホラー作品を手掛けてきた中村監督だけに、期待度は高まります。

コンペティション「さようなら」

近年、ミニシアターでは多くのインディペンデント作品が公開されています。そのなかで出色といえたのが深田晃司監督の「歓待」でした。独特のタッチで描かれる人間模様は、スリリングの一言(劇団青年団出身であったことから、計算され尽くしたものであることが伺えます)。

新作は、なんと近未来の日本を舞台にしたアンドロイド演劇を映画化したもの。かなり異色なのでしょうが、若手では唯一コンペに選出されていることからも、完成度の高さは絶対でしょう!

35年を経て蘇る名作に
今が旬の原田眞人監督作も

パノラマ「ジョーのあした-辰吉丈一郎との20年-」

赤井英和の生きざまそのものをダイナミックに描写した劇映画「どついたるねん」でデビューした阪本順治監督が、自身の代名詞でもあったボクシング映画が遠ざかって20年。なぜ撮らなかったのか?…答えはここにありました。1995年、「BOXER JOE」で辰吉丈一郎の迫った阪本監督は、じつはその後もカメラを回し続けていたのです。

ボクサーとして現役であり続ける男と、プロテストを受けるまでに成長した息子。ドキュメンタリーが、一つのドラマとして結実するには、これだけの時間を要するのだと思うと、気が遠くなってしまいます。

パノラマ「の・ようなもの のようなもの」

故・森田芳光監督の代表作が「の・ようなもの」であると信じて疑わない者にとっては、この作品は観ていいものか? 正直迷ってしまいました。実際、松山ケンイチと北川景子だけでは、たしかに森田作品と縁が深いといっても足踏みしていたであろうと思うのです。

そこで、最大の後押しとなるのが、伊藤克信の存在です。ヘタウマという言葉がぴったりの演技にもかかわらず、なぜかいつまでも印象に残る俳優で、「の・ようなもの」ばかりではなく、当時「キャバレー日記」(根岸吉太郎監督)でも主人公を演じています。この伊藤克信演じる志ん魚が重要な位置を占めているということで、今作は森田作品で育った映画ファンには必見の作品といえるのではないでしょうか?

Japan Now「KAMIKAZE TAXY」

俳優演技、そして映像演出という面で、現在に繋がる大きな日本映画の流れを作った原田眞人監督。今回、その特集として5本の作品が上映されますが、スクリーンでもっとも観てほしいのがこの作品です。

命を狙われながらも復讐を企てるチンピラと、日系ペルー人タクシードライバー。タクシーを走らせながら芽生えていく男たちの友情。ラフなカメラワークと、アンデス調のBGM、そしてブレイク寸前の位置にいた役所広司のキレッキレの演技に目が釘付けになること間違いなし。長時間の作品ですが、飽きる暇など、一切ありません!

Japan Now「恋人たち」

「渚のシンドバッド」「ハッシュ!」「ぐるりのこと。」と、佳作ながら記憶に残る人間ドラマを描き続ける橋口亮輔監督7年ぶりの長編。

今回は、通り魔に妻を殺された男、平凡な主婦、そして同性愛者の弁護士という3人の思いを描いていきます。3人を演じるのは、いずれもオーディションで選ばれた新鋭たち。周知の俳優が演じないからこそ、現在の日本の実情がリアルに描写されるのではないかと、期待を膨らませています。

日本の名作からインディペンデント映画までズラリ

日本映画クラシックス「炎上」

市川崑監督が自作でもっとも愛した作品が、4Kデジタル復元されて上映されます。

原作は三島由紀夫の代表作で、日本語の美しさが集約されているといっても過言ではない「金閣寺」。市川監督は、この原作をなぞるのではなく、もとになった事件を一から取材しなおすことで原作の良さを最大限に引き出していったといいます。

主人公が生まれ育った日本海沿いの村と、絢爛豪華な金閣寺の対比。そこに浮かび上がる、親子の情愛と、青年の孤独。そこには、文学と映画の理想的な関係があるのではないでしょうか?

日本映画スプラッシュ「ケンとカズ」

2013年に製作され、国内外の映画祭で注目された短編映画「ケンとカズ」。

その世界観を長編映画として結実させたのが本作。若手の注目作が揃うスプラッシュ部門ですが、なかでも一番イキがいい作品ではないでしょうか?

覚せい剤の売買をしていたチンピラコンビが、片方の彼女が妊娠したことによりバランスを崩していく。ストーリーだけみるとよくある話ですが、そこにあるのは圧倒的な人間力。上記の短編を見てもわかる通り、俳優たちの熱演が体感として伝わってきます。

寺山修司生誕80年 TERAYAMA FILMS「田園に死す」

日本映画界で、唯一無二の世界観を持っていたのが寺山修司。個人的には「書を捨てよ町へ出よう」が好きなのですが、今回は、集大成ともいえる、この作品をお勧めします。

映画監督の「私」は、自身の少年時代の映画化を進めているのですが、そこに少年時代が現れ、それが嘘の思い出に過ぎないことを告げるのです…。

圧倒的に美しく、かつ実験的な映像で作られる寺山自身の自分史であるとともに、芸術とはなんであるかを問う傑作。映画はかくあるべきという幻想にとらわれている、現代の作り手たちにこそ観てほしい作品です。