絶対王者の進化!より高みを目指す「和」への挑戦は、高難度・全部入りプログラム「SEIMEI」を得て期待感爆上げの巻。
絶対王者はまだ進化する!

絶対王者・羽生結弦氏の新シーズンが幕を開けました。まだオープン戦相当の段階とは言え、昨季からさらに前へと着実なステップを踏み出し、第一人者としての自身を改めて示すような戦いぶり。基本的にはスロースターターというか、シーズン後半へ向けて積み上げながら良化していく傾向を感じる羽生氏が緒戦からそれなりに仕上がっているとは。昨季のトラブルのぶんまで、今季に懸けようという想いを感じさせます。

今季、「和」をテーマにしたプログラムに取り組むことには大きな意義があります。「和」というのは日本人なら当然採り上げたくなるなるテーマ。そこには日本伝統の美意識であったり、日本人的な骨格や体力に沿った表現方法がある……のではないかと思います。よくわからないけれど。この地で生まれ育ったものとして、本当に自分のルーツと言える美を知らずに頂点へと進むのは足元を見ないで走るようなもの。演技者としての地固めをする重要な挑戦になると思っています。

「和」は日本独特であることがしっかりと伝わるぶん、その独特さや「和」ならではのエッセンスが必ずしもフィギュアスケートとはマッチしないかもしれません。同じ舞踏ならバレエとかのほうにより近い美でしょう、フィギュアスケートのメインストリームは。まして「陰陽師」となれば、ほとんどの人にとっては何ソレという話。音楽が持つ物語を含めて、ゼロから自分で伝える必要があります。勝ち負けという意味では若干の厳しさ、つまり五輪シーズンには選べない演目ではないかとも思います。

だからこそ、あえて今季このテーマを持ってきたことの凄味を感じる。いつかは通過しなければならない世界を、大本番から逆算して計画的に持ってきた。すでに世界の頂点に立っているにも関わらず、さらに先を見据え、そこまでの踏破ルートを見定めている。何となく勝っちゃうのではなく、こうした積み上げを長期間に渡り粘り強く行えること。ジャンプの上手さであるとかいう表面的な事象よりも、その計画性・自分の計画に殉ずる粘りこそが羽生結弦という王者を支えるチカラなのかもしれない。そんなことを思う新シーズンなのです。

ということで、ついに全貌を現した新プログラム「SEIMEI」などについて、「フィギュアスケート オータムクラシック」からチェックしていきましょう。

◆静と動、陰と陽、男と女、対立する概念をすべて自身に取り込んでいく!

前日のショートプログラム。今季のプログラムはショパンのバラード1番。昨季も世界で戦ったプログラムですが、2季連続での採用となりました。昨季は怪我や病気などもあり、よりリスクの高い「本来の」構成を達成できていなかったといいます。シーズン越しでプログラムの完成を目指してきた。うむ、どこにも1季でプログラムを変えねばならないなんてルールはありませんからね。

それでも不安はあります。個人競技とは言え、今やフィギュアスケートも客商売。「昨季見たヤツや…」となるのは決してプラスとは言えません。2季連続の挑戦となるならば、それなりの進化をしていてもらわなくては寂しい。

いざフタをあけた初戦。その心配は余計なお世話でした。昨年の仕方ない構成よりも、今季の構成のほうが格段にいい。もちろん技術的な面…より難しい演技、より得点を取れる演技という工夫の面でもよいのですが、それ以上に演技と音楽との一体感が素晴らしい。昨季はこんなもんだと思って見ていた部分が「本来の」構成に戻されたことで、「ちょっと違ったんだな」と気づかされるような演技です。

特にジャンプの配置。昨年は前半に4回転トゥループを入れ、後半にトリプルアクセルという構成でしたが、今季は順番を入れ替えました。トリプルアクセルはイーグル(つま先を180度に開く)で入り、ジャンプしたあとすぐにまたイーグルにつなげるという跳び方に変更。4回転はスリーターン(片足で滑りながら3の字を描くようにクルンと向きを変える)での入りからモホーク(足を踏みかえながらクルンと向きを変える)の入りに変更しました。

これはもちろん技術的にも難しい挑戦。イーグル⇒ジャンプ⇒イーグルなんてことをやるのは、まずイーグルから入るのが真っ直ぐ助走をつけるより当然難しいですし、ジャンプがアヤしくなったら後半のイーグルがグッダグダになるのは必定。成功率が極めて高いジャンプだからこそできる構成で、誰しもがやれるものではないでしょう。

4回転のステップの入りの違いは、どこまで得点に反映されるかは微妙ですが、スリーターンなら十分にフリーレッグを使い、何ならブゥンと振って遠心力で勢いをつけることもできるでしょうが、この演技で見せた細かいモホークからの入りではブゥンは難しい。GOEでのプラス項目にある「予期せぬ、独創的な、難しい入り方」により近いのは今季の構成でしょう。その直前に組み込まれたロッカーターンも含めて、動きはより激しくクルクルするようになったけれど、「助走」はより短くなりました。基本的なスケーティングの向上が、そうした詰め込みを支えているのでしょう。iPhone5からiPhone6に変わったみたいなヌルヌル感が。

そうした技術的な部分以上に個人的に感じたのは、「この方が曲に合っているな」ということ。何となくですが、この編曲なら静かに柔らかく立ち上がってから、じょじょに激しさを増していき、最後にドーンと爆発したい。しかし、昨季の構成だと序盤にまず4回転という派手な場面があり、中盤にトリプルアクセルがきていた。実はチグハグだった。

それが今季はイーグル⇒ジャンプ⇒イーグルで極めて静かな立ち上がりを演じたのちに、激しく向きを変えながらの動きのある4回転へと進んでいく。ディナーコースが正しい順番で提供されるように、静から動へと盛り上がっていく感じがする。単なる技術自慢ではなく、よりよい表現を追求した結果、より難しくなっちゃったてへぺろという感じがグッときます。

↓演技全体のこなれ感も含めて、昨年よりさらに完成に近づいたショートプログラム!

Yuzuru Hanyu - JPN Short Program 投稿者 skatecanada

コンボに入るときは、去年とはそこまでのターンの構成を変えて、ゆとりを持って踏み切りの体勢に入れるようになっている!

不安のある部分にもしっかり手を加えてきたな!

衣装も金色が入って、手を上げ下げしたときにはキラッキラッするようになった!

「僕を表現する色は、金です!」の心!

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採点を見ると、最初のトリプルアクセルはGOEでも「3」がズラッと並ぶ高評価の出来栄え。お手つきの4回転もアンダーローテーションの範囲で留めており、演技後半の1.1倍ボーナスと今季から変更された「4回転のアンダーローテションはちょっと基礎点上昇します」効果で、お手つきなのに基礎点8.8というジャンプに。この辺も、同じコケるなら後ろのほうが得という効果もあるかもしれません。今季から4回転のGOE減点幅が広がったのでコケると痛手も大きくなりますが、後半に置いたことで減点幅ぶんはカバーできるでしょうし。

スピンは昨年同様としてキッチリレベル4を獲得。ステップもしっかりレベル4を取りました。ステップはレベル要件が大きく変更され、とにかく何でもいいから回数をこなせばいいのではなく、難しいターンおよびステップの回数がポイントとなりましたが、問題なくレベルをクリアしています。この辺は、「僕はもともと難しいのやってますから」といったところでしょうか。

まだオープン戦の段階でもあるので、演技の出来栄え云々は置くとしても、今季もこのSPで優位な戦いを展開できそうなことは確か。得点という意味でも、表現という意味でも、SPでスタートダッシュを決めるのに十分な演技構成だったと思います。安心して見ていられるSPになりそうです。

そして迎えたフリー。すでにアイスショーでは何度か披露されてきた「SEIMEI」の全貌がついに明らかになりました。陰陽師という和のテーマで阿部晴明を演じるにあたり、映画『陰陽師』で晴明を演じた野村萬斎さんに直接話を聞く機会も持ち、練り込んできました。振り付けのひとつひとつに意味があることを感じながら、どんな晴明を世界に伝えていくのか。晴明とは何なのか伝わるのか。すごい難しい気がするけど大丈夫だろうか。注目の演技です。

