左・TBS『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』番組サイトより/右・P-VINE,Inc公式サイトのECD紹介ページより

写真拡大

 先日も本サイトで取り上げたが、これに引き続き、ラジオDJ・映画評論家としても高い評価を受ける、ヒップホップグループ・RHYMESTERの宇多丸がSEALDsのシュプレヒコールの文化的価値について再び言及した。

 それは、10月10日放送『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』(TBSラジオ)でのこと。ゲストに音楽ライターの磯部涼、日本語ラップ黎明期の80年代後半からジャパニーズヒップホップに関わり続けて反原発デモなどの社会運動にも盛んにコミットしてきたラッパーのECD、そしてSEALDsの中心メンバーでありラッパーでもあるUCD(本名:牛田悦正)を迎え、「ニッポンのデモ最前線2015 〜あるいはデモのリ・デザインに見る、日本語ラップの影響とは?特集」と題し、「新しいデモのかたち」について言葉が交わされた。

 先日の本サイト記事でも指摘したが、SEALDsの提示した新しいデモのかたちには、10年ほど前に直接の起源となるようなものが存在した。いわゆる「サウンドデモ」である。トラックの荷台でDJが音楽をかけたり、バンドが演奏したりと「エンターテインメント」とつながるようなひと工夫を入れた、従来のデモとはまったく違うスタイリッシュなデモ。それは、普段政治問題などに興味をもたない若者の支持も得て、大きなムーブメントへと発展し、後の反原発デモにもつながっていく。ECDと磯部はそのサウンドデモにかなり深く関わっていたのだが、サウンドデモはどのようにして始まっていったか、ECDはこう振り返る。

「最初にサウンドデモをやろうっていう目的があったわけではなくて。イラク反戦ということで、なんか新しい形でデモができないか?っていうことを始めようとした人たちが僕の周りに、まあ簡単に言うと、キミドリの石黒とかがなんか、そういうことをやろうとしてるぞっていうんで、僕も、呼ばれてっていうか。『石田さんはじゃあ、あの、新しいコールとか考えてくれませんか?』っていう。っていうのが、最初、オファー的にはあって」

「キミドリの石黒」とは、思春期特有のぼんやりとした不安をヒップホップの歌詞に落とし込んだ伝説のラップグループ・キミドリの石黒景太のこと。彼はミュージシャンとしてのみならずデザイナーとしても高い地位を確立している。彼は当時「スタイリッシュ」でない従来のデモのあり方についてこう語っていたと磯部は証言する。

「旧来型のデモっていうのは、『ダサい』っていう言い方は彼はしなくて。『デザインの余地がある』みたいな話をしてたんですね」
「『いま、デザイナーとしていちばんやりたい仕事は何ですか?』みたいに、何気なく聞いた時に『デモだね。デモがいちばんデザイン足りてないと思うから』っていう言い方を彼はしたんですね」

 彼らはなぜこのように考えたのか? 「街頭デモに参加する」という行為は、「道行く人の視線を浴びる」ということに直結する。だから、「デモ」という表現を見栄えよく「デザイン」することは決しておろそかにしてはならないことだった。

「そもそもデモに参加すること自体が、見る側から見られる側に。やっぱりデモって可視化することだから。どうしても、そこのハードルだけは越えなきゃいけなくって。で、越えた人しか来ないわけよ。デモには。特に街頭のデモとかは、参加するともうすぐわかるんだけど、渋谷の公園通りを車道を下って行くともう、ものすごい視線を浴びるわけ。っていうところを、一線を越えた、そのハードルを越えちゃったらば、やっぱりかっこよくなかったら士気も上がらないし、せっかくこっち来てんのにっていう。(中略)そこはちゃんとデザインしてあげないと。参加する人に失礼っていうのもあるし」

 そして、磯部もこう付け加える。

「ルーティン化してるっていうか、『ああ、デモね』みたいな感じに通っている人に見られちゃうんじゃなくて、『こういうデモもあるんだ』とか、そういうまず、『ちょっと意見聞いてみよう』っていう風に思わせるっていうのがデザインの力みたいなのもあるのかな?って」

