羽生結弦にとって今シーズン初戦のオータムクラシック(カナダ、バリー)。10月14日のショートプログラム(SP)を終えた羽生は、表情を緩めなかった。

「6分間練習でもいい感じに仕上がっていましたし、その前のウォーミングアップの時点でもわりと感触のいいものができていたと思います。トリプルルッツ+トリプルトーループも堪えることができましたけど、4回転トーループ(のミス)に関しては悔しい限りです」

 SP当日、昼の公式練習では、曲をかけた時こそきれいに決まった4回転トーループだが、その前後では乱れが見えていた。また、練習時間後半には転倒を2回繰り返し、終了間際まで羽生は修正に務めていた。

 そして、試合前の6分間練習でその成果が表れた。トリプルアクセルを完璧に決め、一度両手を広げてジャンプの入り方を確認すると、細かなステップを繰り返したあと4回転トーループをきれいに決め、もう一度完璧に決めると納得した表情で滑りを確認してリンクから上がっていたのだ。

 だが、試合で4回転を後半に入れる構成のSPに挑戦するのは昨年11月の中国杯以来。やはりその緊張感があったのだろう。冒頭に入れていたイーグルからのトリプルアクセルを完璧に決め、ふたつのスピンもスピードに乗ってこなしたが、後半に入ってすぐの4回転トーループは転倒こそなかったが氷に軽く手をついてしまうミス。回転不足と判定された。そして6分間練習ではきれいな軸で跳んでいた3回転ルッツは軸がやや斜めになってしまい、窮屈な感じでトリプルトーループを付ける形になってしまった。

「4回転トーループもそこまで苦戦しているというわけではないですが、後半に入れると(難しい)......という固定概念が若干あるのかなと思います。あとはタイミングであったり上半身の使い方だったりもありますし、今までとは違うステップを入れてから(のジャンプ)ということも大きな原因かもしれません」と羽生は分析して振り返った。

 最後に力強さとキレのあるステップで流れを取り戻し、演技を終えた羽生の得点は93・14点。グランプリシリーズ初戦のスケートカナダ(10月30日〜)へ向けて追い込んでいる状態ということを考えると、上々のスタートだった。

 翌日のフリーは、昼の公式練習ではジャンプの確率が上がっており、試合では冒頭の4回転サルコウは着氷で少し尻を落としながらもこらえ、GOE(出来ばえ点)を1・80点もらう滑り出しとなった。ただ、試合直前の6分間練習まではきれいに決めていた次の4回転トーループは軸が斜めになってしまい、わずかに手をついてしまうジャンプに。さらに、課題にしていた後半の4回転トーループからの連続ジャンプは回転不足になり、転倒してしまった。

 それでも羽生は、「もちろん同じジャンプということもあるので、客観的に見れば後半の4回転へ向けて心配になるとは思いますけど、今回はいい意味で『後半は後半だ』とある程度割り切れたと思う」と、前向きだ。

 ただし、重要な得点源であり得意とするトリプルアクセルからの連続ジャンプは、最初の2連続は後半が2回転トーループになってしまった。続く3連続ジャンプは最初のトリプルアクセルも、重心が下に落ちてしまう着氷になり、予定していたセカンドとサードジャンプを付けられなかった。その点について羽生は、「あの(4回転の)失敗のあと、それを少し引きずってしまったのかなという部分もある」と反省を口にする。

 それでも「ループからの3連続は初めて」と言う、次の3回転ループ+1回転ループ+3回転サルコウのコンビネーションで挽回した。「ぶっつけ本番でしたが、アクセル2本の失敗があったからこそ冷静になって、ああいう判断ができたのだと思う」と本人が話すとおり、状況に対応する判断力が光った。

 羽生は、最後の3回転ルッツもきれいに決めて1・4点の加点をもらうと、続く2種類のスピンでともにレベル4を獲得。そして、疲労が出る演技終盤のコリオシークエンスでは力強さと迫力のある滑りを見せて184・05点をマークし、合計277・19点で2位のナム・グエン(カナダ)に36・09点差をつけて優勝した。

「正直悔しい点がすごく多いですけど、得点は自分が思っていた以上に評価していただけたのかなと思います。まだまだ4回転3つという構成でしっかり決められないというのは悔しいです。でも、初戦で試合勘もないなかでの演技で、サルコウとトーループの4回転を耐えてしっかり立てたのはひとつの収穫でしたし、次のスケートカナダへ向けて課題が見つかった試合になったと思います」

 2年前までのフィンランディア杯とは違い、本拠地トロントから車で2時間ほどのバリーで戦ったシーズン初戦。まだGPシリーズへ向けての強化の途中でもあり、いつもとは氷が違うリンクでの試合だった。

 昨年よりつなぎも複雑になり、難度も高くなったプログラムを実際に演じて、「試合という緊張感の中で、特に後半の4回転に関しての感覚をつかめた試合だった」と話す羽生。結局、最後まで表情を緩めることはなかったが、彼にとってはこれからエンジンの出力を上げてシーズンへ向かうための、いいスタートとなる大会になったといえる。

折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi