パッケージメディアのありかたとは:「ATARI GAME OVER」への道

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編集部より:この連載は1990年代以降ゲーム業界を渡り歩いた黒川文雄さんが往年の名ゲームメーカー、ATARIのゲームビジネスを検証するドキュメンタリー「ATARI GAME OVER」の日本語化に奔走する物語です。懐かしのゲーム機やゲームソフトだけでなく、アタリの創業者(正確には共同創業者)であるノーラン・ブッシュネル氏に突撃取材を敢行するなど、この連載だけでしか読めない内容をお届けします。今回は第8回。連載のまとめページはこちら。

DVDソフト「ATARI GAME OVER」は9月16日の発売から1か月が経過しました。

ドキュメンタリージャンルとしては、下半期に発売したコンテンツとして異例の予約数と販売数です。とは言え、それは全体的なDVDソフトの販売水準が大きく下がっていることもあり、私自身が過去に経営した会社で販売した同種のジャンルの作品と比較すると3分の1くらいの実績に過ぎません。

パッケージ受難の時代を数字は如実に物語っています。

過日のことですが、大手レコード会社代表などを歴任した人とお話する機会がありました。

「すでに音楽ビジネス、レコード会社という枠組みの商売は終わっている。日本は世界で一番CDを販売している国だとか言っているようだが、それは家電メーカーや旧態依然としたレコード会社が、それを維持したいからではないか......。ロックンローラーさながらに何かの一発(ヒット曲)を待つ時代は終わった。さらに言えば現在チャートの上位にあるコンテンツは音楽というパッケージングをしたキャラクターマーチャンダイジングのようなグッズではないだろうか」

かつてレコードはその名前のとおり、コンテンツを記録したものとして販売。その形は時代とともに変貌を遂げていきました。同様に録音テープは8トラックと呼ばれたものから、カセットになり、そしてMDになったと思いきやレコードと同様にCDに集約していくのでした。

レコードの歴史は1877年にエジソンが発明した「フォノグラフ」とされていますので、1982年にCDが一般商用化されたことを鑑みると約105年の歴史だったと言えます。とは言ってもレコードもレコードプレイヤーも完全に消滅したわけではありません。今も好事家のあいだでは愛好されています。そしてiTunesがリリースされたのは2001年のことです。CDは、その歴史は終わったわけではありませんが、今のところ、誕生から約35年経過して、なんとか生きているという状態と言っても差し支えないでしょう。

ゲームはというと、アーケードに設置するタイプのゲーム機を導入した先駆者がノーラン・ブッシュネル氏であり、そしてそれらを家庭用に構造変更を行い、導入したのはアタリでした。その後、任天堂、セガ、ソニーコンピュータエンタテインメントなどが続くことになります。メディアもその間に大きく変遷しました。ロムカセット、CDロム、DVDロム、そして現在主流になっているのは配信型(ダウンロード)です。伴って、かつて主流だったプラグインの家庭用ゲーム機に替わって、皆さんが肌身離さずもっているスマートフォンにリプレイスしつつあります。

この間、約40年(ATARI2600発売を1977年として)の間にゲーム機とコンテンツは大きく変貌を遂げました。その間にすでにプレイができなくなっているゲームコンテンツが徐々に出てきています。たかが40年、されど40年というのが実感です。

時代の流れのなかでコンテンツのありかたやそのトレンドが変わるのは致し方ないことです。しかし、パッケージメディアのありかたが大きく変貌したなかで、パッケージの価値観を再認識することができたことが私個人にとって今回の「ATARI GAME OVER」の日本語版に関わる重要な使命だったと認識しています。

今はコンテンツを聞く権利、読む権利、遊ぶ権利を一時的に購入する時代になりました。今回の制作取材のなかで、ロサンゼルスにある老舗ゲームショップ・A&Jゲームのオーナー・ギャリー・オーウェンさんは取材に対して、こんなことを最後に言ってくれました。

「このボードは自分が24年前にゲーム販売に関わった頃からのもので、すべてのゲーム用ハードウェアの発売日に自分が手書きで書いた商品タグです。つまりこのボードがすべてのゲーム機の歴史なのです」

数多くの商品タグのなかでどれだけのハードウェアが残っていることでしょうか。

もちろんカタチを変え、流通を変えて今も生き続けているものはありますが、その変化と変革の時間の単位が早まっていることを感じます。おそらくそれはコンピューターやそれを抱合するネットワークの進化の歴史も背景にあると思います。

現に「ATARI GAME OVER」はYouTubeやiTunes、Netflixでも視聴可能です。

しかしながらNetflixのそれは私が監修したものではなく、アメリカ本国で「(オンデマンド・配信)権利」譲渡がすでにされたもので、ここでもパッケージ不要で視聴が可能です。残念ながら特典映像に収録されたノーラン・ブッシュネル氏の単独インタビューなどはDVDのみの特典映像です。私なりに、この映像ソフトに付加価値を求めた結果がそれらの映像になります。

時代の変化、利便性と引き換えに、かつて私たちが保有したパッケージという流通は姿を消しつつあります。パッケージへの執着や愛情じたいが古い世代の象徴かもしれませんが、「ATARI GAME OVER」に見るアタリの崩壊と新しい世代の台頭はその後の時代の変化のなかのひとつの潮流に過ぎなかったのかもしれません。

「ATARI GAME OVER」への道、長らくのお付き合いありがとうございました。

DVD「ATARI GAME OVER」好評発売中

「ATARI GAME OVER」日本語版予告編



黒川文雄(くろかわ・ふみお):1960年、東京都生まれ。音楽ビジネスやギャガにて映画・映像ビジネスを経て、セガ、デジキューブ、コナミデジタルエンタテインメントにてゲームソフトビジネス、デックス、NHNJapanにてオンラインゲームコンテンツ、そしてブシロードにてカードゲームビジネスなどに携わり、エンタテインメントビジネスとコンテンツの表と裏を知りつくすメディアコンテンツ研究家。顧問多数。コラム執筆家。黒川メディアコンテンツ研究所・所長。黒川塾主宰。株式会社ジェミニエンタテインメント 代表取締役「ANA747 FOREVER」「ATARI GAMEOVER」(映像作品)、「アルテイル」「円環のパンデミカ」他コンテンツプロデュース作多数。