アヴィーチーが世界中を熱狂させる理由…スーパーDJの根っこにある内省
 何かというと批判されてしまいがちな、EDM。エレクトロニック・ダンス・ミュージックの略で、日本でもここ数年で定着した感があります。思いっきり平たく言えば、“パーティーピーポー御用達のアゲアゲソング”といったところ。

 ステージ中央に陣取ったDJが、数十万人の観客を煽る映像で、「ああ、あれね」と思う人もいるかもしれません。

 そんなジャンルの旗振り役の一人、アヴィーチーの新作『STORIES』が10月2日にリリースされました。

※アヴィーチー(Avicii)
1989年、スウェーデン出身のDJ。18歳でキャリアをスタート、次々に世界的大ヒットを飛ばし、恐ろしい勢いでスーパースターに。『STORIES』に収録されている「Waiting For Love」は22ヶ国のiTunesで1位を獲得した。10月の来日公演中止という悲報も。

◆曲の根っこにある内省

 この『STORIES』、一体どんな能天気なアルバムなのかと思いきや、これが良い意味で期待を裏切っているのです。サウンドは、シンセがシャリシャリ、ブリブリと鳴り響く「これぞEDM」な作りなのですが、曲の根っこにシンガーソングライター的な内省があるのですね。

 たとえば先行シングル「Waiting For Love」。

<月曜日はボロボロのまま捨てられた 火曜日は期待するのをやめた 水曜日は空っぽになった両腕を開いていた>(矢岸礼子 訳)

 絶望から這い上がっていく言葉を盛り立てるように、その後のハーモニーが温もりと救いを与えていく。

⇒【YouTube】Avicii - Waiting For Love http://youtube.be/cHHLHGNpCSA

 そんな詞を導いていくメロディは、極めて親しみやすい。初めて聴くはずなのに、どこか懐かしく響きます。

 たとえば、ロビー・ウィリアムスがボーカルを務める「The Days」(日本盤ボーナストラック)のサビでは、スティーブン・ビショップの「Sinking In An Ocean Of Tears」を思い出してしまう。聴き比べてみてください。

⇒【YouTube】Avicii - The Days (日本語歌詞付き Video) http://youtube.be/JDglMK9sgIQ

⇒【YouTube】Stephen Bishop - Sinking in an Ocean of Tears http://youtube.be/ApViK2aAC9s

一方、コールドプレイのクリス・マーティンが参加した「True Believer」を聴けば、新しいところでゴティエの「Somebody That I Used To Know」が脳内で同時再生される。聴き比べてみてください。

⇒【YouTube】Avicii - True Believer (Lyric Video) http://youtube.be/MhTJJ1AHzzU

⇒【YouTube】Gotye - Somebody That I Used To Know (feat. Kimbra) - official video http://youtube.be/8UVNT4wvIGY

「Somewhere In Stockholm」にいたっては、ディスクロージャーと70年代のエルトン・ジョンが共演したかのようなマジック。

⇒【YouTube】Avicii - Somewhere In Stockholm (Lyric Video) http://youtube.be/9WZN3S_j9dQ

 とはいえ、小手先で枝葉を似せているというより、あくまでも全体の旨みが近しいといったニュアンスなのですね。音楽に限らず、「なんとなくいいな」と感じたときの、“なんとなく”をキャッチする能力とでも言うのでしょうか。

◆太い幹が通った落ち着き

 ともかく、理知で調整することのできない部分に、ケレン味をはねのける太い幹が通っている。そこがアヴィーチーの強さなのです。ジャンルの意匠を取り除いても、曲本体は生き残っていくだろうと感じるゆえんでもあります。

 本作には、クリス・マーティンをはじめ、カントリーのザック・ブラウンから、ヒップホップのワイクリフ・ジョンまで、様々なミュージシャンが異なるスタイルで参加しています。

 ややもすれば、お祭り騒ぎのようなアルバムになりそうですが、本作にそのようなブレは全く感じられません。

 基礎となるメロディのパターンをいくつか確保して、そこへ言葉を適切に配置していく。アヴィーチーの落ち着きは、この保守的ともいえるソングライティングの営みにあると言えそうです。

 EDMという冠を外して聴いてみるのもいいかもしれませんね。

<TEXT/音楽批評・石黒隆之>