■ドラフト展望2015(2)

「夏もこれくらいリラックスして投げてくれたら、バンバンいかしてたんですけどねぇ」

 9月半ば、大阪府富田林市にある大阪偕星学園の練習グラウンド。後輩相手のシートバッティングで投げる姫野優也に視線を送りながら、山本皙(やまもと・せき)監督の通りのいい声に力がこもった。

「いやぁ、やっぱりピッチャーでも楽しみがありますよ。軽く投げてもこれだけ球が来るんですから」

 その3週間ほど前に山本監督と話をした時は、「野手として魅力があります」と語っていたのだが、目の前で投げる姫野の球を見て、あらためてこの選手の持つ能力の高さに指揮官も舌を巻いた。

 今年の高校生外野手といえば、関東一高のオコエ瑠偉に注目が集まっているが、タイプは違うものの、この先の楽しみという点では姫野も負けていない。まだその力は、この夏、ようやく一端をのぞかせたという程度だが、余力たっぷりに高校生最後の夏を戦い抜いた姿を見ながら、姫野の底知れぬ可能性を感じたものだった。

 姫野は中学時代、硬式クラブチームのオール枚方ボーイズ(大阪)のエースとして活躍し、全国制覇3度の強豪・天理高へと進学した。しかし、当時の野球部の空気になじめず、夏に退学。しばらくアルバイト生活をしながら過ごしていたが、そんな時に手を差し伸べたのが大阪偕星学園だった。

 秋に編入し、グラウンドで練習できるようになったが、規定により公式戦には1年間出場できなかった。さらに、昨年の5月から再び約5カ月間、練習不参加の時期があった。つまり、実質2年半といわれる高校野球生活のうち、姫野は約10カ月が"空白"だった。体を鍛え、技術を磨く時間も、実戦経験も大きく足りないのは言うまでもない。それでも今、ドラフト候補としてプロから注目を集めているのだ。

 姫野自身も「せめて昨年の5カ月がなかったら、もう少し技術も上達していたのかなとは思います。でも、自分の責任なんで仕方ないですけど......。まだ全然、野球についても詳しくないんです」と苦笑いを浮かべた。

 本来は投手として期待されていた選手であり、公式戦出場が認められた今春からはエース・光田悠哉に次ぐ存在として、140キロを超すストレートを投げ込んだ。ちなみに、この夏の大阪大会では13イニングを投げ、2失点、20奪三振の好投を見せた。

 ただ、春以降は強肩・強打の外野手としての評価が"投手・姫野"を上回るようになった。春の大阪大会では打席によってムラが大きかったが、「飛ばすポイントがわかった」という夏の大会では24打数11安打、2本塁打と活躍し、チームの甲子園初出場に貢献。甲子園でも3回戦の九州国際大付戦で一発を放つなど、12打数4安打。さらにセンターの守備でも好返球、好捕を披露し、甲子園が終わったあとも複数の球団のスカウトがグラウンドに繰り返し足を運んでいる。

 現役時代はダイエー(現・ソフトバンク)の入団テストを受け、あと一歩のところまで進み、最後は韓国プロ野球でプレーした経験を持つ山本監督も姫野について、「素材が違う」と力を込める。

「肩ひとつとっても、プロでもなかなかいないレベル。僕も現役時代、肩には自信がありましたが、それでも遠投で115メートルぐらい。でも姫野は130メートルぐらい投げますから。ちょっとレベルが違うんですよ」

 そしてボディビルダーのような肉体を持つ山本監督が惚れ込むのが、姫野の体だ。

「入ってきた時にパッと見て、骨格が違いました。筋肉も強くて柔らかい。これは両親に感謝ですけど、特に惚れ惚れするのが広背筋。ランニング姿をうしろから見た時に、右の広背筋の盛り上がりがすごくて、服を脱がしてみたら、まあ見事。投げるのも飛ばすのも、背筋が大事なんですけど、これだけの広背筋を持っている選手はなかなかいません」

 小学校時代に水泳でジュニアオリンピックの出場経験を持つが、生まれながらにして持っていた良質の筋肉や関節が、水泳をやることでさらに鍛えられ、今の体ができあがっていったのだろう。

 紆余曲折の経歴について、球団によっては野球に取り組む姿勢、内面を心配する向きもあるが、山本監督は一蹴する。

「子どもは失敗するもの。『去年よりも今を見てください』と言いたいです。去年チームを離れた時も、最後にはチームメイトから『姫野と一緒にやりたい』という声が上がり、戻ってきた。そんなことより、これから野球漬けの生活になって、トレーニングを積んでいけば"ス―パーな選手"になる可能性を持っています。上の世界の人には、そこをしっかり見てもらいたいです」

 おそらくドラフトでは下位指名になるだろうが、イチローや前田智徳、中島裕之のようにそこからスーパースターへと駆け上がった選手は数多くいる。これからの自分について、姫野は次のように語る。

「投げるのも好きですけど、これからはバッターでいきます。甲子園では勝負どころで打てなかったり、まだまだですけど、打つ方で伸びてきた感じがありますから。自分の中ではスッキリしています」

 一方、あらためて"投手・姫野"の可能性を目の当たりにした山本監督は、シートバッティングの投球を見ながら、スピードガンを探し始めた。残念ながら機械の故障で球速は測れなかったが、心地いいミット音を響かせるボールに、山本監督は複雑な心境を吐露した。

「いやぁ、ピッチャーでやってもホント面白いですよ。しばらくは二刀流で様子を見るというのも......。ただ"ス―パー"になる可能性を持っているのは、やっぱり野手かなぁ......。いや、ピッチャーでもこれから経験を積んで、故障なくいけたら、かなりのところまでいくと思うんですけどねぇ」

 話を進めるほど、結論は見えなくなっていった。はたして、この原石の魅力を見抜き、指名してくるのはどこの球団なのだろうか。

谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro