ほかのスーパーでは滅多にお目にかかれない「未来めむろうし」。霜降り牛とは一線を画し、健康的な赤身の旨さが際立つ。岐阜県の飛騨牛農家も、自家用にこっそり買いに来ているそう。

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愛知県蒲郡(がまごおり)市に、すごい品揃えのスーパーがある。たとえば海苔は、70種類。板状の焼き海苔から味つけ海苔、フレーク状のもみ海苔まで、さまざまなタイプがずらりと並ぶ。現地でしか買えないようなご当地ものもちらほらと交じる。調味料や菓子、インスタントラーメンに至るまで、リーズナブルな定番商品から高級な贈答品までが全国から集められているのだ。

なかには、珍しい産地直送品も。北海道の「未来めむろうし」は、抗生物質や遺伝子組み換え作物を使わない飼料で育てるホルスタイン種で、道外ではほとんど手に入らないという。プライベートブランドも多く、原料調達から製造まで手を抜かない。看板商品の「生クリーム食パン」は、気温の低い輸送ルート(カナダから北海道経由)にも配慮した小麦を使い、乳化剤やマーガリンを使わずに焼いている。

ここは、愛知県東三河地域に5店舗を展開する食品スーパー「サンヨネ」蒲郡店。蒲郡市は、愛知県では15番目の市で、人口は8万人強。サンヨネがあるのは、海沿いののどかな地域だ。同じ市内にはイオンやアピタなどの大手スーパーもあるが、サンヨネは圧倒的な品揃えで、舌の肥えた客の人気を集め続けている。平日でも開店前には行列ができ、週末には車で1時間以上かかる名古屋方面からも客が押し寄せる。240台分の駐車場が満車になることも少なくない。

海産物問屋としての歴史が長く、創業は明治25年。食品スーパーとしても40年以上の歴史をもち、会社設立以来、黒字・無借金経営を続けている。徹底した堅実ぶりで、新店オープン時であってもチラシを配布しない。ポイントカードもない。コストを削減し、良い商品を安い価格で提供するためだ。

ただし、人件費は削らない。店頭で対応する従業員の人数は多く、みんな楽しそうに働いている。客と言葉を交わしながら懸命にメモをとっている姿も。聞けば、客の要望を次の仕入れに反映させるらしい。惣菜コーナーで唐揚げを手に取り、「半分ぐらい食べたい」と言う客がいれば、量も値段も半分のパックを手早くつくる。レジの担当者は手を高速で動かしながらも、自然な笑顔で声をかけている。

なぜこのような品揃えとサービスを維持できるのだろうか。代表取締役であり営業本部長でもある三浦和雄さんによれば、品揃えに関しては、仕入れから値付け、陳列までを各店舗の部門主任に任せているからだという。

「お客様の声を聞いて、主任たちがいいと思ったものはどんどん仕入れているんです。一番広い蒲郡店には遠くからわざわざ来てくれるお客様も多い。月に1個でも売れる商品なら置くべきだと思っているんですよ」

多くのスーパーでは、本部のバイヤーが絞り込んだ取引先から商品を一括で仕入れ、各店舗に分配する。そのほうが、効率的で価格交渉もしやすいからだ。一方、サンヨネは非効率でも現場の奮起を促している。鮮魚部の服部広基さんも、豊橋や名古屋の市場に行き、自分の目利きで仕入れをする。

「最高だったとか、まずかったとか、常連さんが率直に言ってくれるんです。それが、やる気につながっています」

服部さんは各店の主任を統括するリーダーに29歳の若さで抜擢されたが、サンヨネ従業員の平均年齢は50歳(スーパー業界の平均は30代半ば)。66歳の定年を過ぎても、嘱託などで働き続ける人が多い。

「お客様を大事にしたいのならば、まずはパートナー(従業員)を大事にすべきです。深夜営業などで利便性を追求すると、労働環境が悪化しますよね。それが社会にとって長期的に良いことだとは思えないんです」

熱っぽく主張する三浦さん。粗利益の50%を従業員に還元する制度、明るく広々とした休憩室、19時という早い閉店時刻などを実現している。これらのすべてが心のこもった笑顔のサービスを下支えしているのだ。

今年入社した酒井佳奈さんは、出勤2日目に「レジでミスをして大泣きしちゃったことがある」そう。

「主任さんに『二度とミスしません』と誓ったら、『そんなこと言ったら、緊張して仕事がやりにくくなるよ。最初は失敗して当たり前』と励ましてもらって。ほんと、うれしかった!」

そのレジ部門主任の近藤和江さんには守り続ける信条がある。同僚に感謝や労いの言葉をこまめにかけることだ。「決まった作業にだって、『ありがとう』の一言がないと、何のために働いているかわからなくなりますよね」

サンヨネの社是は「ステキな会社をつくりましょう」。老舗にしてはあまりに慎ましく、理想主義的な目標だ。しかし、経営者から新人までが実現を信じて愚直に努力し続けている。それがどんなに尊いことか。このスーパーが教えてくれた。

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サンヨネ 蒲郡店 
愛知県蒲郡市八百富町7-34 TEL 0533-66-1919
営業時間 10:00〜19:00 店休日 4月、10月に各1日 JR「蒲郡駅」より5分。

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(文・大宮冬洋 撮影・山口典利)