4月1日の夕方、オジサンからデスクに電話がかかってきた。

デスク はい。ニュースセンター・デスクです。
オジサン オレだ。
 ああ、先輩ですか。この間はごちそうさまでした。
 まぁ、あのくらいなら、いつでもいいよ。ところで、今日から「ペイオフ解禁」だったんだけど、とくに混乱はなかったみたいだね。
 そうですね。
 で、チョット聞き忘れたことがあるので、電話したんだけど、……。
 どういうことですか。
 まずは、いまの金融機関は「ペイオフ」をしても大丈夫なくらい、経営基盤が盤石になったのかどうかということさ。
 それは、もう金融機関は倒産しないのか、という意味ですか。
 まぁ、そういうこと。
 絶対に倒産しないという保証はできません。ただ、ここ数日の各紙の報道を見るかぎりは、弱小の金融機関はどうかわかりませんが、「たぶん、大丈夫だろう」というような論調だったと思います。
 その根拠は?
 金融機関には「自己資本比率」に関する規制があって、国際的な業務を行なうためには8%以上、国内業務を行なうためには4%以上が必要なんですが、ほとんどの金融機関で、その条件が満たされているからです。
 なるほど。金融機関が危ないというのは、その「自己資本比率」が小さくなってしまっているということね。
 そうです。一時はかなり低かったので、問題視されたわけです。

自己資本比率とは?

 で、「自己資本比率」ってなんだい?
 簡単にいえば、「総資本に対する自己資本の割合」のことです。
 電話で話すには、むずかしすぎるみたいだなぁ。
 じゃー、またこちらにいらっしゃいますか。
 いや、今日はそんなヒマはないんだ。「自己資本」というのは、要するに、会社の「資本金」のことかい?
 それは「株主資本」ですが、儲けたお金なども含めて、返す必要がなくて、確実に自分の会社のために使える資本のことです。
 「総資本」というのは?
 自己資本に他人資本(つまり負債)を足したものです。企業への貸出、現金、保有する他企業の株式や国債などを含めた、銀行の全資産ということです。
 チョット待ってくれ。「自己資本比率」っていうのは、銀行だけの話なのかい?
 いいえ。もちろん、すべての企業に当てはまるものです。ただ、金融機関は「預金」として集めたお金を、投資したり貸したりする商売なので、他の業種に比べると自己資本比率は低いんです。
 どのくらい低いの?
 たとえば、製造業などでは30%以上、小売業では40%以上というデータがあります。
 なるほどね。確認なんだけど、金融機関から見ると「預金」は借り入れだよね。
 そうですね。負債です。
 それを、企業に貸したり、投資したりして、その結果として、企業への貸出や他企業の株式・国債なんかを所有するということになるわけね。
 その通りです。
 ということは、一時、金融機関の「貸し渋り」とか「貸し剥がし」が問題になったけれども、あれはどういうことなの?
 自己資本比率というのは、総資本に対する自己資本の割合、つまり「自己資本÷総資本」ですから、自己資本比率を高めるためには2つの方法しかないんです。
 オマエさんは、時々、ひとを試すような言い方をするね。それは良くないよ。
 すいません。そんなむずかしいことはないんですけど……。要するに、分母(つまり総資本)を小さくするか、分子(自己資本)を大きくするかの2つしかないということです。
 なんだ、そんなこと当たり前じゃないか。
 そうなんです。で、分子(自己資本)を大きくするのはむずかしいので、分母(総資本)を小さくするために「貸出」を少なくしようとしたわけです。
 それが、「貸し渋り」という、血も涙もないようなことを、銀行がした理由だったわけね。
 そのとおりです。

決済性預金と銀行の儲け

 時間があまりないんで、もうひとつだけ聞きたいんだけど、「決済性預金」は全額保護されるということで、かなり多額の資金が普通預金や定期預金から流れたみたいだけど、決済性預金というのは利子が付かないんだろ。
 そうです。
 いま低金利だとはいってもゼロではないんで、たとえば定期預金で0.02%の利子が付いたとして、預金量が100兆円あるとすれば、利子は200億円になるよね。その分がまるまるゼロでいいということになるから、銀行としてはかなりの儲けになるんじゃないかなぁ。
 おっしゃる通りかもしれませんね。
 ということは、このペイオフ政策は、じつは大銀行を儲けさせるために行なったものということになりやしないかい。
 一理あるかもしれませんが、考えすぎなんじゃないですか。
 そうかなぁ。おっと、こんな時間か。そのうちにまた、電話するよ。
 桜も開花したみたいだから、近いうちに花見にでも行きませんか。
 いいね。オッケー。(了)