ギュッと抱きしめてくれるぬいぐるみ、触るとガラスが割れる(?)ショーケース...ショッカソンが示す触覚デバイスの可能性

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触覚を使った新しいデバイス、サービス、体験を作ろうというアイデアソン&ハッカソンイベント「ショッカソン」が2014年に続き、今年も開かれました。ギュッと抱きしめてくれるクマやかかとに仕込んだバイブの振動で道路情報をナビゲートしてくれるくつ、遠隔地に「なでる」しぐさを届けるシステム、話す振動を耳に直接伝える糸電話(?)......などなど、さまざまなアイデアがプロトタイプという形になって出てきました。

触覚デバイスがやってくる日



視覚や聴覚を刺激するテクノロジーは私たちに新しい体験を見聞きさせてくれましたが、いま次の感覚として注目なのが触覚です。皮膚が対象物に触ることで感じる刺激や感覚で新しい何かを生み出す、またARやVR、センサー類と組み合わせることでもっと強い体験を与えるものになるのではないかと期待を集めています。

触覚の研究は関連学会、大学の研究室、企業のR&D機関などで行われていますが、それらはまだ一般のエンジニアが扱える素材にはなっていません。

たとえば振動や電気的な刺激を使って人間の身体に直に情報を伝えること。伝える刺激を意味のある"情報"とするにはある程度の細かさ、高精細さが必要です。となると精密に制御する必要性が増し、ときには特殊な装置が必要になってくることもあります。そのため、まだまだエンドユーザーが用いるデバイスとして本格的なものはまだ出ていないというのが現状です(ゲームコントローラーやスマホのバイブとか、一部の機能にありますが)。

とはいえ、VRデバイスもOculus Riftが出るまでは非常に高額なものというイメージでしたし、Kinectの登場でモーション認識の世界は一気に広がりました。

そう、いま触覚に寄せられている期待もまさに"それ"なんです。

そんな中、2014年夏に富士ゼロックスとスパイスボックスが開催したのが「ショッカソン」です。企業や大学の研究室が開発している最先端の触覚関連の技術・デバイスを使って新しい何かを作ろうというもの。今回の記事で紹介するのは、その待望の第2弾「ショッカソン2015」です。実行委員会にTokyo MotionControl Network(TMCN)も加わり、よりコミュニティも拡大した印象です。

アイデアソンとハッカソンを分けて実施。9月23日のアイデアソンには100人以上が参加しました。協賛企業や大学などが提供する技術やデバイスのレクチャーを受けつつ、アイデア出しを行い、チームを作ります。そこから10チームがハッカソンに進みました。

10月3〜4日のハッカソンでは、ハッカソンから新規に参加した3チームが合流し、合計13チームがプロトタイプの制作に着手しました。



カオスなデモから見えてくるもの


デモタイムはそれぞれチームのブースを回る形で、そのデバイスでどういう体験が得られるのか実際に体験します。審査員だけでなく、他チームの参加者も入り乱れてのデモ。そういう点でもカオスな感じだったのですが、出来上がった作品の方向性がそれぞれ見事なまでに多種多様で、ひとことで言うとカオス、だったんです。

ここで、作品を紹介する前に、素材としてどんなものがあったのか見てみましょう。

たとえば、次のようなもの。

TECHTILE toolkit

物体や身体から触感を記録し、フィードバックすることで触感を再生する「触感表現ツールキット」。音響信号で触感の記録と再生を行うというもの。

(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科)

小型超音波集束装置

空中超音波触覚ディスプレイを小型・軽量化したデバイス。直径1cm程度の範囲に集中した圧力を発生することで、3次元空間に非接触で力を生み出すことができるというもの。

(名古屋工業大学星研究室)

小型電気触覚ディスプレイキット

指先用の小型電極を使った61ch刺激キット。指先に電気刺激を与える装置としても使えるし、指先からのセンシングで触覚ディスプレイ、タッチパネルにもなるというもの。

(電気通信大学梶本研究室)

