かすかな望みを残し、予選・最終戦のチェコ戦に挑んだオランダだったが、ホームで2−3と敗れてしまい、来夏のユーロ(UEFA欧州選手権)出場権を逃してしまった。

 1996年のイングランド大会で16ヶ国開催となったユーロは、2016年のフランス大会から24ヶ国へと拡大される。予選参加国・地域は「53」。およそ半数のチームが予選を勝ち抜く計算となる。

 そのなかでもオランダは、「サッカー強豪国のひとつ」といって間違いない。近年もW杯では準優勝(2010年・南アフリカ大会)、そして3位(2014年・ブラジル大会)と好成績を残していた。しかも、ユーロ予選で同じグループとなったアイスランドは好チームなものの、ヨーロッパのなかではサッカー小国に過ぎない。チェコやトルコも近年は成績が振るわない国だっただけに、オランダ人にとってこの敗戦のショックは大きい。

 2008年8月、オランダ代表監督に就任したベルト・ファン・マルワイク監督は、マルク・ファン・ボメルとナイジェル・デ・ヨンクのMFふたりを中央に置いて、W杯予選ではかなりオーソドックスなポゼッションサッカーをしていた。しかし最終ラインの弱さに気づくと、2010年W杯直前の準備期間に全員がハードワークするソリッドなチームに作り変え、準優勝という結果を手にした。

 2012年7月、再び代表を率いることになったルイス・ファン・ハール監督は、守備陣の世代交代と予選突破というふたつのテーマを抱えながら、2014年W杯の予選に挑んだ。陣形をやや引いて、コンパクトに戦うやり方で予選を突破したが、本格的にチームを改造したのは本大会直前の6週間。国内組を招集した1次キャンプで5バックの守備戦術と攻守の切り替えを叩き込み、2次キャンプ、3次キャンプで若手をふるい落としながら、最後は国外でプレーする主力選手と合わせていった。

 ヨーロッパの各国代表チームは、2年毎にW杯とユーロが開催されるため、本大会の2ヶ月後には次のビッグイベントの予選が始まり、結果を出さないといけない。ファン・マルワイク監督も、ファン・ハール監督も、オランダ代表の守備に弱点があるのをわかりつつも、予選中は最低限の手当てを施しながら、W杯直前のまとまった準備期間にチームを完成品に仕上げたのである。

 だが、オランダはW杯で成功を収めると、次のユーロで失敗する傾向が強い。なぜならば、オランダ人はサッカーに関してロマンチストであるため、常にポゼッションを獲り、敵陣に相手を押し込んで戦うサッカーが大好きだからだ。よって、守備的に戦って結果を残したW杯の後は、攻撃的なチームへ切り替えようとする。

 2012年のユーロでは、FWアリエン・ロッベン、MFウェスレイ・スナイデル、FWロビン・ファン・ペルシー、MFラファエル・ファン・デル・ファールトといったスターたちに、「今度は攻撃サッカーで結果を残したい」という欲が生まれた。一方、CBのスピードが総じて遅く、左SBイェトロ・ウィレムスも経験不足という弱点のあった4バックは、前で守備ラインを作るのを怖がった。こうして、オランダの陣形は縦に50メートルも間延びし、セントラルMFのファン・ボメルとデ・ヨングが右往左往する事態となった。

 そして今回のユーロ予選も、2014年W杯で3位となった「守備的なカウンターサッカーからの脱却」が、オランダサッカー協会(KNVB)のテーマとなり、フース・ヒディンク監督にその任務が託された。しかし、オランダ国内では、「ファン・ハールの厳しいやり方に慣れてしまった若い選手は、自主性に任せるヒディンクに合わせるのに苦労するだろう」という見方があった。

「オランダらしいサッカーを取り戻すこと」を掲げたヒディンクだったが、いきなり最初の試合でつまずいた。2014年9月に行なわれたイタリアとの親善試合で、オランダは守備が乱れて開始10分で2失点(結果は0−2)。その後、ユーロ予選・初戦のチェコ戦では5バックを採用したものの、1−2で黒星を喫した。さらに10月のユーロ予選2試合でも、カザフスタン戦で4−3−3に戻したり、アイスランド戦で0−2の完封負けを喫するなど、ますます迷走することに......。かつての名将も代表チームの惨状に対し、「私にもどうしていいかわからない」とこぼす始末となった。

 オランダ代表チームの監督人事は、KNVBのプロサッカー部門責任者ベルト・ファン・オーストフェーンが行なっている。企業の人事担当だった経歴を持つ彼は、短期戦略として、厳しいタイプのファン・ハールから自主性を重んじるヒディンクにつなぎ、中期戦略として、ダニー・ブリントをふたりの名将にコーチとしてついて学ばせ、将来の代表チーム監督にするプランを作った。そして今年6月にヒディンクが退任した後、ブリントは代表監督に就任。しかし、ユーロ予選の最後4試合を指揮したものの、結果は1勝3敗・4得点8失点と芳(かんば)しくなく、順位も3位から4位へと落としてしまった。

 ブリントはアヤックスの監督を務めたことがあるものの、リーグ4位と結果を残すことができず、その後はアヤックスのユース育成や、オランダ代表のアシスタントコーチを歴任してきた。つまり、監督としての実績はない。過去にもKNVBは、フランク・ライカールトやマルコ・ファン・バステンといった経験のない監督を指名するという、「実験的な人事」を行なっている。しかし一方、ライカールト(〜2000年)→ファン・ハール、ファン・バステン(〜2008年)→ファン・マルワイクというように、その後はベテラン監督に頼っている。

 2014年のW杯後、ファン・ハールの後継者を決める人事で、オランダ国民は各国クラブでの指導歴の長いロナルド・クーマンを推し、本人もその気になっていた。ところがKNVBは、「ヒディンク→ブリント」のレールを独断で敷いた。こうしたフィロソフィーの感じられないKNVBの代表監督人事に、オランダ国民だけでなく、プロサッカー指導者組合は怒りをあらわにしている。

 今回のユーロ予選を見れば、オランダは勝って当たり前のグループだった。それでもオランダは、4勝1分5敗で勝ち点13しか挙げられなかった。チームを率いたヒディンクとブリントの両監督の責任は重いだろう。しかし、代表チームの戦いは、その国のサッカー界のすべてが詰まっている。敗戦の責任は、代表監督の人事をつかさどるKNVBにも向けられなければならないはずだ。

 来年、フランスで行なわれる「ユーロ2016」に、オランダの姿はない。そのことに寂しさを感じつつも、これからのインターナショナルマッチウィークは、多くのことを試すチャンスでもある。W杯とユーロの繰り返しに疲弊したオランダには、ようやく根本から立て直すための時間が与えられたのだ。

 だが、同時にそれは、決して簡単なことではない――。

中田徹●取材・文 text by Nakata Toru