「ただいまです!」

 3地域対抗戦のジャパンオープンで、日本を2大会ぶり7度目の優勝に導いた浅田真央。会場内で行なわれた優勝チームインタビューで、インタビュアーに 「お帰りなさい」と振られると、開口一番、こう答えた。日本フィギュア界の至宝が、素敵な「大人の女性」になって帰ってきた。

 昨季はまるまる1年を休養に当て、スケート以外の様々な世界を経験してきた。今年5月に現役続行を発表。そしてこのジャパンオープンで、14年3月の世界選手権以来、553日ぶりに勝負のリンクに戻ってきた。

 同大会は男女シングル各2人の合計4人が1チームとなる団体戦。フリー演技の合計点で順位を競う。今年の日本チームは浅田のほか宮原知子、村上大介、宇野昌磨が出場。日本は女子で1位浅田、2位宮原とワンツーフィニッシュ。男子も宇野がトップに立って他チームを圧倒した。

 国民的人気を誇る浅田の復帰戦を、詰めかけた約16500人の観客は温かく見守った。「天才少女」として注目され始めた10歳頃から、この 15年間、常に注目の的だった浅田ももう25歳。現役続行を決断してから目標としていた、一昨季の世界選手権当時のレベルまでしっかりと戻して戦いの場に立った。それはこの日の演技構成の内容にも結果にもきちんと表れていた。有言実行してみせたのはさすがだった。

 フィニッシュポーズ後には、大きな拍手と歓声に包まれながら、スタンディングオベーションを受けた。自分の演技を受け入れてくれた観客の反応に、それまでの硬い表情を崩して笑顔を見せ、胸に手を当てて「うん、うん」と頷いてみせた。

「復帰初戦で緊張もあったけど、足を引っ張らないようについていこうと思いました。初戦にしてはたぶん、今までで一番いいジャパンオープンの演技だったんじゃないかな。まず復帰戦を無事に終えたこと、そして昨シーズンの世界選手権のときのレベルに戻し、そのときと同じこの場所で最後まで演技を終えられたことがうれしくて、ほっとして、自分でも『ありがとう』という気持ちでした」

 休養中だった昨季は、若手が台頭してロシア勢が活躍した。現世界女王のエリザベータ・トゥクタミシェワが、浅田のお株を奪うようなトリプルアクセルを身につけて初めて競技会で成功させたシーズンでもあった。

 そんな若手との勝負に勝つのは容易なことではないと感じながらも復帰の道を選択した浅田は、休養について「ここに戻ってくるまでの大切なパワーチャージの時間だったと思っています」と振り返った。それと同時に、「少し不安があったんですけど、こうして自分の力を出してみんな(トップ選手)と戦えることが分かったので、いい試合になったと思います」と手応えをつかんでいた。

 この日のフリーは、自身が大好きな色という薄紫の着物風コスチュームを着て「蝶々夫人」になりきった。トリプルアクセルを成功させたうえ、休養中に様々な経験を重ねてきたことで磨かれた表現力も披露して、上品な音楽に乗って優雅な舞いを見せた。

 プログラム中盤の2回転アクセル+3回転トーループもしっかりと決めるなど、まったくブランクを感じさせない演技だった。合計得点の 141.70点(技術点71.88点、演技構成点69.82点)は、ソチ五輪でマークした自己ベストの142.71点に迫る高得点だった。

 力みのない自然体な演技ができたことについて、浅田はこう振り返った。

「久しぶりの試合でしたが、自分の気持ちをコントロールできたと思います。練習通りを心がけて、トリプルアクセルが特別なジャンプだと思わずに、ひとつのエレメンツ(要素)として練習してきたので、そういった気持ちが今日の試合で生きてきたと思います。

『蝶々夫人』は一人の男性を待ち続けるという悲しい切ない物語ですけど、日本人として芯の強い女性を演じたいと思って演技しました。次の試合に向けて、もっともっといい蝶々夫人を演じていきたいです」

 現役続行発表から約5ヵ月間、再び競技会に戻る浅田に対して、厳しい目で基礎練習を見守ってきた佐藤信夫コーチは「彼女も25歳の大人になり、自覚を持ってやっています」という。これまでとは違うアプローチで浅田と接しているということだ。

「(休養後の師弟関係については)彼女が変わったというよりも、私がかなり自由にさせて練習をさせてきました。ここまでの練習は彼女のペースで進めてきて、注意してほしいというところをアドバイスしたくらい。立派な大人として接してきました。

 今までのように、あれをしなくてはいけない、これをしなくてはいけないということはしないで、やりたいことをやりたいようにスケートを楽しんでいると思います。今季は、どうしてもここだけは厳しく指摘しないといけないというところは、妥協せずにやっていきたいと思います」

 そしてこの日の浅田の演技についてはこう評価した。

「復帰戦で良かった点は、大人になって感情の出し方がずいぶん良くなってきたことだと思います。これからの課題としては、今、取り組んでいるジャンプもスピンも、すべてのことを継続してどこまでいけるか試していきたいです」

 佐藤コーチもこれまで25歳以上のスケーターを指導することがなかっただけに、未知の世界に足を踏み入れることになる。

 期待と不安が交錯するシーズンとなるか。それとも一気にメダル争いに突き進むのか。浅田のグランプリシリーズ初戦、中国杯(11月4日〜8日)に注目だ。

辛仁夏●文 text by Synn Yinha