Doctors Me(ドクターズミー)- 【医療現場のウソとホント】第3回:当直って、どんな感じですか?

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体調を崩してしまったときに夜遅くでも朝早くでも、病棟を備えた医療機関の救急外来を受診すると、お医者さんが必ず現れます。症状の専門科ではなくても応急処置を行ってくれたり、翌日の各科受診についてアドバイスをくれたりと、当直医は時間外診療を支える重要な存在です。

今回はこの「当直医」についてお話します。

法律で定められていること

医療に関わる法律では、応召(おうしょう)義務といって正当な理由なく医師は診察治療を拒んでいけない[医師法 第19条]とか、入院設備を持つ場合は医師が毎日宿直しなければいけない[医療法 第16条]と決められています。眠そうな目をこすりながらお医者さんが時間外に現れたときは、これらの法律に則った当直勤務をしているのです。

私も数年前まで各病院で内科系の当直勤務(あるいは、宿日直勤務とも呼ばれます)を続けていたのですが、真夜中や早朝であってもきちんと診療しなければいけない責務を感じる日々でした。疲れたとか眠いという医師個人の事情は法的に無意味ですから、文字通りの”不眠不休”を乗り越えなければなりません。

学生時代に気がついた当直の過酷さ


私にとって初めての当直は、医学部生の臨床実習でした。6年間の学生生活では、後半2年間に大学病院を含む近隣の医療機関に赴き、医師の指導を受けながら泊まり込みでグループ実習を行うのです。

当直は夕方に開始ですが、当日も朝から通常勤務をしているのが日本では普通です。医学部生として初の当直突入に際しても、朝からこれといった大きな変化があるわけでもなく、なんだか拍子抜けしました。
しかし、まもなく家に帰れない事態(院内で働きつづける)の重大さに気がつきました。当直中の医師には、プライベートな休憩時間がありません。トイレに行きたい、お風呂に入りたいといった欲求は、患者さんのご事情より後回しにしなければいけないのです。先輩医師の奮闘ぶりを目撃しながら、これが人生の中で何を意味するか、懸命に理解しようとしました。「どうやら、私たちは大変な職業に就くらしい…」と感じるばかりでした。

サイレンを鳴らしながら救急車が次々と到着する中でも、先輩医師はテキパキと看護師に処置を指示し、各スタッフと連携しながら診察をこなしていきます。救急室前のソファには何名もの患者さんが黙って待っており、医師に診てもらうまで我慢しているのです。混雑した時間外の外来だけでなく、入院病棟からも次々と連絡が入り、医師は病室まで駆け足で移動していきます。「医師とは走る職業なのか」と驚いたのが、私の人生にとっての”当直開始”でした。

安心安全な医療を支えている

2001年に医師国家試験に合格し、新米医師になってからも、各科でのローテーション研修に当直がありました。内科系では緊急の内視鏡治療やカテーテル検査を経験し、外科系では真夜中の緊急手術。産婦人科では急な分娩や帝王切開手術などを先輩医師と一緒にこなし、救命救急センターでは交通事故や火災などの患者さんを診てきました。

2004年からは医師全員に初期臨床研修(2年間)が義務化されたので、現在の新米医師は私も経験したように、各科の特色ある当直をこなしています。回数は数日から週に1回程度が多いようですが、朝から勤務開始をして夜通し働き、翌朝以降も昼から夜まで連続して働きつづける過酷さは変わりません。
私はこうした当直を「36時間勤務」と勝手に呼んでいましたが、夜中に少し仮眠できたとしても、救急対応への準備は欠かせず、白衣を着たままの緊張感からは解放されません。腕時計を眺めながら、12時間目、24時間目、30時間目と数えている自分は、やはり大変な職業に就いてしまったと率直に感じました。

けれども、夜間に診察や緊急治療ができる当直勤務が実施されているからこそ、日本の医療は安心安全なのです。近所に入院病棟があれば医師が当直していると分かりますし、日中と変わらない高度な医療体制を維持している場合もあります。交代勤務の看護師や薬剤師、各技師や事務員も含めて、当直時間帯は献身的な医療スタッフによって今日も支えられています。

ハードワークの危険性もある


ただし、心身の消耗を起こしやすい当直勤務を続けることで、医師に深刻な過労をもたらして、医療ミスを誘発する不安はぬぐえません。午前10時でも翌日深夜2時でも、同じ水準の診察と決断を求められる大変さは、実際に経験している医師でないと説明しにくいものです。医療機関によっては医師が中年に達すると当直免除となりますが、これは若い医師が当直を引き継いでくれるから可能です。地方によっては慢性的な医師不足が解消せず、高齢医師でも免除されずに、当直医の順番も組みにくい事態が起きています。

もちろん、当直勤務を担当していない医師も日中の診療に大きな責任を負って働いています。人命に関わる判断を行う重圧は職業の宿命ですし、残業で夜遅くまで勤務している医師(当直医と医局で一緒にいたりする)も少なくない。過労死の一歩手前で働いていたとしても「あの先生は仕事熱心で、頼りになる良い先生だ」と評価されてしまえば、真面目な医師は逃げ道が閉ざされてしまうこともあります。

お医者さんたちが夜遅くでも当直している光景は、決して当たり前ではなく、各自の懸命な努力によって維持されているのが、日本の実情です。

ワンポイントアドバイス

夜の救急外来のほうが空いているとか、平日は忙しくて…といった理由で受診し、当直医の限られた労力を誰かが使ってしまうと、当直時間帯の治療が破綻してしまうのは当然です。お医者さんも人間ですから、空腹や眠気を感じるわけで、やむを得ない症状以外で当直医を尋ねるのは、できるだけ避けた方がいいでしょう。

もちろん、当直医は我が身を削って診療しているだけでなく、治療が必要な皆さんの受け入れ準備を整えようと夜間も努力しています。でも利用される皆さんのちょっとした配慮によって、当直医の自由時間が少し増えるだけで、もっと余裕を持って診療できるようになるのです。気になる症状があれば、なるべく平日の日中に時間を作って各科を受診したり、各自治体の救急相談センターなどを利用してみることも必要です。
 
「当直は、どんな感じですか?」
その答えは、何年も訓練した技能を発揮しつつ、眠気や疲労と戦いながら全国の医療を支えている感じ。さらに言えば、医学部生時代からの忍耐と根性をもって、それぞれのご病状と勝負している感覚。私たちの脳裏にうかぶ当直中の光景は、各医師が独自に磨き上げている治療実績そのものです。

とはいえ、お医者さんにも心身の限界があり、日常生活があり、家族も恋人もいるわけで、皆さんと何も変わりません。多忙で余裕がない様子であれば、少しのお気遣いだけでも、当直中のお医者さんは助けられます。
そして本当に困ったときは、遠慮なく頼っていただければ良いのです。質の高い医療の存続は、患者さんのご配慮とご協力あってこそ可能だと私は思います。

〜医師・医薬コンサルタント:宮本 研〜