10月の"中東シリーズ"(8日=W杯アジア2次予選vsシリア/オマーン・マスカット、13日=親善試合vsイラン/イラン・テヘラン)に旅立った日本代表メンバーに、その顔を見るのは久しぶりのことだ。

「自分は代表にはいない(タイプの)選手だと思っているし、代表でも活躍できると思っている」

 かねてからそう語り、日本代表招集を待望していた柏木陽介(浦和レッズ)である。

 柏木が日本代表でプレーしたのは2012年2月、アイスランドとの親善試合(3−1)が最後。今年8月に行なわれた東アジアカップでは、およそ3年半ぶりに招集されながら、左足内転筋を痛めて泣く泣く辞退していただけに、「チャンスをもう一度」の気持ちは強かった。

 今回の中東シリーズには公式戦(W杯予選)も含まれているため、柏木は「ここで呼ばれるとは思わなかった」とは言うものの、「(代表に)近い位置にいるかなとは思っていたので、すごくビックリしたというわけでもない」と、朗報を落ち着いて受け止めた。

「W杯予選という大事な試合で呼んでもらえたのは、東アジアカップ後の(Jリーグの)試合でやっていたプレーを認められたということだと思う」

 今回は東アジアカップのときと違い、国内組だけで編成された日本代表ではない。また、自身が最後に出場したアイスランド戦も国内組だけで臨んだ試合だったということもあり、柏木は今回の招集を「久しぶりに実力で勝ち取った代表」と表現する。「これだけ(Jリーグで)やっていれば呼ばれる」と言い切るほどに、Jリーグで優れたパフォーマンスを示しているという自負がある。

 現在の浦和の試合を見ていると、柏木が攻撃のテンポを決めていると言っても過言ではない。さながらバスケットボールのポイントガードのごとく、後方でゆっくりとパスをつなぎ、「ここはじっくり攻めるぞ」とメッセージを送ったかと思えば、機を見てワンタッチで縦パスを入れ、「ここから一気にスピードアップして攻め切るぞ」とばかりに攻撃のスイッチを入れる。

 後方で攻撃を組み立てながらも、前線でフィニッシュに絡む。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督が期待するのも、まさにそんなプレーである。柏木は「自分がチームを動かすくらいの気持ちでやりたい」と話しているが、まさにそうあるべきだ。

 ともすれば、守備を固める相手に単調な攻撃に終始してしまう現在の日本代表において、チーム全体の「どう攻めるのか」という意思を統一させる。そんな役割が柏木には求められる。岡崎慎司(レスター/イングランド)、本田圭佑(ミラン/イタリア)、香川真司(ドルトムント/ドイツ)ら前線には能力の高いアタッカーがそろっているだけに、攻撃の道筋さえ整理してあげられれば日本代表の得点力はずいぶんと高まるはずだ。

 とはいえ、「とりあえずは(試合に)出られるようにがんばりたい」が本音である。試合に出なければ何も始まらないことは、柏木自身よく理解している。実際、「(ハリルホジッチ監督が)急に入った選手をボランチで使うのは難しいだろう」とも口にする。

 加えて、コンディションも万全とは言い難い。東アジアカップを辞退する原因となった左足には依然として不安が残っている。東アジアカップ開催中はJ1が中断していたこともあり、「しばらく練習を休んだ」と柏木。リーグ戦再開後も先発出場してはいたが、試合後には「足がしびれてきて、もう限界だった」と明かすこともあった。

 今回の代表メンバー発表直後の試合となった10月3日のJ1第13節サガン鳥栖戦(1−1)でも、できるだけ左足への負担を減らそうと、CKはほとんど蹴らず、キッカーを梅崎司に任せた。試合中、力強いパスやミドルシュートが少なく、柔らかなキックが多かったことも、足の状態が完全でないことをうかがわせる。

 それでも柏木は覚悟を決めて、3年半ぶりの日本代表に臨む。

「これを逃したら、もう(代表に呼ばれる)チャンスはないかもしれないから」

 先に公式戦(W杯予選)があり、その後に親善試合という試合順は、"新顔"である柏木が出場機会を得るには好都合だろう。先に親善試合であれば直後に控えた公式戦のための主力組の準備に使われかねないが、これならば主力組を中心に公式戦に臨み、その後の親善試合では新戦力を試すという流れが作られやすい。また、柏木の足の状態を考えても、時間的猶予が生まれることはプラス材料となるはずだ。

 今回の中東シリーズで柏木にどれほどの出場機会が与えられるのかはわからない。だが、日本代表にかける強い思いとは裏腹に、柏木は"ラストチャンス"を前にしても、意外なほど肩の力が抜けているのも確かだ。

「もう緊張する歳でもないしね」

 27歳のレフティは心を落ち着けて、来るべきチャンスを待っている。

浅田真樹●文 text by Asada Masaki