F/A-18E/F「スーパーホーネット」へ搭載されるAIM-9Xサイドワインダー2000(写真出典:アメリカ海軍)。

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“実戦でもっとも証明”された空対空ミサイル「サイドワインダー」。いま大きく進化しており、「古典的な格闘戦」は完全に過去のものになりそうです。

もっとも“実戦で証明”された空対空ミサイル

 赤外線誘導の空対空ミサイルAIM-9「サイドワインダー」。アメリカ・レイセオン社製のあまりにも有名なこのミサイルは、世界でもっとも“コンバットプルーブン(実戦での証明)”された、主に戦闘機へ搭載される短射程の空対空ミサイルとして知られます。

 2015年9月、その最新鋭型であるAIM-9XブロックII「サイドワインダー2000」が、全規模量産へと入りました。この「サイドワインダー」シリーズの主なタイプと歴史を簡単に振り返りながら、AIM-9XブロックIIは何が可能となるのか、その能力に迫ってみましょう。

 最初期型のAIM-9Bは、台湾空軍のF-86F「軍刀式(セイバー)」戦闘機に搭載され1958(昭和33)年、“史上初の空対空ミサイルによる実戦”へ投入されました。

 ただ、ミサイルの先端に設けられた赤外線シーカー(探知機)が、ジェットエンジンのノズルから発せられる強い特定の赤外線しか検知できなかったため、正確に敵機の真後ろから射撃する必要があり、さらに敵機が水平飛行しない限り、ほとんど命中は見込めないという、いまでは考えられないほど信頼性に劣るミサイルでした。

 しかし機関銃よりはるかに当ったため、一時は“戦闘機の機関銃”を過去のものとしてしまいます(機関銃には機関銃の良いところもあり、結局、機関銃は復活しますが)。

進化する「サイドワインダー」 すれ違う敵機への射撃が可能に

 1982(昭和57)年、イギリス海軍の「シーハリアーFRS.1」に搭載され、フォークランド紛争へ投入されたAIM-9Lは、従来型では補足できなかった機体と空気との摩擦熱から発せられる特定の赤外線を捉えることが可能となり、「オールアスペクト(全方位)照準能力」を獲得します。

 ついに敵機と正面から向き合った状態でも射撃が可能になり、撃破確率は80%へ到達。「撃てば命中する」ミサイルとなりました。この戦いで「シーハリアー」は、アルゼンチン空軍の戦闘機に完勝します。

 そして最新鋭のAIM-9Xには、「オフボアサイト照準能力」がもたらされました。「オフボアサイト照準能力」とは、正面方向(ボアサイト)以外の目標を捕捉可能であることを意味します。

 AIM-9Lは、自機の機首を中心にして広がる30度の扇型の内部へ敵機を置き、「ロックオン」してから射撃する必要がありました。しかしAIM-9Xは、パイロットのヘルメットと連動して一旦、パイロットが見た方向へミサイルを飛ばします。その後、ミサイルが標的をロックオン。そのため攻撃可能な角度は自機の機首を中心に90度、すなわち真横をすれ違う敵機にさえ射撃が可能です。

 またAIM-9Xのロケットノズルは推力偏向方式となっており、噴射の方向を制御することで自機の後方へと回り込める高い機動性を持っています。

 このAIM-9Xと同等のミサイルとしては、イスラエルの「パイソン5」、イギリスの「アスラーム」、欧州共同開発の「アイリスT」、ロシアのR-74、日本の04式空対空誘導弾などがあります。旧世代のAIM-9Lは、いまも航空自衛隊のF-15など世界中の戦闘機に搭載されていますが、すでに新世代のミサイルが世界的な主流を占めるようになっています。

背後もOK 最新型「サイドワインダー」、脅威の性能

 そして今年、全規模量産に入ったAIM-9「サイドワインダー」シリーズの次世代タイプが、冒頭で述べたAIM-9XブロックII(以下AIM-9X-2)です。AIM-9X-2ではオフボアサイト攻撃能力が大幅に強化され、照準可能角度はついに180度に達しました。つまり、背後の敵さえ攻撃できるようになります。

 また、航空自衛隊への導入も予定されている戦闘機、F-35「ライトニングII」は全方位を自動で監視する「EO-DAS」という装置を搭載しており、AIM-9X-2と組み合わせることによって、従来の格闘戦のように敵機を正面に捉える必要すらなくなります。

 そうした性能を持つF-35Aは、機関銃射撃ソフトウェアが実装されないまま実用化される見込みであり、空中戦において機関銃が使われるような事態を想定していません。加えて垂直離着陸型のF-35B、艦上戦闘機型F-35Cからは、機関銃自体が取り外されています(対地攻撃用に外部搭載することは可能)。

 さらにAIM-9X-2の赤外線シーカーは、デジカメと同様に多数の画素(ピクセル)を持った画像認識型であり、対地攻撃も実現しました。対地攻撃専用のミサイルに比べ威力が小さく、戦車などには無力ですが、非装甲車両や小型の船舶を破壊するには十分です。そして画像認識は、空中戦においても閃光を発する囮「フレア」を見分ける能力に優れます。

 戦闘機の空中戦は現在、数十kmの距離による視程距離外空対空ミサイルを用いた戦いが主流です。しかし、今後も接近戦は発生するでしょう。ただ、それは背後を取り合う「古典的な格闘戦」を意味するものではなくなっています。