ここに上げたのはごく一部ですが、エンジニアにとって、こうした最新の技術を実際に使えることは非常に貴重な機会でしょう。そのほか、Unity、Little Bits、my Thingsなどさまざまな企業の協賛が多数あり。はた目に見ていて、ここにLittle Bitsを(こんなに)使いますか! 的な使われ方もあり、なんて恵まれているんだろうとため息が出ました。

もちろん提供物を使わなくてもOK。目的は、触覚に関する最新の技術やデバイスを使うことではなく、新しいサービスや体験を作ることですから。

それでは、どんな作品が出来上がったのかいくつか紹介しましょう。どの作品も強烈だったのですが、(いい意味でも悪い意味でも)個人的に「これは!」と、ぐっと来たものを上げています。

抱きしめくまきゅ:チーム名「抱きしめリュック」


クマのぬいぐるみを抱えて、「ギュっとして」とお願いすると、前足でギュっとしてくれるというもの。音声認識で反応してくれる優れもの。制御はArduino。耳に感圧センサも仕込んであり、そこもトリガーになるそうですが、オススメはやはり言葉でお願いすると反応してくれるところ。「ギュッとして」なんて普段の生活で口にする機会は少ないわけで、それを自分が口にすること自体が精神的癒やしになっているのではないかと思います(さらに、それに対する反応がちゃんと感じられる!)。

ちなみにクマが前足をギュっとする動作はサーボモーターとタコ糸で実現しており、サーボーモーターの出すキュっという音も、クマが鳴いているようでかわいいです。

モフミ:チーム名ハフミ


コンセプトは「かわいい女の子とおっさんをつなぐ」こと。モフモフのぬいぐるみ「モフミ」をなでると、その先にはヘルメットを被ったおっさんがいて、そのナデナデを味わえます。VRで流れる映像には、かわいい女の子キャラが登場。ナデの動作と同期したアニメーションが表示されます。

モフミに内蔵した触覚センサーが、人が触れた感触をヘルメット側のバイブに伝えます。話だけ聞くと「ほんとにー?」と真実味が薄いのですが、実際に体験してみると、ヘルメットの動きが自然に感じられるのが不思議です。VRの効果とうまく融合したよい例なのかも。

触っちゃダメ Glass Box / 誰かいるDoor / ピンポンダッシュスクリーマーズ:チーム名触っちゃダメゼッタイ!


人にさわってほしくないもの(たとえば美術館の展示作品など)を「さわらないでください」という言葉だけではなく、何か注意を喚起するような動作を起こすことで伝えようというもの。

「触っちゃダメ Glass Box」は、ケースにふれるとガラスが割れた音や振動で、ふれた人に「やっちゃった、まずい」的な感情を想起させます。「誰かいるDoor」はドアノブをつかむと、ドアの向こうから引っぱられる動きが起こります。「ピンポンダッシュスクリーマーズ」は、ピンポンダッシュ防止のドアピンポン。穴の中に指を入れると、ピリっとした電気的な刺激にプラス、上部にいかにも刺しそうな虫の大群が......。個人的に、これが一番臨場感のある体験でした(虫が嫌いな筆者でした......)。

うさでんわかなぁ〜?:チーム名100円ロボット部


「話す動作」を耳に直接届けるという糸電話。音の振動を増幅して紙コップに伝えて、中に仕込んであるモーターでシッポを回します。フワフワしたシッポが回る感じ、それが耳に当たることで新しい感覚を作り出すというもの。単純な動作の組み合わせなのに、体験してみるとそれが楽しい。自分の話したことが言葉以上に相手に伝わる感じがします。

ちなみにこの触感、審査員の落合陽一さん、大絶賛でした!