紫の色味を多くし、より高貴なる者感を増した衣装。オープニングのポーズは野村萬斎さんとの対談を経て、手の平を上に向けた「天地人を司る」形へとブラッシュアップされました。舞い踊るように軽やかにクルクルキューンと跳ぶ4回転サルコウはクリーンに決まります。腰を大きく落としたイーグルには「和」の重心の作り方のようなものを感じます。四股・摺足、地からわき出る物の怪を封じるように。

その後の4回転トゥループは軽いお手つき。3回転フリップはキレイに成功。その後のスピンではビールマンスピンも組み入れてきます。アイスショーではカットされるパートでもあったステップシークエンスでは「もし狩衣を着ていたら、袖がヒラヒラしてキレイだろうなぁ」というヒジを高く上げた腕の動きも。陰陽師らしい動きを考えながらの演技のようです。

そして演技後半。4回転トゥループでは尻もち転倒し、コンボではなく繰り返しジャンプの扱いに。トリプルアクセル⇒ダブルトゥループのコンボ、単独のトリプルアクセルと大量得点が見込める2本のジャンプは本来2本ともコンボにするであろうところ。しかし、一本が単独になったことでコンボがひとつ落ちてしまいました。コンボにしたほうの1本も3Tではなく2Tをつけるものになっており、これで2つのコンボが抜け、都合3つ全部がダメージを受ける格好に。

しかし、ここから挽回できるのも王者のチカラ。次のトリプルループは、ハーフループを挟んでトリプルサルコウをつける3連続ジャンプとしてきました。あまり見ない感じのジャンプですが、つけようと思えばつくもんだな、と。全部は挽回できないまでも、可能な範囲で取り返すあたりはさすが、頭の回転もキレてる。そして最後のトリプルルッツはクリーンに決めてジャンプ終了。

さぁ、ここからが見せ場のコレオシークエンス。途中にはハイドロブレーディング(地面スレスレで滑る)や、荒川式イナバウアーなど盛り上げポイントもしっかり組み込みます。加点の取れるコレオシークエンスです。最後はスピンから締めのドン!に。舞台を踏み鳴らすように、音楽と踊りが一体となる幕切れ。「羽生氏全部入り」といった感じの濃厚プログラムでした。

↓これがSEIMEIか!ここからどんなSEIMEIに進化していくのか楽しみだ!

Yuzuru Hanyu - JPN Free Program 投稿者 skatecanada

転倒もあったり、ステップでのレベル取りこぼしがあったりで点数の伸びはもうひとつながら、それでも184.05点!

SPと合わせれば夢の300点も射程圏内!

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これが初戦なので、ここからどんどん上げていくとすれば点数という意味でも楽しみな演目。やがては敵対する悪の陰陽師とか、物の怪とかまで見えてくるような演技になるんじゃないかと思うと完成形にも期待が高まります。そして、この演技を自分のものにする過程でのさらなる進化にも。

静から動へという動きの二律背反。陰と陽という物語が持つ二律背反。和の動きをつかんでいけば、その過程で「男」と「女」という二律背反までも身につけられるかもしれない。歌舞伎では性差を越えて演じる「女形」の存在がありますが、ひとつひとつの動きの意味を深く理解し、表現していくことで、本来自分の中にないものまでも表現できるようになるかもしれない。ひとりですべての物語を演じるシングルスケーターならば、ぜひこうした伝統を取り込んでいきたいもの。

「ロミオとジュリエット」を演じたときに、美しく青いロミオひとりが現れるのではなく、悲運のジュリエットも同時に現れるような。「オペラ座の怪人」を演じたとき、仮面の男ファントムひとりが現れるのではなく、怪人の孤独を包み込むクリスティーヌも同時に現れるような。そんな高みへと、今季の「SEIMEI」は運んでいってくれるのではないかと期待したい。僕的にもそんなユニセックスな相手のほうが、どっちの要素も楽しめる感じで、燃えますしね。秋をすっ飛ばして、冬に急いでもらいたいものですね。

↓キシリトールホワイトの新CMとかも始まるし、ここからが本格的羽生シーズンだ!


梅雨ぐらいのポジションで季節に入れちゃえばいいんだよ!

春・梅雨・夏・秋・冬・羽生!

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さて、書き終わったのでクリアファイル買いに行ってきますね!急げ!