グランパパプロダクションHPより

写真拡大

 今月13日、安倍首相直轄の有識者会議「『日本の美』総合プロジェクト懇談会」の初会合が行われた。2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催に向けて日本文化を海外発信するのが目的で、「来年6月をめどに、東京五輪開会式のイメージを含めた提言を首相に示す」(読売新聞10月12日付)らしい。

 だが、その有識者とやらが末期的なまでに恐ろしい面子なのだ。経済小説家で新自由主義者の幸田真音に、昭恵夫人とは旧知の友人である作家の林真理子、日本会議代表委員の裏千家前家元・千玄室......。一体、この面子で何を発信する気か?と不安になるが、極めつきは座長を俳優・津川雅彦が務めるという点だ。

 津川といえば、芸能界きっての安倍応援団のひとり。2012年9月に発足した「安倍晋三総理大臣を求める民間人有志の会」では発起人をつとめ、自身のブログでも再三「安倍晋三氏は政治家には勿体ない程の、人徳と誠実さの持ち主」「安倍総裁ばんざい!」「安倍総理はつくづく純粋な政治家」とエールを送ってきた。もちろん、例によって安倍首相とは会食友だちで、奥田瑛二や中井貴一といった後輩俳優や、"津川の最後の女"と「週刊新潮」(新潮社)に書かれたNHKの岩田明子記者らとともにしょっちゅうテーブルを囲んでいる。

 五輪のための文化発信まで、安倍首相お約束の"お友だち"人事......とバカバカしくなるが、しかし問題は、その座長である津川が世界に出すのがはばかれるような"ネトウヨ脳"の持ち主ということだろう。

 ご存じの方も多いと思うが、津川は『たかじんのそこまで言って委員会』(読売テレビ)のレギュラーパネリストを務めていたほどの極右思想なのだが、そんな津川の口癖は、安倍首相と同じく、一に「日教組」、二に「朝日新聞」だ。

「文化というのは人間の心。心がダメになれば文化も衰退する。戦前にはちゃんとしていた日本人が、戦後ダメになったのは、日教組のせいだろう」(「週刊新潮」10年1月14日号)
「"病巣"がどこにあるかって? 日教組さ」
「僕は!! 左翼のインチキ性が大嫌いなんだ。朝日新聞のような大新聞から、ノーベル賞を取った大江健三郎までが、自虐史観丸出しの道化師的ナルシズムで、中国や韓国に媚びる」
「日本男子である限り、誇りを傷つける売国文化人や国益を損じる政治家、左翼化したテレビ、さらに自虐史観で子供たちを蝕む日教組、彼らへのまっとうな小言は言い続けたい」(すべて「週刊プレイボーイ」(集英社)/13年1月14日号)
「安倍憎しと!感情むき出しの彼ら(朝日新聞)の報道は!猿の惑星!知性皆無!」(13年3月6日のブログ)

 まるで安倍首相の心の叫びを見ているかのようだが、ここまで豪快に批判してもらえたらさぞかし安倍首相も気分壮快のはず。それゆえ、ふたりは共鳴しあったのだろう。実際、津川の歴史観も安倍首相とそっくりだ。

 たとえば、安倍首相は70年談話で「私たちの子や孫、そしてその先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません」と述べたが、津川は「日本人が駄目な人間だとプロパガンダし、謝罪ばかりさせようとする輩は、もう日本人をおりてもらいたい」(「月刊MOKU」(MOKU出版)10年4月号)と直截的に表現。当然ながら筋金入りの嫌韓で、「韓国は戦後! 何を勘違いしたか、大東亜戦争の戦勝国ヅラして日本の恩恵を忘れ『義』と『恥』がわからない国民となった」(13年2月24日のブログより)と、侵略を"日本の恩恵"などと捉えるなど、とんでもない思想を露わにしている。

 また、本サイトで既報の通り、安倍首相は世界記憶遺産に「特攻隊」資料を登録させようと目論んでいるが、津川も同様に靖國神社崇敬奉賛会の公開シンポジウムで「特攻隊はありがたい」と特攻賛美を行っている。

「まず特攻隊は美しくて純粋なりきなんですよ。ありがたいんです。そういうことをちゃんと感じる心があって、その上で戦争に対する反省と憎悪を持つ、それを何でも短絡に、戦争を肯定するのかとか何とか、お前、ばかかというような、ちゃちいことを言うのはもうやめなきゃいけませんよ」(靖國神社崇敬奉賛会「講演・シンポジウム・勉強会記録集」より)

「戦争に対する反省と憎悪」などと言っているが、なにせ映画で東條英機役がやってきたときは「嬉しくて震えた」と言う彼にそんなものがあるはずもなく、口から出てくるのは軍国主義肯定論ばかりだ。

「女性はちゃんと子どもを育ててこそ一人前になれる。男は徴兵に行き国を護る訓練をして一人前になれるんじゃないかと僕は思っているんですがね」(前出「月刊MOKU」)
「米国におんぶに抱っこされ、自国を守るために他国の青年の血は流させても、自分の血は流したくない卑怯な日本人に成り下がった。故郷を守れない輩を日本人と呼べるのか?」(夕刊フジ/15年8月4日)

 侵略・特攻の美化に、徴兵制の復活......。ネトウヨ思考が完全にできあがっているように見えるが、当の本人は「保守派なんかだと見くびらないで欲しい!言うなれば縄文派だ!」(12年8月29日のブログより)と宣言。じつは、津川の3つ目の口癖は、この「縄文」である。

「「人の和」を大切にする社会は、縄文中期からはじまっている。「権利」なんて「和」に比ぶれば、卑猥な理念に違いない。いちいち権利を主張し、裁判に委ねる社会ほど幼稚だとも言える。平和な世界が実現するためには、和の理念と文化が必要なのだ。(中略)
 ゆえに、新しい憲法の序文には、互いを思いやることで築く和の精神と、人と人の間で権利を守る統治国家を築くことを謳い、真の「日の出ずる国」を創ることを宣言すべきだ」(「WiLL」ワック/11年9月号)

 どうやら津川の主張は、「個人の権利を振りかざすなどナンセンス、法治国家なんかやめて統治国家を築くべき! そう、縄文こそが真理!」......ということらしい。

 そして、こうした縄文精神をもった日本人を"GHQと左翼と日教組"が堕落させ、国民は愛国心を失い、ついでにウーマンリブ運動が無責任&子を産まない女を増殖させた、と津川は言う。ずいぶんアクロバティックな話だが、しかし神経を疑わざるを得ないのは、その先。この堕落した日本人の"罪"を背負うために「キリストの如く贖罪適格者として白羽の矢が当てられたのが、日本の元祖である東北の人々」と主張している点である。つまり、GHQと左翼と日教組とウーマンリブという"罪"が、東日本大震災を引き起こしたというのだ。

 自分が組み立てた歴史観から外れたものはことごとく敵視し、すべての責任を押しつけ、挙げ句、震災さえそのせいだとのたまう──。もはや老害という言葉しか思いつかないが、こんな人物が、世界に文化を発信する会議の座長であり、しかも、オリンピックの開会式の提言まで行おうとしているのである。

 このままだとオリンピックでは、土偶の着ぐるみと特攻隊員が隊列をつくり日の丸を掲げる......などという冗談のような地獄絵図が開会式で繰り広げられるのかもしれない。
(水井多賀子)