手のひらメッセージ:チーム名 手のひらメッセージ


小型超音波集束装置で、人の手に手書き文字を出力するというもの。このチームは、目(視覚)と耳(聴覚)の両方に障害を持つ盲ろう者のコミュニケーションを助けるデバイスを考えました。

そして、プロトタイプとして、手のひらに書かれた文字を当てるクイズや、PCからペンタブレットで書き文字を送るシステムを制作。手の大きさなどによる難しさはありますが、何か書かれているという感触は確かにあります。トレーニングすることで、かなりの確率で手書き文字を識別できるようになりそう。

前述のように、小型超音波集束装置は直径1cm程度の範囲に集中した圧力を発生することで非接触で接点を生み出すことができます。このチームの「それを使って文字の書き順を表現する」という発想と技術がすごいのですが、非接触で3次元空間に接点を作るというこの装置、とても大きな可能性を感じます。今回、このチーム以外にも小型超音波集束装置はいくつかの作品で使われていました。

遠隔Kiss装置:チーム名 触り砲台


キスの感触を遠隔の相手に伝えるというデバイス。唇に模したデバイスを双方が自分の唇に当て、キスする側の動作をセンシングして、相手側ではその動作を再現するというものです。

VRで映像を見ながらなので、没入感もかなりありそう。唇の感触に近いものとして素材にシリコンなども試したといいますが、一番近いと「こんにゃくゼリー」を採用したとのこと(デモでは、ラップを巻いていました)。

かかとウィンカー / どっとディスプレイ:チーム名 足裏ツーリズム


視覚障害者の課題を解決するデバイスとして、このチームが考えたのは「かかとウィンカー」と「どっとディスプレイ」。「かかとウィンカー」は、かかとに振動モーターを仕込み、その振動(の位置や順番)で左・右・停止などのナビゲートする歩行者用デバイス。将来的に、外側にLED表示をつけ、信号的に周囲に表示することも検討しているといいます。

また「どっとディスプレイ」は触覚で点字を表現しようというもの。点字を読むためのデバイスは非常に高価、それを低価格に実現できないかということから。

オリオンの憂鬱:チーム名オリオンをなぞる!!


星座の形を可触化するデバイス。触覚ディスプレイを使って星座の形をなぞる。正確になぞることができると視覚情報として星座ディスプレイに表示する(LEDがその形のとおり点灯する)というものです。

プロトタイプのデモの体験では、触覚ディスプレイで星座の形をなぞるというのは慣れないとちょっと難しいみたい。ただ、星座の形を触るという部分のおもしろさや、星座ディスプレイに表示されることでさわっている自分だけでなく、他の人にも自分がさわっている星座を伝えられるというのがロマンチックでよい感じです。また、星座ディスプレイのLEDの悪夢のような配線がインパクト大でした。

障害を持つ人の立場から見える実際の課題を解決しようというもの、触覚を遠隔での入出力に使うことで新しいコミュニケーションのスタイルを考えるというもの、VRと触覚を組み合わせ、新しいバーチャルな体験を生み出す仕組みであったり、いずれも、触覚が人に与える体験をわかりやすく形にしています。

大賞は「人が嫌と感じる感覚」を使ったデバイス


プレゼン・質疑応答を経て、審査の結果、大賞はチーム:触っちゃダメゼッタイ(「触っちゃダメ」「ピンポンダッシュスクリーマーズ」「誰かいるDoor」)が受賞しました。

チーム:触っちゃダメゼッタイ(左端はプレゼンターの東京工業大学大学院准教授 渡邊淳司さん、後列左端は大会委員長の東京工業大学 佐藤誠さん)

「触覚業界として、ただデモを見せる、技術を見せるだけじゃなく、これからもう少し生活の中で触覚関連の技術が溶け込んで使われていくようにしたいということがあり、生活の中の一部になるという意味で、今回の触っちゃダメゼッタイチームの作品は触覚の技術の1つの未来を示すものになるんじゃないかということで大賞に選出しました」(プレゼンターの渡邊さん)

