ドラフト展望2015(1)

 ドラフト会議まで3週間を切った。各球団とも誰を指名するのか、最終的な絞り込みの時期にさしかかっているところだろう。今年も高校、大学、社会人、さらには独立リーグに将来のプロ野球を担う若き逸材たちが揃い、注目を集めている。

 その中でもプロのスカウトから熱い視線を浴びているのが関東一高の外野手・オコエ瑠偉。この夏の甲子園で一気に評価を上げ、1位指名確実とも言われている逸材だ。

 そのオコエの最大の武器はスピード。ピッチャーゴロをはじいた打球が内野を抜けると瞬く間にセカウンドへ到達し、鋭い打球が外野の間を抜ければ迷うことなく三塁へ。甲子園のダイヤモンドをこれほど小さく感じさせた高校球児がいただろうか。幅跳びの選手のような大きなストライドでグイグイ加速していくスピード感は、これまでの野球選手にはない迫力がある。

 そんな魅力あふれるプレーを見せるオコエだが、はたして彼を本当に必要としている球団はどこなのか。各球団のチーム事情から、「オコエ瑠偉の必要度」を探ってみたい。

 捕手以外は充実の戦力を誇るパ・リーグの覇者・ソフトバンク。例年、将来を見据えた指名を続け、プロ球界で唯一システム化された育成組織をつくり上げた。今季も、福田秀平、明石健志、高谷裕亮らがレギュラー同様の働きを見せ、育成出身の二保旭、飯田優也らも活躍。他球団を圧倒する分厚い選手層を見せつけた。

 外野に目を向けると、内川聖一、柳田悠岐、中村晃、長谷川勇也ら、球界屈指の人材が揃っているが、「次の世代」となるとどうか。2年目の上林誠知の急成長はあるが、その他の選手は見通しがきかない。12球団トップクラスの人気チームだけに、次期スーパースター候補としてオコエはうってつけの存在といえる。

 パ・リーグ2位の日本ハムはどうか。名手・陽岱鋼を筆頭に岡大海、西川遥輝、さらには浅間大基という新鋭が現れて、ファームには岸里亮佑という好素材も控えている。他にも、俊足、強肩の石川慎吾もおり、さすがにオコエは見送りとなるだろう。

 ただ、日本ハムは「その年のいちばんいい選手を獲る」というポリシーを貫いてきた。はたして、日本ハムが評価する「いちばんいい選手」は誰なのか。そこが気になるところだ。

 今や外野の守備力が「伝統」になりつつあるロッテだが、その継承者が心細い。現段階での候補者は3年目の加藤翔平だけ。高い守備力を受け継ぐためにも、オコエは何としても欲しい存在だが、チーム防御率3.77(リーグ5位)の投手力を考えれば、計算できる投手が最優先だろうか。

 今季、下位に甘んじたオリックス、楽天も同様の理由で当面の補強はまず投手になるだろう。特に12球団最低のチーム防御率の楽天は、田中将大(ヤンキース)が去った今、計算できる投手は則本昂大ただひとり。来季、一軍のマウンドに立てる投手が3人は欲しいところ。間違いなく即戦力投手の獲得が最重要課題となる。

 その点、オコエ獲得で夢が広がるのが西武。今シーズン、シーズン216本のシーズン最多安打を記録した秋山翔吾と、将来の主軸候補・森友哉を両翼にしたがえ、センターにオコエが入る。人気、実力を兼ね備えた豪華外野陣が完成すれば、集客も期待できる。西武は高卒選手の育成にも定評があり、オコエにとってもいい球団ではないだろうか。

 ちなみに、オコエが生まれ育った東村山は西武プリンスドームのお膝元で、少年時代は西武のファンクラブに加入していたという。

 一方、セ・リーグはどうか。外野手が充実しているのは筒香嘉智、梶谷隆幸がいるDeNAぐらい。リーグ4連覇を逃した巨人は5年後どころか、3年先の外野陣の顔すら見えてこない。しかもここ4年間、外野手のドラフト補強もない。正直、オコエだけじゃ足りないぐらい。もし残っていたら、勝負根性抜群の青山学院大の吉田正尚も獲りたいところ。巨人の補強ポイントは、実は外野手なのである。そこに気づいているのかどうか......。

 今季、14年ぶりにセ・リーグを制したヤクルトも事情は同じ。山田哲人、川端慎吾が大ブレイクし、世代交代は順調に見えるかもしれないが、一軍、ファームとも期待できる外野手はいない。とはいえ、故障者続出の投手陣のことを考えれば、外野手補強は二の次か。

 毎年、即戦力投手を中心にドラフト補強を行なってきた阪神。藤浪晋太郎という若きエースが育ったとはいえ、投手陣の高齢化は著しい。ということは、今年も即戦力投手ということになるのか......。

 いや、違う。藤浪というチームを変えられる投手が存在する今だからこそ、今度は野手でその役割を担う選手が必要になる。そもそも、オコエがここまで評価を上げたのは、この夏の甲子園でのプレーがあったからだ。いわば"甲子園の申し子"である。

 はっきり言って、近年のセ・リーグが面白くないのは、阪神が巨人に弱すぎるからである。「伝統の巨人、阪神戦」――そんな称号を与えられながら、長くプロ野球界の隆盛を支えてきた黄金カードにかつての"活力"が感じられない。そこからプロ野球の衰退が見えない形で始まっているとしたら......。

 以前とは比較にならないほどのパ・リーグの活況が、その危機をうまく覆い隠してくれているが、長くプロ野球とともに生きてきたファンのひとりとして、セ・リーグの停滞は不安でならない。そうした状況を打破できるのは、突出した才能しかない。 "伝統の一戦"が完全に復活してこそ、プロ野球の発展があるのではないだろうか。

 もちろん、広島にしても中日にしてもオコエは欲しい逸材だ。しかし、阪神への入団はただの戦力補強ではなく、もっと大きな意味があるように思えてならない。セ・リーグはおろか、プロ野球界の"救世主"になるには、阪神しかない。ちょっとおおげさかもしれないが、オコエはそれぐらいの存在の選手なのだ。

安倍昌彦●文 text by Abe Masahiko