過熱するクラフトビール人気!? 果たしてこのまま伸び続けられるのか

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■「ビアフェス」はバブルなのか

この数年、急速に存在感を増している「クラフトビール」。前回は「なぜクラフトビールが注目されるようになったのか」について見てきました(http://president.jp/articles/-/16271)。後編となる今回は「今何が起きているのか、そして今後どうなっていくのか」について触れたいと思います。

クラフトビールブームのきっかけでもあり、また結果でもあるのが、「ビアフェス(ビールイベント)」の広がりです。ビアフェスには全国のクラフトビールメーカーが出店しており、参加者は有料でさまざまな味わいのビールを楽しむことができます。中には一定の参加費を払うと小さな試飲用のグラスを渡され、出店しているブースのビールが飲み放題になるという、ビール好きにとってはたまらないタイプのものも数多く開催されています。

日本におけるビアフェスは、元々はドイツで9月中旬から10月初旬にかけて開催される「オクトーバーフェスト」に由来するものですが、日本ではオクトーバー(10月)に関係なく、1年中全国各地で開かれています。2015年の開催状況を見ると、「オクトーバーフェスト」を名乗っているもので全国のべ11回、「ビアフェス」と銘打ったものがのべ7回となっています。これらメジャーなもののほかにも、各地で無数にクラフトビールをテーマにしたビアフェスは開催されており、ある意味現在は「ビアフェス・バブル」と言えるかもしれません。

■大手4社も無視できない存在感

また、この数年でクラフトビールを前面に打ち出した飲食店も数多く誕生しています。それらの店では、「タップ」と呼ばれる樽生ビールの注ぎ口がカウンターにずらりと並んでいます。大手メーカーのビールは、「自社の営業マンすら味の違いがわからない」と揶揄されることがあるほど、商品の味覚的な差異は決して大きいとは言えません。もちろん、日本全国で広く飲まれることを目指すならば、同じようなテイストに収斂されるのももっともかもしれません。それに対して、クラフトビールの多くは味や香り、そして液体の色もまちまちで、クラフトビールを提供する飲食店では、お客が楽しそうにそれらの違いを味わっている様子を見ることができます。

そんなクラフトビールをテーマにした飲食店の中で注目すべきは「ブルーパブ」の存在です。ブルーと言っても青の「BLUE」ではなく、醸造を意味する「BREW」のことです。すなわちブルーパブとは、店内でビールを自家醸造するタイプの飲食店のことを指しています。

食の世界では「産地直送」や「出来たて」、あるいは「農園レストラン」など、生産と消費を物理的・時間的に近づける動きがあちこちで起きています。ブルーパブはまさにその一環と言えますが、そこには「その場でつくられた出来たてのビールが飲める」という極めてわかりやすい価値があるのです。面積の限られた店舗内にビール醸造設備を置くのは店側にとっては大きな負担ではありますが、それによって希少性も演出できるわけです。

このように世間でクラフトビールへの注目が高まっていく中、大手メーカーもその動きに対応せざるを得なくなりました。現在、アサヒビールは「クラフトマンシップ」、サッポロビールは「クラフトラベル」、サントリーは「クラフトセレクト」と、それぞれ「クラフト」という言葉を掲げたブランドを発売しています。

そして大手の中でもっともクラフトビールに力を注いでいるのはキリンビールです。自社で「スプリング・バレー・ブルワリー」というブルーパブを東京・代官山と横浜にて展開しています。さらには、クラフトビール界の雄、ヤッホーブルーイング(代表ブランドは「よなよなエール」)と資本業務提携をしたことでも、その本気度が伝わってきます。

■クラフトが大きく広がらない理由

アメリカでのクラフトビール人気は数字としても明確に表れています。ビール市場全体に占めるクラフトビールのシェアは2014年には11%までに成長しています。2010年には5%にすぎなかったのでこの4年で倍以上へと急拡大していることがわかります(ちなみに日本では、まだシェア1%程度にとどまります)。

さて、大手メーカーをも動かす大きなうねりとなったクラフトビールブームですが、今後はどうなっていくでしょうか。ビール市場全体の1%程度の現在のシェアが、果たしてアメリカ並みに10%を越えていくのでしょうか。個人的には、個別ブランドはさておき、クラフトビール全体がこれ以上大きく広がっていくことはないのではないかと感じています。というのも、果たして今後「家庭内」でどの程度飲まれるようになるかには疑問を感じてしまうからです。

先ほど、ビアフェスやブルーパブについて触れました。ここから読み取れるのは、現在のクラフトビール人気を支えているのは、単にビールの属性が評価されているからというよりは、「クラフトビール体験」とでも呼べる、ワクワク感ではないかということです。これまでのビールでは得られなかった新しい体験に対して、生活者は反応しているのではないでしょうか。

なお、クラフトビールの話ではありませんが、ビールを取り巻く環境で注目しておきたいのは、「ビアガーデンの進化」です。最近のビアガーデンは、おしゃれな環境で美味しい料理を楽しめるところが急速に増えています。結果的に、これまでビアガーデンに足を運ばなかった感度の高い女性客も増えました。このような進化形ビアガーデンの人気も、都会の空の下で優雅にビールを楽しむという「ビール体験」がその要因と考えられます。

クラフトビールは大手メーカーの商品に比べて一般的には高価ですが、ビアフェスや飲食店における楽しいビール体験はそれを納得させてくれるものです。一方で、クラフトビールが缶ビールや瓶ビールなどのパッケージグッズとしてスーパーやコンビニでナショナルブランドと並んだ場合、果たしてどこまで支持されるのかには疑問が残ります。もちろんそれでも愛されるクラフトビールブランドはあるでしょうが、多くの商品は自宅で楽しむという前提においては「ちょっと高いかな」と敬遠されてしまう可能性は高いでしょう。

逆に言えば、クラフトビールはいかにして大手メーカーの商品とは違うところにその存在価値を見いだせるかが生命線です。それは外食やイベントのシーンかもしれませんし、ギフトのような特別な需要をもっと掘り起こしていくことかもしれません。そうしたシーンを増やすことで、クラフトビールは一過性のブームではなく、人々の生活に根付くものとなっていくのではないでしょうか。

 

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子安大輔(こやす・だいすけ)●カゲン取締役、飲食コンサルタント。1976年生まれ、神奈川県出身。99年東京大学経済学部を卒業後、博報堂入社。食品や飲料、金融などのマーケティング戦略立案に携わる。2003年に飲食業界に転身し、中村悌二氏と共同でカゲンを設立。飲食店や商業施設のプロデュースやコンサルティングを中心に、食に関する企画業務を広く手がけている。著書に、『「お通し」はなぜ必ず出るのか』『ラー油とハイボール』。
株式会社カゲン http://www.kagen.biz/

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(子安大輔=文)