もともとアイデアソンのときに、触覚というと気持ちがいいというところが着目されるが、そうじゃなくてもっと気持ち悪い、さわりたくなくなるドアノブとかあればいいよね、というところがアイデアの種。そこから不快感の触感をデザインして、何か人を遠ざけたりといったことに使えないかと考えたそうです。

そして、技術賞(触ってすごいで賞)はチーム:ハフミ(モフミ)。

チーム:ハフミ(左端はプレゼンターの落合陽一さん)

「審査員の中で最後までノミネートに残ったのは、ハフミ、触っちゃダメゼッタイ、手のひらメッセージ、抱きしめリュックの4チームだったんです。その中で、触ってすごいで賞はハフミに。体験としていろいろ工夫されていた点と作り込みがよかったというところ。なでられるところはもっとエロくできるんじゃないかなと思います!」(落合さん)。​

参加者の投票による参加者賞(触ってHappy賞)は「オリオンの憂鬱」(チーム:オリオンをなぞる!!)でした。

「チーム:オリオンをなぞる!!」(左端はプレゼンターの市原えつこさん)

楽しんでモノづくり+人にもしっかり伝える


とてもいいなと思ったのは、ショッカソンで提示したプロトタイプは作っているメンバーが楽しんでいるのはもちろん、出来上がったものがエンターテイメント性に富んでいて、人に伝える部分をないがしろにしていないことです。よりスムーズに社会の中の役割に転化するにしても、世の中の人にはじめてのものを理解してもらうとき、まずは知ってもらう、仕組みとその効果を理解してもらうことは重要です。デモおよびプレゼンを通して、彼らの考えたアイデアはきちんとそれが伝わってきました。

また、プレゼンの中で印象に残ったのは「デバイスを長く生かすためには、形や用途を変えても広く使われるよう転用できるものが必要になる。それも考えてください」という発言です(チーム:足裏ツーリズム)。障害者のための非常に良いデバイスが出たとしても、同時に、そのデバイスが一般にも広く行き渡り受け入れられる用途を持たないと、いずれ生産もサポートもストップしてしまいます。それが一番困ってしまうと。これは、当事者でないとなかなかわからない課題です。

触覚を深掘りした作品に期待


今回のショッカソンを見てどうだったのか、落合さん、南澤孝太さん(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科)に聞いてみました。

落合さん:触覚というと、どうしても「触覚のデバイス」として感覚に直接出すものが多い。だけど、それで出しちゃうと意味がないんです。装置がないとダメとなってしまう。触覚があるということは、物質がある、インタラクションがあるということだから、そこを深掘りした作品を期待してきました。そこまで考えられた作品が賞をとれたのかなと思います。

南澤さん:いつもあるちょっとエロ系のものもやはり存続していて、それはそれでエンターテイメントとして大事。そういうものはどんどん進化してゲームとかに入っていくだろうと。一方で、障害のある方を支援するというものが出てきたのは非常におもしろいと思います。実際に福祉などの役に立っていくというところがこれからの動きになっていくといいなと思います。大賞をとった作品は、それがもっと透明になっていて、自然に日常の中に入り込むという世界観を見せてくれた。最終的に、遊びとかエンターテイメント、福祉、全部ひっくるめて浸透していく。今回、そうした触覚の未来につながるネタ、方向性が見えたのがよかったなと思います。

触覚を使った新しいデバイスやサービスはあと何年後かに確実に登場すると思いますが、このショッカソンの取り組みはそうした新しい何かのヒントになりそうです。

大内孝子(おおうち・たかこ):フリーライター/エディター。主に技術系の書籍を中心に企画・編集に携わる。2013年よりフリーランスで活動をはじめる。IT関連の技術・トピックから、デバイス、ツールキット、デジタルファブまで幅広く執筆活動を行う。makezine.jpにてハードウェアスタートアップ関連のインタビューを、livedoorニュースにてニュースコラムを好評連載中。著書に『ハッカソンの作り方』(BNN新社)がある。