2015年のセ・リーグ全日程が終了し、首位打者、本塁打王、打点王の主要打撃3部門のタイトルはヤクルトの3選手が独占した。

首位打者/川端慎吾.337

本塁打王/山田哲人 37本

打点王/畠山和洋 105打点

 シーズン195安打を放った川端は年間最多安打のタイトルも受賞。山田も34盗塁をマークし、プロ野球史上初となる「本塁打王&盗塁王」のダブル受賞を飾った。そしてなにより、首位打者、本塁打王、打点王が同じチームでそれぞれ違う選手が獲得するというのも史上初のことだった。

 2番・川端、3番・山田、4番・畠山と続く打順は、それぞれがタイトルを獲得する上で理想的な並びであり、結果、14年ぶりのリーグ優勝の大きな要因となったことは間違いない。中日の大野雄大は3人が並ぶ打線についてこんなことを言っていた。

「他のチームの場合は、4番、5番の前にランナーをためないことを意識して投げていますが、ヤクルトを相手にすると、それが2番からはじまって、3人続くのでとても大変なんです(笑)。山田と川端さんは同じようなイメージです。ホームラン数は全然違いますが、川端選手も長打力があります。畠山さんは、打率はそれほど高くないんですが、甘いところに投げたら簡単にヒットを打たれてしまう」

 ここで3人の今シーズンを振り返ってみたい。

 プロ15年目にして初のタイトルを獲得した畠山は、バッティングについていつも深く考え込んでいた。バッティング練習では「バットの出方が悪いのかな......」「ヘッドスピードが遅いな......」など、首をかしげながらバットを振っていた姿が印象に残っている。

「今年は納得できた打席が少なかったですね。バランスが良くなかった。ホームランを打っても『なんで打てたんだろう』という感じの打席が多かった。ライナーやセンター返しを意識していたのですが、それがうまくいかなかった。といっても、バランスばかり意識して、相手との勝負に入っていけないようだとプロの選手としてよくない。自分の状態やバランスが悪いことを理解した上でピッチャーと勝負していく。そこを意識してやってきました。でも、練習では少しでもバランスが良くなるようにやっていました。そこでの葛藤というか、やり方が難しかったですね」(畠山)

 今年は「打点王を獲りたい」と発言し、それを実現したのだが、畠山の胸中は複雑だった。

「打点の数だけ走者を返したということなんでしょうけど、得点圏打率は去年の方が高かったですからね(昨年は.402で今年は.288)。山田や川端、さらに1番の比屋根(渉)らがそれだけの機会を与えてくれたということで、僕の実力で獲れたとは思っていません。そこは打率にも現れていて、昨年が.310で今年が.268。やはりバランスが悪いということなんです。バランスが悪いからこそ、引っ張りにかかってホームランが出る。それは僕の目指しているところではないんです。結果的にチームの勝ちにつながっているので、それはそれでいいのですが、得点圏でホームランではなくヒットがほしい場面で自分の狙った打球が打てなかった。だから、納得できていない部分が大きかった」

―― 川端選手、山田選手、畠山選手と続く打線は、二死走者なしからでも得点の期待感がありました。実際、共鳴するようにヒットを重ね、わずか数分で得点する場面も多くありました。

「今年はバランスが悪かったので、ここぞという場面で"最大集中"したいという思いがありました。もちろん、全打席集中しているのですが、全打席を最大集中というのは難しいので......。相手のボールを見極めながら、その日、いちばんの場面で最大集中しようと。そういう意味で、僕の意識とマッチした打順だったのかもしれません」

 また、首位打者に輝いた川端も自身初のタイトルとなった。シーズン195安打が示すように今季はヒットを量産。1試合3安打以上は21試合を数えた。そして2番打者ながら犠打はわずかに2個。真中満監督が理想とする「攻撃的2番打者」を現実のものとした。

 今季の川端のバッティングを見て感じたことは、好不調の波が緩やかだったことだ。たとえば、2試合無安打に終わっても次の試合できっちり3安打を放つなど、シーズンを通して明らかなスランプは一度もなかった。

