ハリルホジッチ監督の下、軌道に乗り切れない日本を、韓国メディアも報道。イラン戦のドローを「無気力」と報じたものもあった。写真:サッカーダイジェスト

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「本田1ゴール・1アシスト、日本、シリアを制圧してグループ首位に」(ネットメディア『OSEN』)、「シリアに完勝の日本、ハリルホジッチ監督もひと安心」(『韓国経済TV』)、「日本、吉田のミスと武藤のゴールでイランにドロー」(ネットメディア『Newsen』)、「日本対イラン、親善試合とは思えない肉弾戦に」(ネットメディア『e-star』)。
 
これらはシリア、イランと対戦した日本代表の10月シリーズを報じた韓国メディアの見出しだ。韓国代表は10月8日に敵地で行なわれたクウェートとのワールドカップ・アジア2次予選を1-0で制し、13日のジャマイカ戦も3-0の大勝。ウリ・シュティーリケ監督就任以来、16勝3敗3分と順調な航海を続けていることもあり、韓国メディアも余裕があるのだろう。
 
シリアに勝って予選グループ首位を奪還するも、14日にシリアがアフガニスタンを5-2で下したことで再び2位に転落したのに加え、敵地でイランと引き分けたハリルジャパンの結果を比較しながら、「韓国サッカーは笑い、2位に退いた日本は泣いて……」(スポーツ新聞『スポーツ朝鮮』)と報じるメディアもあった。「無気力な日本、イラン遠征試合で1-1のドロー」(サッカーメディア『InterFootball』)との記事も出たほどだ。
 
もっとも、サッカー専門メディア『FOOTBALLIST』のリュ・チョン記者の見方は違う。インターネット動画中継でシリア戦、イラン戦をチェックしたという彼が最初に口にしたのは、「日本代表の選手たちとハリルホジッチ監督がようやく仲良くなってきた」という意外な言葉だった。
 
「互いに親しい間柄になったという意味ではないですよ(笑)。監督の注文を選手たちも実践するようになったという意味で、“ようやく仲良くなった”ということです。もちろん、まだその関係性は完璧ではないだろうし、シリア戦の前半など日本のファンにとっては内容面でかなりストレスがあったと思いますが、2試合を通じて日本が変わってきている印象はあります」
 
 象徴的なシーンが、シリア戦での2得点だったという。
 
「本田が決めたPKと岡崎のゴール。ともに果敢に前へ出てカウンターからチャンスを作りましたね。逆襲の際、一旦ボールを落ち着かせて丁寧に切り崩すのがこれまでの日本のスタイルでしたが、ふたつの得点シーンは縦にも勝負できるという一面を覗かせました。ハリルホジッチ監督が目指すスタイルが色濃く出た場面だったと感じました」
 そんなハリルジャパンのカラーをより鮮明にするのは、本田と岡崎ではないかとリュ・チョン記者は感じたとも言う。
 
「本田は身体が強く視野も広い。岡崎は活動量が多く、シンプルかつエネルギッシュにゴールに直結する動きを見せてくれる。香川も巧くて良い選手だと思いますが、たまに消えてしまうことも多く、本田や岡崎のように“大きな絵”を描ける選手ではない。日本は本田と岡崎を中心にしながら、ハリルホジッチ監督が求める攻撃スタイルに色付けしていくべきではないでしょうか」
 
 また、2試合に起用されたGK西川周作に関しても印象的だったと語る。
 
「川島が所属先未定の事情もあるとはいえ、GK西川の安定感も印象的でした。先日、C大阪のキム・ジンヒョンと話す機会があったのですが、彼も“西川の安定感はJでも指折りだ。足もとも上手く、最終ラインとの連係もいい”と言っていましたが、そのとおりの印象を受けた。イラン戦では決められましたが、PKやセットプレーでの対処も素晴らしかった」
 
 ただ、そのイラン戦では日本の守備陣の課題も見受けられたという。
 
「全体的にイランのパワーと圧力に押される感じでしたが、特にサイドで苦戦する印象を受けました。1対1や2対1の局面を作られて、それに対処できず、突破されて易々とクロスを上げられてしまっていたことが気になった。
 
 イランはシリアと違って技術面もフィジカルも強いので仕方なかったかもしれませんが、最終予選ではイランと同等、もしくはそれ以上のレベルのチームが勝ち上がって来る。それを踏まえると、日本は今から改善策を練るべきでしょう。最終予選では守備を安定させた“負けないサッカー”が求められる。課題を克服するのに、早いことに越したことはありませんから」
 
 ちなみに韓国はシュティーリケ監督就任以来、1試合平均失点0.4点と安定しており、8月5日の東アジアカップ・対日本戦で失点して以降は、5試合連続無失点中。「負けないサッカー=実利サッカー」と言われるようになった。就任から6か月が過ぎたハリルジャパンも、そろそろそのチームカラーの片鱗を見せる時か――。
 
文:慎 武宏
シン・ムグァン/1971年、東京都生まれ。韓国サッカー取材歴20年。近著に歴代コリアンJリーガーへのインタビュー集『イルボン(日本)はライバルか 韓国人Jリーガー28人の本音』(ピッチコミュニケーションズ)。