今の高校生は基本的な性知識すら欠如している(shutterstock.com)

写真拡大

 性教育は難しい。セックス(性行為)を経験していない子どもに、性とは何かを教えなければならないからだ。セックスに限ったことではないが、誰もが最初は未経験である。

 「経験すればわかるから、改まった教育は必要ない」という意見もある。一般論としては正しいが、性教育については慎重でなければならない。その理由は、性とは人間にとって複雑な感情を喚起する営みであり、客観的な事実をもとに伝わることが少ないからだ。

 私たちは性についての情報を、それぞれの経験則とメディアで流通する性知識を組み合わせて獲得している。その情報を取捨選択する能力が育っていない子どもには、親や社会が適切な性教育をしないととんでもないことになる。現実に、いま日本の高校生の間では、驚くような性知識が広がっている――。

死ぬまで生理がある!? 死ぬまで妊娠可能!? 死ぬまで射精する!?

 今年8月に大津市で開かれた日本思春期学会で、高校1年生を対象にした調査の結果、「男性は死ぬまで射精できる」と誤った認識を持っている男子が4割にものぼったという報告があった(女子では2割未満)。報告者は東京産婦人科医会監事の木村好秀医師。産婦人科学会の重鎮による発表だけに、その言葉は重い。

 調査対象は、東京都内の某公立高校に通う、性教育を受ける前の1年生320人。回答率93.8%で、男子131人(43.7%)、女子169人(56.3%)だった。
 
●各質問に「死ぬまで」と回答した割合
 月経は何歳まで?..................男子28.6%、女子5.3%
 女性は何歳まで妊娠可能?......男子21.6%、女子3.6%
 射精は何歳まで?..................男子40.5%、女子19.1%

 つまり、高校1年生の男子は、その約3割が「死ぬまで女性に生理がある」と考え、その約2割が「死ぬまで女性が妊娠可能」と考え、その約4割が「死ぬまで男性は射精する」と思っていることになる。女子のデータは、女子のほうが男子よりも、正確な性知識をもっていることを示しており安心できる。

若者たちは性知識が貧困な「情報弱者」だった

 都内の高校生といえば、スマホを保有して、LINEなどのソーシャルメディアで四六時中情報交換をしている「情報強者」というイメージがある。しかし現実は、性知識が貧困な「情報弱者」だったのである。

 木村好秀医師は、このような結果が出た原因として、「中学・高校教育の中で妊孕性(にんようせい=妊娠する力)について学ぶ機会がなかったことが考えられる。思春期からの教育で、妊娠・出産の適切な時期を周知させる必要がある」とまとめている。

 先述したように「性教育は不要」という人がいる。「性とは本能であるから、自然に気づき学べる」という考えからだ。一見すると、この考えは説得力があるように感じる。

 しかし、人間の性行動とはきわめて社会的な営みであることが、さまざまな研究から明らかになっている。人間はほかの動物と違って、本能による性行為をしていない。容姿、社会的地位、話す言葉、お互いの職業など、さまざまな要因を確かめあって、恋愛(または見合い、あるいは婚活)が成立し、その次に性行為がある。この恋愛をすっとばして、「発情したからセックスする」というのが動物の本能に根ざした性行為である。これを現代社会でひとりの人間が実行したら、性犯罪者として処罰の対象になることは明かだ。

 メディアを通じて入手できる性についての情報は増えているが、若者が理解できるための適切な性教育の環境は整っていない――。これが今回の調査結果で明白になった。

 男性は死ぬまで勃起し射精できる能力を維持できない、女性はいつか閉経し、妊娠する能力を喪失する、という大人にとってはあたり前のことさえも、子どもたちは勉強しなくてはわからない。人間は「本能がこわれた社会的」な存在だ。学ばなければ、生きることも、セックスすることもできない。
(文=編集部)