「休日には治療院に欠かさず行きましたし、コンディションの悪い日が少なかったことがいちばんですね。体が元気な分、しっかり練習することができしたし、痛いところなく試合に臨むことができました」(川端)

 杉村繁チーフ打撃コーチは「今年、ウチでいちばんバットを振ったのは川端じゃないかな」と言った。実際に川端は早出練習で、ショートゲーム(緩いボールを打ち返す練習)のあとにティー打撃をするなど、かなりハードな練習を続けていた。さらに、真夏のある日、早出のバッティング練習のあと、外野のポール間のダッシュを何度も繰り返していた。

 杉村コーチが続ける。

「天才が努力すれば結果はついてきますよ。天性のハンドワークと、ボールをバットの芯に当てる能力の高さ。広角に打て、打席でも粘ることができるからあっさり打ち取られることが少ない」

 今回のタイトル争いの中で、最後まで目が離せなかったのが首位打者争いだった。川端が3安打すれば、山田も負けじと3安打。山田がその差を一気に縮めれば、翌日には川端がまたその差を広げるといった場面を何度も見た。

―― 山田選手や畠山選手の活躍は刺激になりましたか。

「うーん、ちょっとはあります(笑)。でも、本当に意識はしてないんですよ。打席でもヒットを打ちにいこうとか思ってないですし。とにかく『つなごう』『フォアボールでもいいからランナーをためよう』と。今までもそういう意識でやってきましたし、それを変えて『なんとかしてヒットを打とう』とは思わないですね」

 そして山田哲人。前述のように本塁打王と盗塁王の二冠というプロ野球史上初の選手となったわけだが、3割、30本塁打、30盗塁の"トリプルスリー"も達成した。打撃に大きな注目が集まる山田だが、今季は守備、走塁でも飛び抜けた成績を残している。

 走塁面では、盗塁数もそうだが、出塁すれば相手バッテリーにプレッシャーを与え続けた。守備でも相手チームの脅威になり、山田が関わり完成させた併殺は二塁手では断トツの103個。春のキャンプで三木肇作戦兼内野守備走塁コーチと立てた「ダブルプレーに強い二塁手になろう」という目標を達成したといえるだろう。

 開幕直後、山田は「今年は相手から嫌がられる野球選手を目指したい。そういう選手がチームでも信頼される選手だと思います」と語っていたが、まさにその通りの選手へと成長した。三木コーチは言う。

「守備に関していえば、昨年までならダブルプレーにならなかったものが、今年は取れている。相手にしてみれば、ヤクルトと対戦して、ゴロを打たされるとダブルプレーの確率が高くなる。守備に関しても、走塁に関しても、そういう見えないプレッシャーを相手に与えることは、自然と『ヤクルトと対戦するのは嫌だなぁ』と思わせているのではないでしょうか」

 さて、ファンの中には山田の三冠王を期待した人もいただろう。三冠王達成はならなかったものの、そんなすごい打者とタイトルと争ったのがチームメイトであり、それこそ今年のヤクルトを象徴する出来事だった。たとえば数十年後にプロ野球の記録を眺めた時、2015年の優勝チームはヤクルトとあり、打撃タイトルの項目には川端慎吾、山田哲人、畠山和洋の名前が並んでいるのである。それを見れば、2015年シーズン中に見た神宮球場での練習風景を懐かしく思うはずだ。

 早出のティーバッティングで山田が汗を流し、その横で順番待ちをしている川端が練習を眺め、時おり楽しそうに会話を交わしている。そこへバットをぶら下げた畠山が近づいてきて、山田と川端を見て「オレもこの中に入れば打てるかな」と、無邪気な笑顔を見せていた。山田は前日、川端は前々日にそれぞれ4安打を放っていたからだった。3人とも高卒でヤクルトに入団し、年齢は5歳ずつ離れているが、じつにいい関係を築いているように見えた。

 この3人が残した偉業は、これからも語り継がれるに違いない。

島村誠也●文 text by Shimamura Seiya