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在庫商品=余りもの ―― こんなマイナスイメージを持つ人は多いのでは。しかし、中には天候に恵まれなかった時期や売り方、見せ方が良くなかったため、残念ながら売れ残ってしまう商品もある。それらを発掘し、「期間」「数量」「商品」を厳選・限定し割引価格で売り出すことで、ショップにも顧客にもメリットをもたらすのが「フラッシュセール」と呼ばれるビジネスモデルだ。

日本にもいくつかフラッシュセールサイトがあるが、代表的な存在は2月にミクシィが買収した「MUSE & Co.」だろう。2,000を超える提携ブランドから厳選した7〜8ブランドの商品を1週間ほど掲載し、最大90%のディスカウント価格で売り出している。

15商品ほど掲載していた時期もあったが、「会社帰りに時間ができて、駅ビルにふらっと立ち寄る感覚でサイトを見てもらう」「1日3分でもサイトを覗きにきてもらう」ことを目的に、商品数を絞り込み、見やすいサイトに変えた。

「世の中で一番ラクに、自分に似合う商品を選べるECサイトを目指しています。ロングテールを意識するECとは真逆のやり方で、厳密なプランニングで掲載商品を絞り込み、お客さまにとって意味のある商品を販売します」と語るのは、同サービスを運営するミューズコー代表取締役社長の久保裕丈氏だ。

○部外者ができることには、限界があった

久保氏 :大学院卒業後は経営コンサルティング会社に入社し、3〜4年目で起業を考えるようになりました。自分の意思決定で会社を動かし、その先にいるエンドユーザーに便益を得てもらいたい、という思いが高まっていたころです。

私のクライアントは、メーカーや商社、製造業などの大企業が多かったのですが、組織が大きければ大きいほど、私たちがクライアントやその先にいるお客さまを思って心血を注いで考案・提案するプランが社内の事情で実行されず、悔しさを感じることもありました。

もちろん目に見える形として成果になることもあります。しかし、そういった経験を経て(クライアントの)"部外者"でいることに限界を感じました。そこで、勤続5年で退職したのち翌月(2012年4月)にミューズコーを設立、MUSE & Co. を立ち上げました。

――― 事業の軸をアパレルとしたのはなぜでしょう?

コンサルを行っていた当時、アパレル業界のクライアントを多く抱えていて、その分野について考える機会がたくさんあったからです。ファッションは鮮度が重要ですから、数カ月前までは飛ぶように売れていた商品が、トレンドの移り変わりであっという間に売れなくなり、在庫を抱えてしまう。

そんななか、不運にも在庫が多くなってしまった商品を、見せ方を変えたり価格を下げたりして、お客さまに届けられたら良いなと考えるようになりました。ブランドは在庫を減らせますし、お客さまは市価よりも安く商品を買えるメリットがありますよね。こういったビジネスモデルはアメリカでは一般化していました。これを日本でも広めてみたいと思ったんです。

○階層を整えたら組織が円滑に回り始めた

――― それにしても、退職〜起業・サービスローンチまで1カ月と、かなりのスピードですね

コンサル時代に出会い、起業後もメンターとして面倒を見てくださった、グルーポン・ジャパン取締役会長の廣田朋也さん(当時、パクレゼルヴ会長)、T-Garden代表取締役社長の文倉達之さんなどから、チームビルディングを教えていただいたおかげです。

アパレルの専門家やエンジニア、営業などを集めるサポートもしていただきました。また、商品集めや写真撮影、プロダクト制作などについてもアドバイスいただいたので、短期間でのローンチに成功しました。準備自体は実際2012年1月ころから土日を使って少しずつ進めていましたね。

ローンチ前後を振り返ると、当時の私にはチームワークや社員育成の視点が欠けていたなと思います。会社員時代は、自立・自走できることが評価される文化でしたから。起業して1〜2年目はその視点が重要だと気づけず、今にしてみると大きな失敗だったなと感じています。

組織が20人程度だった頃は、自分一人でほぼすべてを見ていました。誰がどんな仕事をしているか、おおよそ把握できる規模感です。それが30人程度になると、途端に回らなくなり、コミュニケーション不全が起こります。誰が何を担当していて、何に悩んでいるか、わからなくなることがよくありました。

ターニングポイントは2013年夏〜秋ころです。売上が数カ月で2〜3倍に伸びて、物流が上手く回らなくなり、倉庫業務をサポートしに行くなど、メンバーに大きな負荷がかかっていました。加えて人も足りず、採用も間に合っておらず、事業が成長して喜びを感じる反面、裏側は非常に大変でしたね。

それからは組織の階層を整えることに徹しました。私が業務上のコミュニケーションを図る対象を4〜5人に絞り込み、彼らとの対話に十分な時間をかけることにしたのです。結果、僕から4〜5人に話をするだけで、組織全体に落とし込まれ、組織が同じ方向に進み、動くスピードも速くなり、行動の一貫性も担保されるようになりました。

○資金繰り悪化に悩む時期を乗り越えてきた

――― その後順調に成長され、1年で月間売上が5,000万円を超えたと話題にもなりました

それでも「明日にもお金がなくなってしまう」といった状況は何度かありましたよ。忘れもしないのは2013〜2014年の年末年始にかけてのこと。さらなる事業拡大を目指してマーケティング施策を仕掛けたところ、キャッシュフローが悪化し、マズいことになったと焦りました。資金調達をしてなんとか乗り切りましたが。

一番苦しかったのは2014年に入ってからですね。2013年3月まで前年比250%くらいで成長していましたが、4月に入って増税がスタートした途端、売上が半分程度に下がってしまったのです。不要なコストをできるだけ削り、増税の影響が薄れてきた10月頃まで耐えしのいだのを覚えています。

ベンチャーである以上、浮き沈みがあるのは仕方がありません。一気に上がることもあれば、落ちるのも早いです。万一沈みそうになっても問題のないコスト構造を作ることが大事だと、身をもって感じました。

当時の経験から「固定費は増やしたくない」と常々意識しています。あのころの悪夢があるので、どれだけ資金調達できたとしても、豪華なオフィスは作りたくない。起業を目指す方には、常にワーストケースを想定しておくべきだとお伝えしたいです。

――― 資金調達に成功する秘訣は何かあるのでしょうか

まず、大前提として、この資金調達が自分たちにとって正しい選択か、目指しているビジネスや会社のあり方とフィットしているかどうか、自問自答を繰り返す必要があると思っています。

人さまのお金を預かるわけですから、重たい責任も発生しますし、ステークホルダーも増えます。意思決定にも慎重にならざるを得ません。必ずしも良い要素だけではないと、改めて理解しておくことが大事です。

その上で、いかに資金調達をするかですが、テクニックがあるかないかといえば、あります。サービスの社会的意義や競合に対する優位性などは、当然尋ねられますよね。それに備えて自問自答する習慣を持ってほしいです。

それと同時に、絶対の自信を持てるプロダクトづくり、会社づくりを行うこと。これが資金調達を成功させる上で、一番の近道になります。自信が揺らぐようなプロダクトを掲げて資金調達をお願いしても、決して上手くはいかないと思います。

○海外展開の前に国内で「なくてはならないサービス」を目指す

――― 最後に、今後の展望を教えてください

男性向けにサービスを展開する予定はあるかと、聞かれることがあります。しかし、メンズアパレルは女性と比べて市場規模が小さく、男性は女性とは異なり、特定のブランドだけを買う人か、ファッションに興味のない人の大きく2つに分かれるため、フラッシュセールのようなビジネスモデルは合わないと捉えています。

それに、まだMUSE & Co.自体、女性たちにとって「明日なくなると困るサービス」にはなっていません。今は特定のターゲットに向けてサービスをブラッシュアップし続けたい。国内でターゲットを拡大したり、グローバルで展開したりするのは、既存のサービスを磨ききったあとです。

まずは、女性たちに「買い物しやすい」「使いやすい」と感じてもらえるECサイトを目指します。現状、服を買おうとすると、雑誌を2〜3冊読むなど情報収集から始めますよね。その上で商品を探して比較検討して……と買うまで4ステップくらいあります。

MUSE & Co.は情報収集〜購入まで一気通貫できるサービスを目指します。服を探す時間もお客さまにとってはコストです。だからこそ、一番簡単に良い商品と出会えるサービスにしたい。お客さまからの声をもとにしながら、先々にはトイレタリーや消費財、嗜好品などのモノのほか、コト需要にも応えていきたいですね。

(池田園子)