 これは、SEALDsにも共通する考えだ。国会前デモに実際に参加した人がSEALDsのデモを見てとりわけ印象に残るのは、クールにデザインされたフライヤーやプラカード。それは、仰々しい自分の所属団体ののぼり旗を立てているような従来のデモとは明らかに異質なものだ。もちろんそれは意識的に行っているものである。高橋源一郎とSEALDsの対談本『民主主義ってなんだ?』(河出書房新社)には、牛田と奥田愛基の「デザイン」に関するこだわりがよく分かるエピソードが収録されている。SEALDsの派生団体SEALDs TOHOKUが初めてデモを行った時の逸話だ。

牛田「手書き文字で横断幕を作ろうとしていて。高校の文化祭みたいなデザイン。下書きしてないから「SEALDs TOFOKU」になっちゃってる(笑)」
奥田「僕らがやるとちゃんとしたものになるんだけど、初めてだったから......。使ってる言葉も「学生デモパレード」ってあって、「えっと、これ、何ですか」って(笑)」
牛田「戦争法案、ヤバいっしょ」って書いてあるんだけど、「ヤバいっしょ」は型をつくってスプレーでやってるから綺麗だけど、「戦争法案」は明らかに手書き。いろいろ突っ込みどころ満載だよ」
奥田「その画像見てちょっとヤバいと思って、僕が仙台まで行ったんですよ。「あのさ、いいんだけど、どういう人たちに伝えたいと思ってる?」ってところから始まって、コンセプトを聞き出して。そうしたらデモパレードにしてるのは、デモって言葉が強すぎるからパレードをつけてみたってことらしい。緑と黄色をイメージカラーにしたかったらしいんだけど、「えーと、緑がダーク過ぎるし、どんなことやりたかったの?」って言ったら、「そんなこと考えなかった。必要だからやろうとしたけど、コンセプトって大事ですね」みたいな話になった」
(中略)
奥田「俺らはフォントがどうのこうのとか、一ミリずれてるとやり直ししたり、させられる。TOHOKUもけっきょく最後はすごいこだわって、準備に時間かかったらしいけど」

 人に何かを伝えようと思ったら、その中身をきちんとしたものに詰めていくことは当然ながら、人々がその主張に耳を傾ける気になるよう、その表現の仕方を「整え」、「デザイン」していくこともやはり必要なことだ。これまでデモを牽引してきた社会活動に関わる人々はその努力を怠ってきた。だが、サウンドデモに関わる一連の人々、そしてSEALDsの面々は、表現を洗練化させるために決して手を抜かなかった。

 その点は、先行者であるサウンドデモも、SEALDsも変わらないのだが、SEALDsは先駆者がなしとげられなかった改革をなしとげる。「シュプレヒコール」の改革だ。

 ニュースなどでSEALDsのデモの様子を見ると、「リードコーラー」と呼ばれる先導者の言葉に、周囲の人々が大声でコール&レスポンスしているのが印象的だ。しかし、この状況は一朝一夕につくれるようなものではないという。デモ参加者にとって「声を出す」というのは、なかなか心理的ハードルの高い行為だ。長年コーラーを務めてきたECDも前出のラジオで、反原発デモの時もコールに対してなかなか声が返って来なかった事実を明かしながらもこう語る。

「とにかく参加者がちゃんと声を出す感じにしていきたいっていうのは、一応ラッパーとしてっていうか、デカい声が出る人として(中略)声を出すことにハードルが低い人としてやろうっていうのは、それはねずっとあったかな」
「(SEALDsのデモに関して)こんなに声、返ってきている感じって、やっぱり国会前初めてだと思うよ」

 ベテランのラッパーとしてキャリアを積んできたECDをもってしても、参加者がコールを返しやすい環境をつくるのは難しかった。そんな状況を知ってか知らずか、SEALDsはここにひと工夫を加える。それは、コールの練習。そして、「○○はんたーい!」のコールに対して「○○はんたーい!」と返す旧態依然としたシュプレヒコールをもっとクールなものにしたことだった。まず、練習について、前掲の高橋源一郎との対談本ではこのような記述がある。

牛田「デモ前日に(中略)紙に印刷したんですよ」
奥田「練習したよね。デモが始まる三十分前に集まって、「コール練習しまーす!」って」
牛田「「言えますかー?」とか言ってね。毎回練習やってるんです。配るチラシにコールの内容を書いてある」

