秋華賞に挑む「良血3強」の勝算(3)
■タッチングスピーチ編

 期待の良血馬がついに底力を見せた――。

 秋華賞トライアル、ローズS(9月20日/阪神・芝1800m)のタッチングスピーチ(父ディープインパクト)の勝ちっぷりを見て、そう思ったファンは少なくなかったのではないだろうか。

 なにしろ、今春のオークス(5月24日/東京・芝2400m)を快勝し、3歳牝馬路線の"主役"となったミッキークイーン(父ディープインパクト)を一蹴。「どっちが格上?」と聞きたくなるほど、鮮やかな勝利だったからだ。

 道中、タッチングスピーチは、最後方待機となったミッキークイーンのすぐ前をゆっくりと追走。4コーナーを回って直線に入ると、ミッキークイーンとほぼ同タイミングでスパートした。そこですかさず、外からミッキークイーンが競り潰しにきたが、タッチングスピーチはまったくひるむことなく競り合いを制し、最後は1馬身半突き放してゴールした。

 ミッキークイーンは、オークス以来の休み明けだったうえ、スタートで出遅れる不利があった。だが、それを差し引いても、はたして結果は変わっていただろうか? それぐらいの強さと余力が、タッチングスピーチにはあった。

 この結果、ローズSでは7番人気と低評価だったが、秋華賞(10月18日/京都・芝2000m)本番では、ミッキークイーンと互角の本命候補に浮上するに違いない。

 注目すべきは、何よりその血統だ。

 母リッスンは、イギリスでGI勝ちがあり、全姉のセコイヤもアイルランドのGI馬。さらにその全姉の産駒には、イギリス、アイルランドのGIを4勝した名馬ヘンリーザナビゲーターがいる。まさに、欧州でもトップクラスの"血筋"と言っても過言ではない。

 片や、父は日本が世界に誇るディープインパクト。今さらそのすごさを説明するまでもないだろう。ちなみに、タッチングスピーチのひとつ下の全弟が、2014年の『セレクトセール』で2億6000万円という高額でカタールのファハド・アルターニ殿下に落札された。しかも殿下が、同馬を本場イギリスでのデビューを目指して輸出したことから、その配合は世界レベルで注目を集める"超"良血であることがわかるだろう。

 事実、関西の専門紙トラックマンによれば、タッチングスピーチはデビュー前から素晴らしい動きを見せていたそうだ。それゆえ、同馬の新馬戦から前々走まで手綱をとっていた福永祐一騎手は、デビューを前にして「牝馬クラシックは、この馬で行きたい」と、関係者に漏らしていたという。

 しかし、期待された春のクラシック出走は叶わなかった。桜花賞トライアルのチューリップ賞(3月7日/阪神・芝1600m)を9着と惨敗。オークス出走を目指して挑んだ忘れな草賞(4月12日/阪神・芝2000m)も、見せ場なく8着に沈んだ。

 おかげで、世間の評価は急落したが、前出の専門紙トラックマンは、「(敗れた前哨戦は)それぞれ、明確な敗因があった」と語る。

「(惨敗した)ふたつのレースとも、この馬が力を発揮できる状況ではありませんでした。苦手の道悪の競馬を強いられたり、レース前に発熱して、それが尾を引いたりしていた。決して、タッチングスピーチの能力が足りなかったわけではありません」

 そして、その見解の正しさは、4カ月ほどの休養を経てからの復帰戦で証明された。8月の札幌競馬場。500万条件(芝2000m)のレースで、タッチングスピーチは古馬相手に快勝。最後方から鮮やかな差し切り勝ちを収めた。

 特筆すべきは、34秒2という同レースでマークした上がりタイムだ。再び専門紙トラックマンが解説する。

「洋芝の札幌で、さらに外を回って、あの上がりタイムを記録して勝てる馬はそうはいません。34秒2という時計は、新潟競馬場であれば、32秒台に匹敵するものです。あのレースを見て、タッチングスピーチの能力は相当高いな、と改めて思いましたね」

 休養を経て、ガラリと一変というか、ようやく持てる力を発揮できるようになったと見るべきだろう。その意味では、ローズSの快勝も「想定内」だったと見ることができる。タッチングスピーチは、それぐらいの"器"である。

 武器は、オークス馬を完封した非凡な末脚。いまだ進化の途中で、一段と磨きがかかれば、「ブエナビスタやジェンティルドンナ級に育つ可能性もある」と、関西の競馬関係者の間ではそれほどの評価がなされているという。

 とすれば、タッチングスピーチにとって、秋華賞はまさに"名牝"への試金石の一戦となる。京都内回りの芝2000mというコースは、直線が短く、彼女の末脚が不発に終わることも考えられるが、もしその条件を克服して栄冠を手にすることができれば、一気に栄光への道が開ける。

 タッチングスピーチは、秋華賞で"名牝"への第1章を刻むことができるのか。運命のゲートが、まもなく開く。

新山藍朗●文 text by Niiyama Airo