ラグビーのワールドカップ(W杯)イングランド大会で、歴史的な2勝を挙げた日本代表だが、その原動力は何といってもスクラムである。ワールドクラスと評価されるフッカー堀江翔太(パナソニック)は「4年前とは全然、違う」と自信をみなぎらせる。

 4年前のW杯ニュージーランド大会(1分け3敗)ではスクラムで負けた。堀江は屈辱を胸に秘め、世界最強リーグの「スーパーラグビー」に挑戦した。今年は首の神経系の手術のためにスーパーラグビー出場を断念し、国内でのリハビリを経て、W杯への準備を積んできた。

 スクラムでの『ジャパン・ウェイ(日本流)』は低さと8人の結束、足の運びである。低い姿勢をとるため、日本選手はフィジカルを強化し、時には元総合格闘家の高阪剛氏から粘り強い姿勢作りの指導を受けた。また、スクラムコーチであるマルク・ダルマゾからは、8人の力を結集させるため、理不尽とも思えるほどのハードワークを通して、それぞれの足の置く位置・動かし方、バインドの位置、ロックやフランカーがプロップの尻を押す角度などを突き詰めてきた。

 スクラムの進化を問われると、堀江は「一番は対応力が上がったこと」と言った。

「僕のスクラムの考えでは、試合ごと、スクラムごとに『形』はどんどん変わっていくんです。だから、特に1番(左プロップ)、3番(右プロップ)としっかりコミュニケーションをとって、相手に対応していく。そこが、すごく成長しているところです」

 例えば、快勝したサモア戦(3日・26−5で勝利)。序盤の1本目、2本目のスクラムで堀江は1番の稲垣啓太(パナソニック)、3番の畠山健介(サントリー)に「どうだ?」と組んだ感触を聞いている。両プロップからは「イケる」と返ってきた。

「イケるけど、まだ向こう(サモア)が元気やから、もうちょっと待ってみようとなったんです。押せるチャンスは絶対来るから。その時、ST(スクラムトライ)を狙いにいこうと思ったんです」

 ちなみに1本目、2本目はマイボールのスクラムで、素早くボールをバックスに出した。マイボールのスクラムは「クイック」と「ドライブ」の2種類があり、クイックスクラムはボール投入してからボール出しまで3秒以内。ドライブスクラムは相手にプレッシャーをかけて、前進するスクラムをいう。

 3本目のスクラムでチャンスが来た。サモアがシンビン(一時的退場)で2人少ない時、敵陣ゴール前の左中間でPKをもらい、スクラムを選択した。相手FWは7人。稲垣が落とそうとしてきた135キロの巨漢を持ち上げ、8人で前に出た。ドライブである。これにサモアがたまらず崩れ、認定トライ(相手の反則がなければ、トライが獲れていたという判定)となった。日本にとって、W杯初のスクラムトライと言ってもよい。

 コミュニケーション、いわば理解力の勝利と堀江が強調する。

「僕は試合中、いつも周りに"しゃべれ、しゃべれ"と言っているんです。だって、1、3番の状況が分からないと、どういうふうに組めばいいのか分からないじゃないですか。そこにこだわり続けた結果が、いまの日本のスクラムになったんです。スクラムは相手の出方をうかがいながら、全員で同じ方向に仕掛けていくことが大事ですから」

 あの南アフリカ戦(9月19日・34−32で勝利)のロスタイムの逆転トライも、PKからスクラムを選択し、それを押し込んでから、ボールをバックスに回したものだった。

 このW杯、3試合を合わせると、スクラムは全部で37回、組んでいる。マイボールが21回、相手ボールは16回。特筆すべきはマイボールの確保率が「100%」ということである。スコットランド戦(9月23日・10−45で敗戦)の序盤にとられた反則は相手ボールの時だった。この数字は安定したスクラムがジャパン・ウェイの『アタッキング・ラグビー』の基点となっていることを証明している。

 さらに前回W杯との違いは、スクラムの際、レフリーともコミュニケーションを図り、特に南ア戦、サモア戦ではレフリーを味方にした点である。

 そして、日本チームはよく、ビデオで対戦相手、自分たちのプレーを研究するようになった。スクラムもしかり、である。しっかり準備をし、試合ではスクラムごとに対応していく。その"引き出し"が増えたと堀江は言葉を足す。

「4年前はほぼ、(引き出しは)ゼロでやっていたので。いまはだいぶ、増えました。10個以上? そのくらいは増えたと思います」

 1次リーグの最終戦は米国(11日)と対戦する。よく鍛えられた運動能力の高いチームであり、侮れない。

「やはりスクラムとラインアウトの安定は重要になってくるんじゃないかと思う。特にスクラム。そこで優位に立って、どんどんプレッシャーをかけていきたい」

 日本でラグビー人気が沸き上がっていることに、堀江は「モチベーションが自然と高くなりますね」とうれしそうに言った。

 この人気を持続させるためにも、他チームの勝敗が絡む決勝トーナメント進出はともかく、さらに歴史に残るW杯3勝目がほしい。 

松瀬 学●文 text by Matsuse Manabu