『アベンジャーズ』で破壊された街を守るドラマ


この9月、ついに日本上陸を果たした世界最大のインターネット映像配信ネットワーク「Netflix」。動画配信サービスの“黒船”と呼ばれるラインナップはさすがのひとこと。
北米資本だけに洋画の強さは圧倒的で、ノーラン版バットマン三部作『ビギンズ』『ダークナイト』『ダークナイト・ライジング』をそろえ、『ハンガー・ゲーム』や『メン・イン・ブラック3』などメジャー作も押さえている。
かと思えば『アイアン・スカイ』や『武器人間』などSFバカ映画もある心ニクさ。テレビアニメはちと弱いが、『魔法少女まどか☆マギカ』や『キルラキル』をHD画質で楽しめるのは嬉しい。


しかし、「このためにNetflixに加入すべき」という作品を一本だけ推すとすれば『デアデビル』をおいて他にないだろう。
『デアデビル』はNetflixのオリジナルドラマ。地上波どころか他の動画配信サービスでも見ることのできない、独占タイトルだ。原原作は同名のマーベルコミック、つまり『スパイダーマン』や『X-MEN』と同じアメコミヒーローもの。

このドラマはマーベル・シネマティック・ユニバースの一つでもある。ハリウッド映画『アイアンマン』、『マイティ・ソー』、『ガーディアンズオブギャラクシー』と世界観を同じくする地続きの作品なのだ。
映画ばかりと思われやすいシリーズだが、Huluでも配信してる『エージェント・オブ・シールド』(『アベンジャーズ』で死んだと思われていたフィル・コールソンが活躍する話)など連続ドラマでも展開していたりする。
デアデビルが活躍する舞台は、『アベンジャーズ』でチタウリ艦隊と決戦を繰り広げたニューヨークの一角にあるヘルズキッチン。ハルクやアイアンマンが大破壊をやらかした(人命を守るためだが)足元にあり、宇宙的観点からトバッチリを食って大迷惑したスラム街だ。

消火器を悪人の頭上に落とす盲目のヒーロー


主人公のマット・マードックは、幼いころに放射性廃棄物質を目に浴びて視覚を失った代わりに、超人的感覚を手に入れた。大人になったマットは昼は盲目の弁護士、夜は極限まで鍛え上げた身体能力を武器に、「デアデビル」として法では裁けぬ悪を裁くのだった……日本的に言うと必殺仕事人(殺さないけど)ですな。
デアデビルは人間としては強い。ボクサーだった父からパンチ力を受け継ぎ、盲人の師匠スティックから格闘技を学び、超感覚でビルを駆け上って車を先回りもする。心臓の音で相手の真意を見抜くウソ発見能力まで備えている。
ただ、身体はあくまでフツーの人。だから、一話目で衝撃的なヒーローデビューを飾ることになる。ロシアマフィアにナイフで全身を切り刻まれ、たまたま通りかかったナースの部屋に転がり込むという。

デアデビルは殺しをしない。逆に言えば「不殺」の限りは何でもする。敵の手先である刑事の頭上に、階段の上から消火器を落とすヒーロー!うん、確かに殺してない。
無敵じゃない、だから容赦しない。でも殺してはいけない…「殺さないだけの余裕」がないデアデビルは、手心を加える余裕のあるアベンジャーズの面々とは違った魅力がある。
街のため、生きるため、激情に駆られて殺意を抱いた…罪深い自分を教会に懺悔しに行くアメコミヒーローは他には考えにくい。対テロ戦争とはいえ無辜の人を巻き込んでいいのかと苦悩する映画『ドローン・オブ・ウォー』と同じく、現代の「悩めるアメリカ」の十字架を背負うヒーローなのだ。

巨悪のボスも「街を復興したい」と願う善意の人


『デアデビル』のオリジナリティは主役のヒーローよりも、悪役のあり方にあるかもしれない。
デアデビルが打倒を誓った巨悪であるウィルソン・フィスク(原作コミックでは「キングピン」と呼ばれる)は、「善意」の人だ。自分が生まれ育ったヘルズキッチンを、アベンジャーズの戦いで破壊された街の復興を心から願っている。
そのためには手段を選ばない。中国マフィアが量産した麻薬を、ロシアマフィアを使って売りさばくことも、すべては街のためだ。愛するヘルズキッチンを良くしたい、俺とお前は似た物同士だ…というフィスクに、マットは違う!と声を荒げる。痛いところを突かれたからだ。

フィスクは恋をする。アートギャラリーの従業員ヴァネッサに捧げた愛には、一切の打算も不純物もない。彼女はフィスクを金儲けのパートナーとしか思ってない金庫番のリランドにとっては邪魔でしかなく、やがて決定的な亀裂へと繋がることになる。
このドラマに脇役など一人もいない。かつて巨悪を追い詰めた敏腕ジャーナリストのベン・ユーリックは寝たきりになった妻の介護を街の平和より優先する、人として当然の振る舞いをする。
マットに助けてもらった美女カレン・ペイジは、デアデビル以上の正義感でフィスクを追求しようとする。法に則り、ベンと協力して「ペンは剣よりも強し」を信じるカレンは、デアデビルよりも真っ当なヒーローともいえる。
いい意味で期待を裏切られたのが、マットと共同で弁護士事務所を開く親友のフォギー・ネルソン。愛嬌のある顔をしているが、「弁護士」として悪と戦おうとする心のイケメンだ。学生時代からの、マットとの思い出のエピソードがまたアツい。こんな親友を持ちたいと思える作品なんてそうはないはずだ。

『ダウントン・アビー』の公爵がマッチョに!


主演のチャーリー・コックスは『ダウントン・アビー』でクロウバラ公爵だった人。あのチャラい貴族がマッチョに鍛えあげて血まみれ傷だらけ、全身タイツでマフィアの頭上に消火器を落とすヒーロー(大事なことなので二回言いました)を体当たりで演じてる『デアデビル』は、海外ドラマ好きなら絶対に時間は損しないと約束できる。同じマーベル・シネマティック・ユニバース仲間の『アントマン』を劇場で観る方は、こちらも!
(多根清史)