なんとも、ウェールズらしい予選突破だった。

 10月10日に行なわれたサッカー欧州選手権予選、ボスニア・ヘルツェゴビナ対ウェールズ戦。敵地で引き分け以上の結果をつかめばウェールズの突破が決まるのだが、後半に2点を奪われて0−2の敗戦を喫した。しかし、同グループ3位のイスラエルがキプロスに敗れたため、本大会出場権となる2位以上が確定。試合には敗れたが、初めて欧州選手権への切符を手にしたのである。

「僕の人生で、一番の敗戦。難しい試合になったが、予選突破は決まった。キャリア最高の瞬間だ。国際主要大会に出るのは、子どものころから夢だった」

 エースのガレス・ベイル(レアル・マドリード)が声を枯らしながら叫ぶと、副主将としてチームを引っ張ってきたアーロン・ラムジー(アーセナル)も笑顔で続ける。

「ついに、歴史を変えた。俺らは小国のひとつに過ぎないけど、やっと、やっと、国際主要大会に行ける。夢が叶った」

 試合終了後、ベイルは敵地に駆けつけたウェールズサポーターの前で、「よっしゃー!」と歓喜の雄叫びを上げた。選手たちに胴上げされたクリス・コールマン監督は、何度も宙を舞った。1958年のW杯スウェーデン大会以来、58年ぶり2度目となる国際主要大会への出場を決め、ウェールズ一行は喜びを爆発させた。

 これまでウェールズは、ずっと日陰を歩いてきた。W杯では、1958年大会から14大会連続で予選落ち。本大会の出場歴のない欧州選手権でも、13大会連続で予選突破を果たせずにいた。

 それでも、扉を開ける寸前まで進んだことはある。2004年の欧州選手権予選では、イタリアとセルビア・モンテネグロと同じ組となったグループ9で、2位に滑り込んでプレーオフに進出。マーク・ヒューズ監督を筆頭に、ライアン・ギグス、ガリー・スピード、ロビー・サベージら実力派を擁して臨んだが、ロシアに0−1で敗れて本大会目前で涙を飲んだ。

 しかも、2011年には当時監督を務めていたスピードが、縊死(いし)しているところを自宅で発見されるという痛ましい事件も起きた。ショックを引きずったのか、2014年のW杯予選では6チーム中5位で惨敗。予選中にクリス・コールマン監督の解任論も浮上し、チームは危機的状況に陥った。

 こうした苦難と悲劇を乗り越え、ギグスやヒューズ、イアン・ラッシュ、スピードら先人たちが果たせなかった夢を成し遂げたのである。そのせいだろう、コールマン監督が、「監督として、選手として、そしてひとりのサポーターとして、この瞬間を待ちわびていた。今の気持ちは言葉にできない。わたしの世代、そして前の世代も、あと少しというところで厳しい経験をしてきたから」と噛みしめるように胸の内を明かしたのが印象的だった。

 しかし今回の予選では、これまでの苦戦が嘘のように安定飛行を続けた。ベルギーとボスニア・ヘルツェゴビナの強豪が同居する難しいグループに入ったものの、残り2試合の段階で5勝3分の無敗でグループ首位に立ち、最終節を待たずして本大会出場を決めたのである。

 しかも、快進撃を続けたおかげで、今年9月にはFIFAランクで史上最高位となる9位に浮上(現在は8位)。一方のイングランドは10位に転落し、1992年にFIFAがランキングシステムを導入して以来、初めて「サッカーの母国」を順位で上回った。約4年前の2011年1月には、117位まで落ち込んでいただけに、彼らの成長は目を見張るものがある。

 そんなウェールズの成功の理由は、いったいどこにあるのか──。功労者をひとり挙げるとすれば、間違いなくベイルである。3−5−1−1システムのトップ下に入り、シュート、ドリブル突破、スルーパスと、「仕掛けの局面」で全権を託された。実際、これまでに代表戦でベイルがゴールを決めた15試合のうち、ウェールズが勝利した試合は「11」。7割強の勝率を誇るだけに、彼の出来がウェールズのバロメーターにもなっている。コールマン監督は語る。

「ガレス(ベイル)は、世界最高峰の選手。何もない状況からゴールを奪い、ゼロの状況からゴールを作り出す。あれほどの才能があれば、彼のパフォーマンスが敵の脅威に直結する」

 ウェールズが今予選で挙げた9ゴールのうち、6点を叩き出しているベイルの存在なくして、ウェールズの悲願達成はありえなかった。だが同時に、コールマン監督はボスニア・ヘルツェゴビナ戦前にこうも指摘する。

「我々の躍進は、組織力の賜物。その証拠に、守備は強固で2失点しか許していない。団結力が高く、チームとしての完成度も高い。ベイルは、ここにプラスアルファの力をもたらしている」

 ラッシュやギグスら突出した才能を持つ選手がいるだけで、予選の壁を打ち破れないことは、過去の歴史が証明してきた。今回の予選突破は、チーム一丸となって掴んだ勝利なのである。

 事実、充実ぶりはピッチの上からも伝わってきた。最終ラインでは堅牢な守備を見せるDFアシュリー・ウィリアムズ(スウォンジー)が敵を潰し、中盤ではラムジーが攻守両面で活力を注入。背骨部分が固まったことで、攻撃の切り札であるベイルも気持ちよくプレーできた。さらに、MFジョー・アレン(リバプール)やDFベン・デイビス(トッテナム)といった脇役たちがしっかり仕事をこなすことで、英メディアに「黄金世代の到来」とまで評されるようになった。

 もちろん、彼らの成長は降って湧いたものでない。成功譚の原点は、2004〜2010年まで監督を務めたジョン・トシャック政権までさかのぼる。レアル・マドリードやスポルティング・リスボンの監督を歴任したトシャックは、ベイルやラムジーら若手を積極的に起用。現代表メンバーの大半は、このトシャックのもとで経験を積んだのである。「ここ6〜8年は、同じメンツで戦ってきた。僕らの成功は、長年積み上げてきた努力の成果」とベイルが胸を張るように、「組織の熟成」が進んだことこそが最大の勝因だ。

 これまでウェールズは、茨(いばら)の道を歩み続けてきた。耐えに耐え忍んできた分、本大会で大輪を咲かせる可能性は十分にあるだろう。「本大会でもやることがあるから、まだ立ち止まらない。次は強豪相手に挑戦する」とベイルは語る。来年、ユーロ2016決戦の地フランスで、「ザ・ドラゴンズ」(ウェールズの愛称)はどんなプレーを見せてくれるか──。今から楽しみでならない。

田嶋コウスケ●取材・文 text by Tajima Kosuke