 また、牛田は前出のラジオでこうも語っている。

「コール班みたいなのがあって。コールラインみたいな。で、アーカイブしておくんですよ。いままで出てきたコールみたいなのをアーカイブしておいて、慣れてない人はそれを見ながら、まあ、だいたい2回から4回で変えるみたいなのをちゃんと決めて、指導してるんです。ちゃんと。声の出し方の指導」

 この練習により、「民主主義ってなんだ?」というコーラーの声に「なんだ?」とだけ返したり、「憲法!」というコーラーの声に「守れ!」と返すなど、複雑かつ洗練されたシュプレヒコールが可能になった。今までの「○○はんたーい!」の声に「○○はんたーい!」と返すのは、「唱和」や「チャント」と呼ばれる。一方、コーラーの声に反応し、違う言葉を返すSEALDsのようなかたちは「コール&レスポンス」と呼ばれる。ヒップホップでおなじみのアレだ。その誕生にはこんな経緯があると言う。

「海外のデモでそういうコールがあって。それはシュプレヒコールじゃなくて、コール&レスポンスなんですよね。それはオキュパイ・ウォール・ストリートで"Tell me what democracy looks like"とコールすると、参加者が"This is what democracy looks like"って返すんですよ。驚いた。こっちが言う言葉と返す言葉が違う!(笑)。それってどうやったらできるのかなって思って。だってシュプレヒコールって、同じことをくり返して言ってるものじゃないですか。そんなの、見たことなかったから、それの日本語訳をやりたいと思って。その後に「民主主義ってどんな感じ?」、とかいろいろ訳をつくってみたりして。いろいろ出した中では「民主主義ってなんだ?」がしっくりきた。でも「民主主義ってなんだ?」をくりかえすのはテンポ的に言いにくい。だから「なんだ?」って言ったら「なんだ?」って返せばいいじゃんって」(前掲『民主主義ってなんだ?』より)

 そして、SEALDsがデモ活動における「言葉」と「演出」の改革において、もうひとつ特筆すべきはデモにおける「スピーチ」だ。SEALDsのデモでは、メンバーがスピーチを行うが、そこで使われる言葉も、これまでの活動家が使ってきたような型にはまった言葉ではなく、個人の体験などに基づいた血肉の通った言葉であり、これまで社会運動の場でとられたものとはまったく異質な表現方法であった。

奥田「どういうスタイルがいいかって考えて、源一郎先生にも相談しに行きましたよね。コールばっかりも嫌だなと思って。これまでも同じことを同じ形で、ずっと言い続けてるから。「九条守れ」とか。普遍的な言葉なんだけど陳腐になっちゃってて、「またその言葉か」って思われがちかなって」
高橋「そういえば、そういう話をしたよね」
奥田「「個人的な言葉が大事だよ」って言ってもらって。それでコールも日常的におもしろいと思ってる言葉じゃないとって」
牛田「すごい影響受けたよね」
奥田「で、コールだけじゃなくて、半分はスピーチだったらいいかもなって。そのときからみんなiPhoneでスピーチを読むようになった」(前掲『民主主義ってなんだ?』より)

 また、そのスピーチ演出も、これまでとは全く違う、若者世代ならではのものであった。

高橋「デモやりながら、サウンドカーの上でスピーチ。これは新しいスタイルだったよね。誰が考えたの?」
奥田「いろいろ見て。けっこう海外のスピーチは参考になりました。チャップリンのスピーチとか。海外じゃないけどいとうせいこうさんとかも、半分音楽みたいな感じで。あと、キング牧師のスピーチもすごいリズムがついてる。何回も韻を踏んだりとかリフレクションがあって。俺ら的には「やってることがヒップホップだ!」みたいな(笑)」
牛田「これ、コール&レスポンスじゃん!」って」
(中略)
奥田「日本語のスピーチは上手い人があんまいないんですよ」
高橋「そうだね。あとね、日本語はそういうスピーチに向いてないんだよね」
牛田「そう、強い主張に向いてない」
奥田「それをいかに演出するかっていうときに、ヒップホップのサウンドだろうって。二人ともラップの中でもポエトリーリーディングっぽいのがいいなって話になった。ブルーハーブみたいな」
牛田「あと不可思議/wonderboyって人」
奥田「Shing02とか」(前掲『民主主義ってなんだ?』より)

