■ドラフト展望2015(5)

 いよいよドラフトが目前に迫ってきた。すでに1位指名候補については多くの情報が飛び交っているが、今年はひとりの選手に5〜6球団が指名するような"目玉"は見当たらず、2〜3球団から指名重複される選手が3人、もしくは4人いるぐらいだろう。

 こういう目玉不在の年ほど、ドラフトの成否は3位以下の隠れた逸材たちをどれだけ獲得できるのか、各球団スカウトたちの"千里眼"にかかっている。今回は、その実力、潜在能力の高さのわりに、まだほとんど話題に上っていない4人の「隠れた逸材」を紹介したい。

 ドラフトは左腕の値段が高い――ここ10年来、ずっとその傾向は続いている。

「Bクラスの右投手なら、Cクラスでもいいからサウスポーが欲しい」

 スカウトからこんな声を何度も聞いたが、それは現場からの要求があるからなのだろうか。

 では、今年のドラフトはどうか?

 1位指名候補に上原健太(明治大)、今永昇太(駒沢大)、小笠原慎之介(東海大相模)の左腕3投手の名前が挙がるが、彼らに続く有力サウスポーの情報が入ってこない。

 なぜ、これほどまでに左腕の価値が高いのか? 今の野球界は、プロ・アマを問わず、左打者が飽和状態だ。イチロー(マーリンズ)の影響とも言われているが、一塁に近い有利さもあり、「少年野球の指導者が意図的に左打者を量産したから」と語る人もいる。

 50メートル5秒台の足を持つ快足選手ですら、"左打ち"を理由に社会人チームから断られたという気の毒な話も聞いた。当然、「サウスポーで左封じだ!」という風潮が、最近のドラフトにあるのもうなずける。

 実際、サウスポーは左打者に強いとされている。しかし、左打者に対して腕が振れないサウスポーが実はけっこうな数になるという。そこで、左打者でもしっかり腕の振れるサウスポーにスカウトは注目する。そうした特質を持ったふたりの投手を挙げたい。

 まずは、関東学院大の若林篤志(左投左打)。流行のファッションがピタリと似合いそうなスリムでしなやかな体の線。そして優しげなマスク。そんな外見の奥に隠し持った"牙"がこのサウスポーの持ち味だ。右打者も左打者も、インコースを突かないと抑えられない――彼のピッチングを見ていると、そんな強い思いが伝わってくる。たとえば、左打者の肩口に死球を当て、次の左打者がベース寄りに立っても、お構いなしにインコースを攻めてくる。その気持ちの強さ、実戦になればなるほど生きてくる。

 別に140キロ後半が出るわけではない。だから、大きく報道もされないし、すべてのスカウトが評価しているわけでもない。しかし、135キロぐらいのストレートで打者たちのバットを粉砕するシーンを何度も見ている。

 いわゆるボールのキレ。つまり体感スピードで勝負するサウスポーだ。それに拳銃の早撃ちのようなトリッキーなけん制に、抜群のフィールディング。スピードガンの球速しか信じない球団には獲れない選手だ。今の評価は低いかもしれないが、プロに入ってから大きく化ける可能性を持った選手といえよう。

 そういうサウスポーが高校生にもいる。愛知・誉(ほまれ)高の内田大貴(左投左打)。身長172センチと、見た感じはどこにでもいそうな普通の高校生左腕だ。だが、いざ投げると様相が一変する。

 このサウスポーは、スライダーで左打者の体を起こし、踏み込もうとする右足を凍らせるのだ。かつてヤクルトに加藤博人という左腕がいて、頭に当たりそうな軌道からストンと曲がり落ちるカーブで松井秀喜(当時・巨人)をはじめとする左打者の踏み込みを完全に遮断した時期があったが、まさにあの軌道とそっくりだ。

 ストレート以上の腕の振りから、むしろストレート以上のスピード感で左打者を威圧する。そのスライダーで上体を起こしておいてから投げるクロスファイアー。持ち球はすでにプロのボールだ。何年かファームで鍛えてから、というレベルではない。短いイニングならすぐに使える逸材だ。

 真昼の神宮で、かつての福本豊の守備を彷彿させる選手がいた。ジャストミートした打球がセンター頭上を襲う。「落下点はあそこだ!」と決めると、一目散に背中を丸めて走る。打球なんか見ていない。もういいだろうと振り向けば、打球はその少し先にあり、さらにスピードを上げて落下点にもぐりこむ。

 捕るだけじゃない。カットに入った内野手に返す送球の速さ。これがまた素晴らしい。少々説明が長くなったが、そんな完璧な守備をする選手が、日本大の外野手・山崎晃大朗(左投左打)だ。

 50メートル5秒7の快足を打席でも生かす。なかでも打ってスタートを切るスピード、これがすごい。スイングするなり、もう大きな一歩でスタートして、打球が左中間を破ってグラウンドに落ちた時には、とっくに一塁を回っている。

 そしてバッティングのいやらしさ。ファーストストライクからフルスイングで仕掛けていけて、打ち損じたらファウルを重ねて四球をもぎ取る。ピッチャーにしてみれば、こんな嫌なバッターはいない。こういう仕事をコンスタントに繰り返せる選手が、本当のチームプレーヤーなのだ。

「スピードやったら負けてへんで!」と割って入ってきそうなのが、大阪商業大の内野手・吉持亮汰(右投右打)だ。

 内野ゴロを打って、一塁に向かっていく走りの痛快さは特筆ものだ。細かいピッチですべるように走っていく姿は胸がすく。バットを握る時はグリップをひと握り半空けて、見るからにしぶとい。

 ボールをおっつけて野手の間に落としたと思ったら、今後は叩きつけて高いバウンドを打ち楽々セーフ。そしてロケットスタートでたちまち二塁を奪う。吉持に長打なんていらないのだ。今シーズン、走れる選手に困ったチームは、結構上位で指名してくる可能性がある。

 守備でも、三遊間の深い位置から真っすぐに伸びるスローイングで出塁を阻む。その鉄砲肩は、もし外野手としてフル活用したら、日本一の外野手になる。そんなイメージもある。

 たとえば、10年経って振り返ってみたら、2015年のドラフトからすごい選手がいっぱい出ていた。そんなことになっても全然驚かない。それほどの逸材が今年のドラフトには隠れているのだ。

安倍昌彦●文 text by Abe Masahiko