スティーブ・ジョブズはゾンビと戦うのか。うめ×ヤマザキマリ「スティーブ・ジョブズを語る」レポ

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2011年10月5日。iPhone4sの発表があった翌日、アップル創業者スティーブ・ジョブズが亡くなった。

あれから早4年。発売されたばかりのiPhone6sに一喜一憂し、アメリカでは映画「Steve Jobs」が先週から公開(日本公開はまだ未定)されたりと、我々はまだ、ジョブズとの関わりの中で今を生きている。

ちなみにこの新作映画、アップルCEOのティム・クックが批判的な態度、と報じられている。そういえば、2013年に公開された映画「JOBS」(邦題は「スティーブ・ジョブズ」)も、公開時にはスティーブ・ウォズニアックから「間違っているところがたくさんある」と指摘されていた。

そんな彼らにこそ見て欲しいスティーブ・ジョブズの漫画が日本にはある。しかも、2作同時にだ。

ひとつが『テルマエ・ロマエ』でおなじみの漫画家ヤマザキマリによる『スティーブ・ジョブズ』。

そしてもうひとつが『大東京トイボックス』でゲーム業界の群像劇を描いたうめ(小沢高広・妹尾朝子)と松永肇一による『スティーブズ』だ。


先日、このジョブズ漫画にかかわる4名が一堂に介してのトークイベント「スティーブ・ジョブズを語る」が東京・渋谷のマンガサロン「トリガー」で行われた。


調べ物だけでいつも2、3日かかってしまいます



「この映画(※2013年公開の「スティーブ・ジョブズ」)に一番突っ込めるのはここにいる我々4人ですよ!」

うめの演出担当、小沢高広が語ったこの言葉が象徴するように、この日のトークイベントでは「史実に基づいた作品づくりの難しさ」「原作ものを漫画にするうえでの苦労話」で盛り上がった。

まずはウォルター・アイザックソンの原作を元に描くヤマザキが言及する。
「機械を描くと言ったって、アイザックソンがたった一行、ひと言で済ませたものを探すのに丸2日かかったりするわけですよ。わかります?」

ヤマザキの言葉に「わかります!」と強く頷いたのがうめの作画担当、妹尾朝子だ。
「『箱に入れて運んだ』とか原作者は簡単に『箱』って書くんですけど(笑)、『どんな箱なんだよ!』って思って描いています」とヤマザキに同調する。


ヤマザキと小沢の間で盛り上がったのが「資料を探し尽くすことの大変さ」だ。

ヤマザキ「また違ったりしたら叩かれるわけですからね。ネットがあれば簡単に見つかるだろう。と最初は楽観視していたんですが、全っ然見つからないんですよ!」

小沢「特にあの時代(※70年代後半〜80年代)の資料が一番ないですよね。しかも、当時関わっていた人がまだ生きているので、中途半端に間違うと、ものすごく叩かれてしまう。Apple IIに関しては現物を買いました。Apple IIIは(漫画家の)赤松健さんがお持ちなので、今度写真を撮らせてもらえないか、お願いしようと思っています」

ヤマザキ「梱包する箱ひとつでも間違えられない。そこが古代ローマとの違い(笑)。最近のものは空想では書けないですから。公衆電話にしても、プッシュ式なのかダイヤル式なのか? 年代を調べて当時の電話会社に確認するわけです。調べ物だけでいつも2、3日かかってしまいます」

小沢「そういえば、紙テープ時代のベーシックの『穴の位置が違う』というクレームが来たことありますよ(笑)。あと、設立2番目のオフィスは3Dで全ての角度から起こしました。写真をそのまま使うのは、権利関係からも問題がありますからね」

表現における権利の問題が声高に叫ばれる昨今。ググって調べて終わり、では済まされない、本物のクリエイター同士の興味深いやりとりが続いた。


『スティーブズ』の売りは“現実歪曲フィールド”の可視化


同じ人物を主人公として描く両作品。だが、もちろん、異なる部分は多い。『スティーブズ』の場合は、松永肇一が書いた原作を元にしたフィクションである、という点が大きい。

「『スティーブズ』の売りは“現実歪曲フィールド”の可視化。ITバトルものですから!」と強調した小沢は、続けて原作の特徴について言及する。

小沢「松永さんの書く原作は、実はもっと自由度が大きい。タイムマシンは出てくるし、ゾンビまで出てくる。『スティーブズ』ではそこから史実パートを抜いて使っています。ITバトルもの、と言われるのは、その原作の名残ですね。でも、もっとそっちを描きたい欲求もあります。だから、いつかはジョブズとゾンビが戦う展開にはなるかもしれない」

これには作画担当の妹尾も「え、描くでしょう。整合性もちゃんとつけますよ」と乗り気。


一方で、原作者・松永肇一にも独特の苦労や大変さがあるという。

松永「原作ではいつも、クリスとランディ、少年ふたりの物語をたくさんたくさん書くんですけど、いっつも漫画ではスルーされるんです(笑)。しつこく、次の回でもたくさん書くんですけど、またスルー。それを繰り返しています」

小沢「あの人たちは、話の縦軸を進めてくれないんですよ。面白いんですけどね。だから、3巻は描きおろしでふたりの物語を書こうか、って話をしているところです。給湯室のOLふたり、みたいな感じで」

11月発売予定の『スティーブズ』3巻。そこに、クリスとランディの番外編は無事に載っているだろうか?


『スティーブ・ジョブズ』は女性漫画?


イベント最後には来場者からの質問コーナーも。ここではヤマザキマリに対して「女性誌で描くことの難しさ」が投げかけられた。

「私も、お話をいただいて最初に思ったのが、『え? ここ(Kiss)でやるの?』ということ(笑)。連載初回も、『Kiss』の表紙は東村アキコさんの『海月姫』のファンシーな世界で、表紙をめくるとジョブズが出てくるという(笑)。これが海外で話題になっちゃったんですよ」

そして、女性での連載から「売り方」の話にまで展開していく。
「一番の問題は、女性誌で連載していることで少女漫画として書店で扱われてしまい、サラリーマンの目にふれにくくなってしまうこと。でも、4巻だと会社の確執とか、主婦よりも女の子よりも経営者の目に触れて欲しい内容なんです」と訴えた。


「でも、こういう事例がありましたよ」と小沢が続ける。

「書店によっては、うちの『スティーブズ』とヤマザキさんの『スティーブ・ジョブズ』を並べておいてくれるお店があって面白かった。だから結論を言うと、『両方まとめて読むと、面白いよ!』ってことですね」。
(オグマナオト)