 ブルーハーブ(THA BLUE HERB)もShing02も、90年代後半から日本のアンダーグラウンドヒップホップシーンでカルト的人気を保ち続けている日本語ラップ界のビッグネーム、そして、不可思議/wonderboyは、2011年、24歳の若さで夭逝してしまったポエトリーリーディング界の若き俊英。谷川俊太郎との共演などでも知られているラッパーだ。SEALDsの面々は、「自分の言葉」で文章を綴りながら、ヒップホップの話法に影響を受けスピーチを行った。

奥田「でも韻踏めるだけ踏もうって、こいつがいろいろ考えて。「特定」と「秘密保護法反対」で踏めるとか」
牛田「俺はラップする感覚で、切るならここってポイントが「特定!」「秘密保護法!」なんです」
奥田「「特定」で切って、「秘密保護法」を裏(拍)から入るっていうね」
牛田「しかも三連符で入るんですよ」
奥田「ムズい!(笑)。最初はそれすらできなかった。でもやってみたらちゃんとハマった。ただ、スピーチのクオリティが大事だと思った。なるべくすらすら言えたほうがいいと思うし、何を言ってるかわかんないのはまずいから、マイクの持ち方から考えたほうがいい。そういうことがあったから、二回目はちゃんと「スピーチ読み合わせ会」をやったんですよ(笑)。そしたら名スピーチ続出で、当日がすげぇ楽しみになった」(前掲『民主主義ってなんだ?』より)

「フライヤーやプラカード」「シュプレヒコール」「スピーチの言葉」、デモにまつわる諸要素を改革したSEALDsの影響は、全国各地に波及している。特に、高校生を中心としたT-ns SOWLはAvicii「Wake Me Up」などのEDMに乗せて「とりま、廃案!」「それな! それな!」と、ものすごいスピードでコール&レスポンスを繰り広げるなど、大学生を中心としたヒップホップの影響の強いSEALDsとはまた別の進化を遂げている。ただ、デモを「おしゃれ」で「かっこいいもの」にしたいと工夫を入れるのは、まさにSEALDsが用意した道であり、彼らなくしてこのような現象は起きなかったと言っていいだろう。

 今回の安全法制をめぐる問題のなかで、「デモ」という民衆が持ち得る政治行動にこれだけの注目が集まったのは、まさにSEALDsを中心とした若者たちの功績なわけだが、一方、これまでとはあまりにも異質な彼らのメッセージ発信方法を揶揄する声も、特にネトウヨなどから多くあがっている。最後に、前出のラジオで語られた、それらの声に対するアンサーを引いて本稿を閉じたい。

磯部「今回はまあ、コールっていうところに着目して。音楽的にも聞けるんだっていうことで、デモの外側ですかね、ガワみたいなところに着目していったわけですけど。それに対する批判としてね、『じゃあ、中身はどうなんだ?』みたいに言う人ももちろんいると思うんですけど」
宇多丸「『中身は何でもいいのかよ?』と」
磯部「もちろんSEALDsはそれでしっかりやっているわけですけど。ただ、新しいメッセージっていうのは絶対に新しいフォーマットっていうのを伴って現れると思うんですよね。という、新しいフォーマットがあるからこそ、新しいメッセージが届くし。SEALDsのコールの開発っていうのは、それをまさにやっていたと思っていて。だからこういう風に、コール。デモの外側っていうところに着目するのもあながち間違っていないのかなと」
宇多丸「その社会運動っていうのが停滞したっていうのが、それがたとえばメッセージそのものも硬直化されてくるしっていうことなのかもね」
牛田「そうやって伝えたい。つまり、それぐらい俺たちは本気なんだぜ!っていうことなんですよ。そういう風にしてでも伝えたいぐらい本気だっていうことです」

 現段階で本人たちが語るところによると、少なくともSEALDsは来年の参院選までは活動し、それで解散するということらしいが、せっかく芽吹いた若者たちの政治的関心を絶やさないためにも、これから先も旧態依然とした社会運動を改革する動きが若い世代から出てくることを期待したいし、それを楽しみにしていきたい。
(新田 樹)