稲田朋美ホームページより

写真拡大

 大筋合意に達した環太平洋経済連携協定(TPP)への怒りの声が高まっている。とくに多くの品目で関税が撤廃されるため、影響が大きい農業関係者は切実だ。全国農業協同組合中央会(JA全中)の奥野長衛会長は「農家から怒りの声が上がっている」として森山裕農林水産相へ対応を求めた。

 全国の畜産・酪農団体でつくる「日本の畜産ネットワーク」は、合意内容は全畜種の経営に「非常に深刻な影響を与える」とし、日本養豚協会は「輸入肉が増えて国産相場が暴落するおそれがある。このままでは(養豚業に)夢がなくなる」。全国肉牛事業協同組合は「現場に報告する言葉がない」と嘆いている(「日本農業新聞」10日付「合意内容『厳しい』畜産別の影響試算へ」)。

 この怒りは交渉を進めた自民党安倍晋三政権に向かっている。

 しかも、安倍政権といえば、そもそもはTPP交渉に反対の立場だったことも怒りを激しくさせている。

 2012年12月の総選挙では、「聖域なき関税撤廃を前提にする限り交渉参加に反対」との公約を打ち出し、「ウソつかない。TPP断固反対。ブレない。日本を耕す!! 自民党」というポスターを大票田の農村にバラまいたが、政権に返り咲くと、4カ月の3月には安倍首相は「聖域なき関税撤廃が前提ではない」と交渉参加の姿勢に一転するなど大ウソをつきまくってきた。詳しい大ウソの数々は「検証!TPPで安倍政権は国民にどんな嘘をついてきたのか? 畜産物価格の暴落で日本の農家は壊滅の危機に」(http://lite-ra.com/2015/10/post-1560.html)を参照してほしい。

 息を吐くように嘘をつく安倍政権だが、なかでもひどいのが、安倍首相が「初の女性首相」候補として目をかけているという稲田朋美政調会長だ。自民党が野党時代に、民主党政権が進めたTPP交渉への批判の急先鋒が稲田だったのだ。「TPPは『日本壊国』宣言だ!」(「WiLL」ワック/12年1月号)では田中康夫氏との対談のなかでTPPに関して次のように反対している。

〈稲田 推進派はなぜか楽観的で『バスに乗り遅れるな』と言うけれど、行き先を分かっているのかと疑問です。どこに連れて行かれるか分からない、しかも途中下車もできないバスに国民を乗せるわけにはいきません。バスは乗り遅れるかじゃなくて、行き先が重要でしょう?
(略)
 稲田 農業だけの問題じゃない、日本の文明、国柄の問題なんです。これにどうして保守派が強硬に反対しないのかが、とっても不思議〉

 また、産経新聞11年11月7日付「正論 普天間のツケをTPPで払うな」では「TPPは米国の輸出拡大と雇用創出のためにある。普天間で怒らせた米国のご機嫌を取るために交渉に入るとすれば、政権維持のために国を売る暴挙だ。これ以上の失政の上塗りはやめるべきだ」「TPPは米国の基準を日本が受け入れ、日本における米国の利益を守ることにつながるからだ。それは、日本が日本でなくなること、日本が目指すべき理想を放棄することにほかならない。TPPバスの終着駅は、日本文明の墓場なのだ」と語っていたほどだ。

 ところが、稲田は先日、TPP交渉が大筋合意するとこんなコメントを出したのだ。

「TPPはアジア太平洋地域の未来の繁栄につながる枠組みだ。今後、国内で真に強い農業をつくっていくことはもとより、TPPがわが国の経済再生、地方創生に役立つものとなるよう、万全の施策を講じて参りたい」

 TPPは「アジア太平洋地域の未来の繁栄につながる枠組み」だと? 「日本文明の墓場」だったんじゃなかったのか!?

 大筋合意に達する直前にも、15年9月30日、米ワシントンのシンクタンク戦略国際問題研究所ではTPPへの態度の変節について次のように説明している。

「TPPに関しては大きな議論がありました。実をいうと、私も民主党政権時代はTPPに反対していたんです。TPP反対議連の幹事長をしていたんですが、それは民主党政権ではTPPというたいへん大きな国益のかかった外交交渉ができないと思っていたからであって、安倍政権におけるTPPについては、私は推進すべきだと思っています」と苦しい釈明するのだ。

 今のところはまだ、複数いるポスト安倍の一人でしかない稲田だが、この二枚舌はすでに首相級(笑)。ウソをつけばつくほどエラくなれる自民党の体質を考えると、"稲田総理"誕生の可能性はけっこうあるかもしれない。
(小石川シンイチ)