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東京都内のパチンコホールで「等価交換ルール」が11月から禁止される――。そんな業界のルール変更が、パチンコ・パチスロファンの間で話題となっている。

「等価交換」は、客が1玉あたり4円で借りたパチンコ玉を、同じ4円で交換する仕組みのことだ。これまで都内の多くのパチンコホールはこの仕組みだった。客が獲得した球は、タバコやお菓子などに交換することもできるが、特殊景品と呼ばれる金商品と交換して、近くの交換所で買い取ってもらうことができる。たとえば、ホールで250玉と0.1グラムの金商品を交換してもらい、さらに近くの景品交換所で現金1000円に交換してもらうという流れだ。

こうした「等価交換」の仕組みが、東京都遊技業協同組合(都遊協)の定例理事会の決定で変わることになった。換金に使われる「金商品」の提供価格が値上げされる。その結果、これまでは0.1グラムの金商品を手に入れるのに250玉あればよかったのが、280玉ないといけなくなる。

客がパチンコホールでパチンコ玉を借りるときのレートは1玉4円なので、280玉を得るには1120円が必要になる。ところが、280玉と交換した0.1グラムの金商品を景品交換所にもっていったときに、得られるお金は従来と同じ1000円だ。つまり、「等価交換」ではなくなってしまうのだ。

このような変更について、パチンコファンからは「ただでさえ出ないわ当たらないわの今の台で非等価になったらどうなるのか」などと悲しみの声が上がっている。今回のルール変更の狙いはどこにあるのか、風営法に詳しい山脇康嗣弁護士に聞いた。

●「等価」の意味は?

まず、今回の業界ルールの変更について、「等価交換不可」とか「脱等価」とか表現することは誤解を招きます。「ホールにおける出玉と賞品の交換(精算)は等価交換でなければならない」という法令上の原則自体は何ら変わっていないからです。

風営法を受けた国家公安委員会規則は、パチンコ営業について、「遊技の結果として表示された遊技球等の数量に対応する金額と等価の物品」を提供しなければならないと規定しています。これは賞品の提供方法に関する「等価性の基準」と言われていて、パチンコ業者(ホール)が客の射幸心をことさらにあおることを規制しているものです。

つまり、客が遊技の結果として表示された遊技球等の数量に対応する金額よりも高価な賞品を提供されると、射幸心をそそられることから、それを一定の範囲に抑制するための基準です。

●風営法は「三店方式」の換金を想定していない

問題は、何をもって「等価」とするかです。今回のルール変更は、都内ホールの多くがとってきた、悪しき慣習ともいえる「業界等価交換」(同じ価値での換金)を是正し、裁判例や通達(行政指導)がとる「市場価格との等価交換」(同じ価値での賞品交換)を徹底するというものです。以下、具体的に説明します。

「業界等価交換」とは、等価で換金できることを実質的に意味します。等価で賞品と交換ではなく、等価で「換金」というところがポイントです。そもそも、風営法は、刑法が禁じる賭博につながりかねない、いわゆる「三店方式」に基づく換金行為を想定していません。

そのため、法に基づく「等価性の基準」は、賞品価格については一般的な市場価格により判断せざるを得ません。高裁裁判例は、いわゆる特殊景品(景品交換所に買い取ってもらうことを前提とした賞品)であっても同様であると判示しています。「景品交換所での買取価格が1000円であるから、ホールで出玉と交換する賞品の価格についても、それを前提として判断すべき」という考え方は、本来通用しません。

「ホール外でホール以外の者によって換金される際に等価」という考え方は、ホールに対する規制として、そもそも根本的におかしいのです。実質的にも、ホールの負担で成り立つ「業界等価」方式は、ホール内における出玉と賞品との交換についてみれば、「逆ザヤ」が生じており、射幸性をあおっていると評価されます。

今回の業界ルールの変更は、ホールが出玉と賞品を交換する際に、少なくとも、「仕入れ価格+仕入れ経費」を下回る価格(特別な割引価格)では賞品を提供しないことを徹底し、裁判例や通達がとる「市場価格との等価交換」を遵守するためのものです。これによって、ホールにおける「逆ザヤ」が解消されるとともに、結果として、景品交換所を通じた換金の利幅が小さくなります。

パチンコ業界に対する社会的な風当たりが強くなった

このように、射幸性を抑制するために、業界が、適切な賞品提供の徹底を自主規制で行うというのは、依存症問題を含め、パチンコ業界に対する社会的な風当たりが強くなっていることと無関係ではないでしょう。

パチンコと対比されるという意味で、カジノ解禁法案の国会提出も、プレッシャーの一つになっていると思われます。業界による今回のルール変更は、射幸性の抑制を自主規制として示すことのほか、営業利益の確保と時間消費型の大衆娯楽としての生き残りを図ったものでもあります。

業界等価をやめることによって、これまでホールが負担していた、「仕入れ価格+仕入れ経費」との差額分だけ、ホールの営業利益が増えることになります。そうすると、ホールは、利益の還元として、難易度を低く設定して玉を出しやすくなります。玉がなくなるまでの時間が長くなるため、客は長い時間遊べるようになり、ライトユーザーのパチンコ離れを食い止める効果を狙えます。

このように、今回の業界ルールの変更は、射幸性抑制の自主規制を示すことによって、厳しい風当たりを避けつつ、大衆娯楽としての生き残りを図るという戦略と結論付けられそうです。

もっとも、ホールが、浮いた経費の分だけそのまま難易度の設定を甘くするとは限りませんし、消費者の行動も単純ではなく、実際には様々な要素によって決定されます。パチンコに対する法規制の行方も不透明であることから、業界が思う方向に進むかどうかは予断を許さないと考えます。

(弁護士ドットコムニュース)

【取材協力弁護士】
山脇 康嗣(やまわき・こうじ)弁護士
慶應義塾大学大学院法務研究科修了。入管法・国籍法のほか、カジノを含む賭博法制(ゲーミング法制・統合型リゾート法制)や風営法に詳しい。第二東京弁護士会国際委員会副委員長、日本弁護士連合会人権擁護委員会特別委嘱委員(法務省入国管理局との定期協議担当)。主著として『詳説 入管法の実務』(新日本法規)、『入管法判例分析』(日本加除出版)、『Q&A外国人をめぐる法律相談』(新日本法規)、『外国人及び外国企業の税務の基礎』(日本加除出版)がある。「闇金ウシジマくん」、「新ナニワ金融道」、「極悪がんぼ」、「鉄道捜査官シリーズ」、「びったれ!!!」、「SAKURA〜事件を聞く女〜」など、映画やドラマの法律監修も多く手掛ける。
事務所名:さくら共同法律事務所
事務所URL:http://www.sakuralaw.gr.jp/profile/yamawaki/index.htm