【サイモン・クーパーのフットボール・オンライン】
PSG台頭の立役者ジャン・クロード・ブラン(後編)

 CEOを務めていたジャン・クロード・ブランのもとで、ユベントスはセリエBへの降格が決まってもスター選手の大半を残留させることに成功した。GKのジャンルイジ・ブッフォンは「降格が決まる前からクラブを離れる決意をしていた」と、ブランは言う。降格決定後、ブッフォンはブランに対し、クラブに1シーズン残ってセリエA復帰を目指すと語ったという。しかしブッフォンは、1シーズン残った後に他のクラブからオファーがあったら、ユベントスを離れたいと言ってきた。

 1年後、ユベントスがセリエA復帰を決めた後、ブッフォンはうつろな表情でブランのもとを訪れて言った。「ミランからオファーをもらった」。ブランは答えた。「1時間くれないか。そうしたら、きみがクラブに残るべき理由を説明しよう」

 ブランは言う。「私たちはトロフィーの並ぶホールで、ジジ(ブッフォンの愛称)に向けてプレゼンを行なった。スポンサーになってほしい企業を説得するときと同じことをやった。彼の周りにパネルを設けて説明した。彼がクラブの歴史のなかでどれだけ重要な存在か。なぜ彼が次のキャプテンになるべきなのか。ユベントスはどのようにしてセリエAのトップに返り咲き、すべてを勝ち得ようとしているのか。なぜ彼がチャンピオンズリーグ決勝でもう1度プレーすべきなのか。ユベントスの歴史でGKがどれだけ重要な地位を占めてきたか。そして──なぜ彼が、われわれのプロジェクトに欠かせないのか」

 プレゼンの後にブッフォンは、もしミランと同じ条件をオファーしてくれるなら、ユベントスに残ると言った。ブランは了承した。今もブッフォンはユベントスにいる。そして「この間、チャンピオンズリーグの決勝でもプレーした」と、ブランはつけ加えた。

 ブランはイタリアが大好きだった。彼と子どもたちは、フランスとイタリア両方の国籍を持っている。ブランのもとでユベントスは、イタリアで初めてクラブ専有のスタジアムを建設した。しかし2010年、ユベントスのオーナー一族出身のアンドレア・アニエリが会長に就任し、みずからクラブの陣頭指揮をとるようになった。

「あれにはがっかりした」と、ブランは言う。「でもオーナーが実際に運営したいと言うなら、それは仕方がない」

 幸いにも翌2011年、カタール・スポーツ・インベストメンツがパリ・サンジェルマン(PSG)を買収し、二流だったこのクラブをトップレベルに引き上げようと計画した。彼らはブランを雇った。

「私たちの仕事は、(PSGでキャリアを終えた)デイビッド・ベッカムと毎日お茶を飲むことではない」と、ブランはクギを刺す。「プロフェッショナルな仕事が必要とされる。350人のスタッフを取り仕切り、PSGというブランドを世界中で管理し、パリのスタジアムに年間130万人を迎える。もし明日、パルク・デ・プランス(PSGの本拠地)の階段を転げ落ちた人がいたら、その責任をとるのは私だ」

 PSGはチャンピオンズリーグ優勝を目指している。昨シーズンは準々決勝でバルセロナに完敗した。だが、とブランは言う。バルセロナはケガ人もおらず、出場停止の主力選手もひとりと、運に恵まれていた。PSGは何人もの主力選手を出場停止と負傷で欠き、代わりの選手がその穴を埋められなかった。

 いずれにしても、PSGの目標は「単にトロフィーを手にすることではない」と、ブランは語る。「私たちが目指すのは、スポーツ界に新たな足跡をしるすことだ。目標は、偉大なクラブに追いつくことではない。レアル・マドリードやマンチェスター・ユナイテッドやバルセロナと肩を並べることではない。そうではなく、ちょっと"謙遜"して言うと、私たちがめざすのはデジタル時代の最初の偉大なクラブになることだ。ソーシャルメディアがこれだけ発達し、情報がまたたく間に地球を駆けめぐる時代に仕事ができることは幸運だ。ズラタン・イブラヒモビッチ(PSGのストライカー)が何か言えば、瞬時に世界中に伝わってしまう。よくも悪くも」

 おそらく彼が思い浮かべているのは、3月にイブラヒモビッチが口にした「フランスは最低の国だ。PSGにはふさわしくない」という発言だろう。しかしブランは、もっと大きなところに目を向けている。新しいメディアのおかげで今のPSGは、レアル・マドリードがたとえば前世紀に獲得したファンをはるかに早く開拓できる。

 国際監査法人のデロイトによれば、PSGの売り上げは2013〜14シーズンに4億7420万ユーロ(約650億円)に達し、ヨーロッパのクラブでは5番目に多い。売り上げはさらに伸びるだろう。スタジアム改修計画の一環として、4万7000の座席の1割近くを企業が接待などに使うための契約に回すことも決めている。

 パリには高い席を買いたがっている企業がたくさんある。PSGのファンの間にはブランがクラブを儲け第一主義に走らせているという不満もあるが、彼は気にしていないようだ。

「今このときがクラブの成長にとって非常に重要だということが、肌で感じられる。やがて別の人たちがこのオフィスを担当するようになったとき、彼らにこう言わせたい。『2012年、13年、14年、15年......この時期を実にうまく使ったものだ』と」
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サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper
森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki