乾貴士はリーガエスパニョーラ第5節のレバンテ戦で、日本人史上8人目となるスペインデビュー(1部)を果たしている。

 ウィークデーの試合で先発が入れ替わる中、左サイドのアタッカーとして先発した乾は一つの結果を残した。後半48分、左サイドでDFトーニョを切れ味鋭いフェイントで翻弄すると、中央にいたFWボルハ・バストンに戻してゴールをアシスト。72分、守備固めでDFと交代した。試合は追いつかれて2−2のドローで終わったが、乾は及第点のお披露目となった。

 第6節のセルタ戦、第7節のラス・パルマス戦と、乾は3試合連続の先発出場。地元関係者の評価は上々で、着実に実績を積み上げているように映る。

 しかし、リーガに定着することは簡単ではない。

 実は過去の日本人挑戦者も、移籍当初の評価はおしなべて高かった。ほとんどが問題なくデビューを飾り、その評判も悪くない。デビュー戦にして強豪相手に得点&アシストを記録した大久保嘉人のような選手もいるし、城彰二、中村俊輔、家長昭博も移籍当初は待望感が膨らんでいた。最後の挑戦者となっていたハーフナー・マイクも、開幕から数試合は先発の座が与えられていた。

 だがリーガにおいて、日本人挑戦者は全員が半年から1年半以内に撤退を余儀なくされている。乾がこれから立ち向かうべき壁の正体とは――。

「乾はカウンタースタイルに合うアタッカー。ゴールに対するスピードとテクニックを持ち、それがストロングポイントになっている」

 スペイン人ジャーナリストで監督ライセンスを持ち、その選手評はジョゼップ・グアルディオラも認める、というヘスス・スアレスは乾について以下のように批評を続けている。

「乾はボール技術に優れ、トップスピードにのりながら、少ないタッチでシュートポジションに持ち込み、ゴールをこじ開けられる。堅守カウンターを掲げるアギーレ(前)監督が、日本代表で彼を重用したのは偶然ではない。左サイドから中央に侵入する形は、多くの日本人アタッカーが得意とするが、その機動力とシュートの鋭さには舌を巻く。持ちすぎるエゴイストではなく、組織を重んじる日本人らしく機能的」

 乾が修羅場を生き抜く武器を持っているのは間違いない。サイドアタッカーとして5〜6番手でスタートしたが、入団1ヵ月あまりで2番手の座を奪いつつあるのはその証左だろう。

 ポジション争いの1番手は、2部でのプレーが長い苦労人であるサウール・ベルホン。昨季9チーム目となるエイバルで1シーズンを過ごし、29歳で遅咲きの花を咲かせつつある。乾と2番手を争うのが、名門アトレティコ・マドリードの下部組織出身のケコ。彼も23歳にしてセリエAを含めて8チーム目になる。これに追随するのが、セリエAのエンポリから移籍してきたシモーネ・ヴェルディ、ブレーメンから期限付き移籍のボスニア・ヘルツェゴビナ代表イゼト・ハイロビッチだろう。そしてダビド・ジュンカは左利きのサイドバックだが、開幕から、守勢に回る時間帯は左サイドアタッカーのスペアになっている。

 もっとも、席順は常に変わりうる。

 デビュー3戦目のラス・パルマス戦、スペイン大手スポーツ紙「as」の乾に対する評価は0〜3(3が最高)で1だった。ライバルたちは虎視眈々とその座を狙う。乾の場合、語学の面やプレー環境の変化などハンデも抱えている。過去にリーガに移籍した日本人は順応しようと凄まじいエネルギーを使うため、1〜2ヵ月後には心身のパワーダウンを余儀なくされているのだ。

 そして忘れてはならないのは、乾が順応度を高める一方、対戦相手も彼に順応する点だろう。なにしろ、相手ディフェンダーはメッシやC・ロナウドと日常的に戦って鍛えられている猛者たちである。

「乾はテクニックを出せない状態に追い込まれる可能性があるだろう」

 スアレスは賞賛を送る一方、苦言も呈している。

「一つは守備の難点。筋力が弱いせいか、球際で怯むところがあり、ポジショニングも鍛えられていない。事実、レバンテ戦の失点は乾のポジションから浴び、セルタ戦は敵が明らかに乾のスペースを狙い、崩していた。"短所の発疹"が出始めている。また、リーガの有力ディフェンダーは乾の技術の高さを素早く見抜き、対処してくる。高いレベルで成功するには、全体のプレースキルを上げる必要がある」

 リーガの手練れディフェンダーは、短所を見つけるとグリグリと抉(えぐ)ってくる。乾は長所を見せつける必要があるが、相手はそれを封じるために工夫、対応してくる。はたして敵に応じて乾は成長進化できるのか。その適応力こそ、壁の正体と言える。

 デビュー戦のアシストのように足掛かりを作りながら、焦らず弛(たゆ)まず、その壁をよじ登っていくしかない。

小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki