治療の新しい標準を作り出す可能性も……cozyta/PIXTA(ピクスタ)

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 「うつ病にお悩みの方、新しいお薬の治験にご参加ください」――。先日、首都圏の市街地を中心に、新聞やポストにこんなチラシが配布されていた。

 気づいた方も多かったのではないだろうか。黄色を基調に、迷路の中でデフォルメされた白い人がしゃがみこんで涙を流しているイラスト。治験の対象者をチラシで大々的に募ることはこれまで聞いたことがなかったため、一目をひいた。

 うつ病に悩んでいる人のなかには、「どこから自分の病のことを知ったのか......」と、ドキリとした人もいたかもしれない。そんな懸念をぬぐうためか、下段には、「このチラシは個人を特定せずに、上記の記載エリアおよびその近隣エリアに配布しています」と書かれている。記載エリアとは、東京、神奈川、埼玉、千葉、群馬の計21自治体のことだ。

2つの有効成分を配合した薬の有効性と安全性を確認

 このチラシを作成・配布したのは、大塚製薬株式会社。「ポカリスエット」や「カロリーメイト」などで知られる同社だが、実は精神科の薬でも大きなシェアを持っている。特に、統合失調症などで使われる抗精神病薬「エビリファイ」は世界60カ国で販売され、新世代の薬として広く処方されている。

 そんな大塚製薬が配布した今回のチラシには、こう書かれている。「今回の治験では、既にうつ病治療薬として承認された2つの有効成分を配合したお薬(配合剤)について、うつ病への有効性と安全性を確認します」。

 治験を受けるのに必要な条件は、「現在、抗うつ薬による治療を受けている方」「20歳以上、65歳未満の方」「下記地域の医療機関に通院可能な方」とある。下記地域とは、前出の首都圏内の21自治体のことだ。なお、この治験の情報は「治験うつ情報サイト」www.utoo.jo でも見ることができる。

抗うつ薬の新しいスタンダードとなるのか

 記載されている「大塚製薬治験問い合わせセンター」に電話して尋ねたところ、治験を行なうことができるかは、医師の診断により決定するという。指定した抗うつ役の配合剤を服用してもらうため、現在飲んでいる抗うつ剤は中断してもらうこともある。

 試験が開始すると、週に1回指定の医療機関に通院し、1回の通院あたり交通費などの負担軽減として5000円から1万円が支払われるという。

「心の風邪」の称して服用者が爆発的に増加

 抗うつ薬のスタンダードは「三環系」「四環系」「SSRI」「SNRI」と、その種類を増やしながら移り変わってきた。「選択的セロトニン再取り込み阻害薬」を意味するSSRIが登場した1999年頃には、「うつは心の風邪」というキャンペーンが行なわれ、抗うつ薬を服用する人が爆発的に増加した。

 偏見を持たれていた精神科のハードルが下がったのはいいが、安易な多剤大量処方を招き、副作用に苦しむ薬害をもたらしたという見方をする人も多い。

 今回、大塚製薬の治験では、配合される2つの有効成分がポイントのようだ。これだけ大々的な治験を行なうということは、うつ病治療の新しい標準を作り出す可能性を秘めたものなのかもしれない。

 うつ病に悩む人たちの新しい選択肢が増えることに期待する一方で、製薬会社には、行き過ぎた販売戦略への十分な注意と慎重な治験も求めたい。
(文=編集部)