鴈咲子『子どもの貧困と教育機会の不平等 就学援助・学校給食・母子家庭をめぐって』(明石書店)

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 児童の給食費未納問題が大きな問題となっている。数年前に文部科学省が行った全国すべての学校を対象とした調査によると、給食費未納は約9万9000人で小中学校全体の1%にあたり、その額は年間22億円に上っているという。

 今年6月には、埼玉県北川市の中学校が「未納が3カ月間続いたら、翌7月からの給食の提供を停止する」と保護者に通告した。

 これに対し「親の経済的事情で給食を食べられないなんて不公平」との批判もある一方、それ以上に「払えないなら給食を食べられないのは当然」という賛同の声があがったのは衝撃的だ。

 こうした「当然」論の世論に後押しされるように、全国の学校や行政側の未納に対する強固な対応は加速の一途をたどっている。
 
 例えば埼玉県鶴ヶ島市は、何度もの支払い催促に応じなかった保護者に対し、裁判所に申し立てを行い、その結果、未納金を強制執行したことを発表した。
 
 また、長野県駒ヶ根市の「給食委員会」は未納の保護者7人を民事提訴、さらに神奈川県厚木市も未納者に法的措置にのっとり支払督促を開始すると発表している。

 こうした動きに合わせてか8月には政府自民党も未納の場合、保護者の申し出がなくても児童手当から強制的に天引きする法改正を検討することを発表している。しかし保護者が給食費を支払わないからといって、法的手段を講じたり、子供に給食を与えないことで、問題は解決するのか。

 そもそも給食費未納を生み出しているのは「払えるのに払わない身勝手な親」などではない。その背景には、現在大きな問題となっている格差社会や格差固定、それに伴う子供の貧困が大きく横たわっている。

『子どもの貧困と教育機会の不平等 就学援助・学校給食・母子家庭をめぐって』(鳫咲子/明石書店)も「給食費未納を保護者の責任感や規範意識のみが原因とする見方には疑問がある」と指摘する。

 本書では「未納原因の約四割が保護者の経済的理由」であり、給食費は経済的困窮にある家庭にとって大きな負担となるという。現在の日本では義務教育は無償とされるが、しかし公立小中学校において無償なのは授業料と教科書代だけだ。そのため学校に通うと様々な費用がかかる。その中でも実は「大きな部分を占める」のが給食費なのだ。

「義務教育を受けるため保護者が支出した経費(例えば、学校給食費、通学関係費、クラブ活動費、修学旅行費、学用品費等。学習塾費等学校外活動費は含まない)は、年間子ども一人当たり公立中学校では約十七万円、公立小学校では約二十万円にも上る。塾に行かなくても給食費をはじめとして、いろいろな費用がかかる。ここで、支出されている給食費の平均は、小学生が約四万二千円円と高く、中学生が約三万五千円と安い」

 年間20万円くらいなら安いではないか、との声もあるだろう。しかし厚生労働省の調査でも現在の日本の子どもの貧困率は過去最悪の16.3%、実に6人に1人、約325万人が「貧困」という驚くべき結果がでている。これは先進20カ国中、 4番目の高さだ。

 しかもこうした貧困家庭が生活保護制度などのセーフティネットを受けていない率もかなり多いのだ。

 本書によると例えば年収「100万円以下」のひとり親家庭でも生活保護を受けているのはたったの14%。もちろん家のローンを抱えていたり、車の所有が障害となったり、扶養確認を親族にされるのを嫌うといった様々な事情があるが、東京都での調査では年収100万円以下の世帯で7.8%もが「制度を知らなかった」と答えている。また生活保護だけでなく就学援助等の他の支援も知られていない可能性はさらに高いと本書では推測している。

 さらに給食費未納で経済的困窮にある保護者がセーフティネットを利用しない理由についてこんなエピソードも紹介されている。

「援助を受けていることを知られるのがイヤ。子どもたちもかわいそう。民生委員にこられるのがイヤ。大人になるまで「援助を受けていた」という負い目を感じる」

 こうした親の"心情"については本サイトの「売春に走るシングルマザーたちはなぜ生活保護を受けないのか!?」という記事に詳しい。周囲の目、様々な差別、子どものクラブ活動への障害。そのためシングルマザーたちが出会い系サイトで男たちに売春することで生活を成り立たせ、子育てをする。本書でも、「子どものクラブ活動に必要な用具を買ってやりたいので給食費は待ってほしい」という例が紹介されているが、そこには払いたくても払えないという切実な理由が存在するのだ

 そしてもうひとつ、給食費未納について保護者の規範意識だけ取り上げ、責めて孤立させることは大きな危険性も伴う。それが児童虐待だ。

「近年、虐待と親の『借金・破産等の経済的困窮』『社会的孤立』『子ども・親の障害、DV』、子どもの『不登校』『暴力傾向・非行』『いじめ被害』等様々な困難が同時に生じていることが判明してきた」
「むしろ、児童虐待の一種のネグレクト(養育放棄)状態、親が子どもに関心を払えない状態の中で、子どもの給食費についても親が関心を払えない実態があるのではないか」

 給食費が未納な場合、こうした観点での考察も必要だ。こうした個々の複合的要因を考えず、単に「未納」に対しであるからという理由で子どもに対し給食を停止したり、いたずらに法的処置を行うだけでは問題が解決しないことは明らかだ。

 そもそも学校給食の歴史をたどると、それは貧困児童への救済であり、子どもの食のセーフティネットという意味合いが大きかったという。

「我が国では、一八八九(明治二二)年に山形県の私立小学校で貧困児童を対象に無償で行われたのが始まりと言われている。国庫補助による貧困児童救済のために学校給食制度ができたのは満州事変の翌一九三二年(昭和7年)の不況対策であり、学校給食を実施して就学の義務を果たさせようとした」

 当時は金持ちの子どもはいいおかずを、貧しい子どもは貧しい弁当を、さらに貧しいと弁当すら持ってこないという状況。それでは子どもが可哀想であり、教育的意味からも、皆が同じ物を食べることが学校給食の使命とされたという。

 こうして学校給食制度ができて80年余、その間敗戦を経てそして高度経済成長期、バブルと日本経済は成長を続け"総中流化"といわれる時代もあった。しかし現在、これまで経験しなかった新たな貧困、格差が浸透し、固定化されつつある。

 そんな時代だからこそ、本来の給食制度の精神に立ち返ることが、子どもの権利を守ること、また少子化対策や格差是正のひとつの鍵になるのではないか。
本書でも学校給食についてこう提言している。

「学校給食を普遍的な現物給付制度として位置づけることが、『子どもの食のセーフティネット』を確保する視点から求められている」

 給食停止や法的手段だけでは、決して未納問題は解決されない。国や行政には未納問題を格差問題、子どもの健全な教育問題、少子化対策としてとらえ、根本的な対策をとることを促したい。
(伊勢崎馨)