イラン戦前半の不安定な出来の要因に、指揮官の采配も原因のひとつにあると加部氏は見ている。写真:滝川敏之(サッカーダイジェスト写真部)

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 ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は、どこに照準を定め、この試合(イラン戦)をどう位置づけたのだろうか。
 
 一貫して「時間がない」と洩らし「練習を積めば伸びしろはある」と言い続けているが、それは就任前から判っていたことだし、世界中どこの国でも同じ命題を抱えている。そのなかで特別な手腕を発揮できなければ、高額で雇う理由はなくなる。
 
 イランはアジア内では突出してフィジカルとスキルが高かった。2人3人で囲んでも揺るぎなくボールを保持され、日本は高い位置でボールを奪えない。一方で相手の厳しいチェックに合うと、ビルドアップの段階でミスが連発するのはシリア戦のデジャヴだった。
 
 ただし不安定だったのは、指揮官の采配ミスも大きく影響している。最大のミステリーは、両SBの選択だ。右に酒井高徳、左に米倉恒貴。右利きの米倉が所属クラブでは右でプレーしているのは言うまでもないが、酒井のほうもなぜか右サイドでプレーをすると左でボールを扱おうとする。
 
 つまりどちらも苦手なサイドでプレーをしたわけで、オーバーラップに出ても切り返してからのクロスが基本になり、縦へ突破してのクロスは米倉が一度試みただけだった。30分過ぎには、米倉の吉田麻也へのバックパスが浮いて変則バウンドになり、決定的なインターセプトを許した(吉田はファウルで警告)が、これも慣れないサイドならではのアクシデントだろう。
 
 一方で前半終了間際には、日本がカウンターで宇佐美貴史が右サイドをフリーで駆け上がる酒井にパスを出しているが、酒井はわざわざ切り返して左足でクロスを上げながら、ゴール前でフリーの相手CBが跳ね返している。ちなみにイランは、このボールを拾ってからの攻撃でPKを獲得した。
 
 米倉の左へのこだわりも理解に苦しむが、酒井が右サイドではあまり機能しないことは、アルベルト・ザッケローニ時代の映像を見れば確認できたはずだ。丹羽大輝や塩谷司をSBとして招集していることからも、このポジションには攻撃力より安定した守備力を求めているのだろうが、アルジェリアを率いたワールドカップのベルギー戦のように、本大会では極端な守備偏重からのカウンターに活路を見出そうとしているなら危険だ。(実際東アジアの韓国戦でも似た采配だった)
 結局日本は、相手がフルパワーだった前半はエリア内に侵入してシュートを打つこともできず、ピッチコンディションの影響があったとしても、途中からはロングボールで武藤嘉紀を走らせるしか策がなかった。必然的に2列目の3人は、ほとんど消えた状態だったわけだが、指揮官が後半開始から代えたのは香川真司だけだった。
 
 だが試合の性格を考えれば、この時期に優先させるべきなのは、3年後のピークを見据えた発掘作業と競争力の促進だ。結果的に本田圭佑のクロスが同点ゴールを生んだわけが、むしろせっかく招集した南野拓実はスタメンで試すくらいの度量が欲しい。その点では、サプライズでも招集すれば堂々と使う腹の据わった采配を見せたハビエル・アギーレのほうが、代表監督の適性としては高かったかもしれない。
 
 なぜかイランが後半に入ると、極端にスタミナ切れを起こしたので、妥当な引き分けの印象が残った試合だが、やはりワールドカップ本大会で戦うような相手なら前半で試合を決められた上に、後半は逆に日本が消耗させられた可能性もある。確かにアウェーでのイラン戦は、適度な刺激を得られた。だが確認できたのは、せいぜいアジア内での立ち位置はあまり変わらなくても、世界との距離はむしろ広がっているということだろう。
 
 日本は経験豊富なメンバーで戦った。しかしイランは十代のMFや20歳のFWが堂々とプレーをした。ハリルホジッチ監督は盛んに伸びしろを強調するが、指揮官の状況把握の遅滞ぶりを含め様々な事情を考えれば、3年先のロシアでの目標達成の可能性は、相当に霞んでいる。
 
文:加部 究(スポーツライター)