大混戦のセ・リーグを制したのは、昨年まで2年連続して最下位に沈んでいたヤクルトだった。真中満監督就任1年目にして優勝を成し遂げた要因は何だったのか? ヤクルトの強さの秘密に迫りたい。

 まずは、今シーズンの主なチーム成績を振り返ってみたい(10月2日現在)。

打率/.258(リーグ1位)
本塁打/106本(リーグ2位)
得点/566(リーグ1位)
防御率/3.27(リーグ4位)
先発防御率/3.64(リーグ5位)
ブルペン防御率/2.61(リーグ1位)

 当然のことながら、優勝チームらしく素晴らしい数字が並んでいる。チーム打率は昨年に続いてトップを記録し、現在、首位打者&最多安打の川端慎吾、本塁打王&盗塁王の山田哲人、打点王の畠山和洋の攻撃力は、相手バッテリーを体力的にも精神的にも追い込んでいった。

 チーム防御率はリーグ4位だが、昨年から1点以上も改善され(昨年は4.62)、ブルペン陣にいたってはリーグトップの結果を残した。特に、秋吉亮、ロマン、オンドルセク、バーネットの4人は、試合終盤に登場して相手打線を意気消沈させた。心細かった先発陣も、館山昌平が奇跡的な復活を果たし、エースの石川雅規も13勝をマーク。また、移籍2年目の山中浩史も6勝を挙げるなど、救世主的な活躍を見せた。

 課題だった守備も強固となり、失策70はリーグ最少。また、134試合でマスクを被った中村悠平はリーグ最少のパスボール4個という堅い守りで投手陣を支え続けた。

 こうした好成績は選手個々の技術的レベルアップに加え、"意識改革"が大きく影響しているように思えてならない。

 春のキャンプが始まると、真中監督は"選手の自主性"を大きなテーマとして掲げた。

「与えられた練習をすることも、コーチから手取り足取り教えてもらうことも大事です。でも、それだけだとスランプになった時や試合中に厳しい場面に出くわした時、その壁を乗り越える力がつきません。自分で悩んで解決しない限り、前に進めない。まずは自分で考え、それでも解決できない時にコーチや監督に助言を求めるというのが理想です」

 そしてシーズンも終盤に差し掛かった8月の終わりに、真中監督に"選手の自主性"についてあらためて聞くと、こんな答えが返ってきた。

「自主性に任せるということは、自分で考えて練習するということで、実はいちばんきついことなんです。でも、選手たちを見ていると効果は出ていると思います。ちゃんと自分たちで考えて、試合をつくっていますよね。たとえば、川端や山田はポジショニングを自分たちで考えているし、捕手の中村も野手に対してしっかり指示を出している。それこそが自主性ですよね。だから、咄嗟の判断が必要な時でも落ち着いてプレーできている。与えられたメニューだけこなしていると、どうしてもコーチからの指示を待ってしまいます。そういう意味で、今年1年、選手たちはすごく成長したと思います」

 三木肇作戦兼内野守備・走塁コーチも、選手たちの"自主性"について次のように語る。

「自主性が身につくと、それが"協調性"となって現れてきます。チームとしての目指す方向性が明確になり、選手たちは『チームのために何をすべきなのか。そのためにどんな練習をすればいいのか』を考え始めます。今の選手たちを見ていると、それができるようになりましたよね」

 三木コーチは「なぜミスが起きたのか?」「なぜファインプレーになったのか?」など、ひとつひとつのプレーに対して「なぜそうなったのかを考えよう」と、選手たちに問いかけている。考えることで、それが次のプレーにつながると三木コーチは言う。

「野球の試合は、どのプレーも"線"でつながっていると思うんです。ひとつのプレーが"点"で終わるのではなく、ワンプレーがゲーム展開を左右し、次の試合に影響を与えることがあります。ミスをした時、ただ『気持ちを切り替えよう』ではなく、その失敗を次に生かすことが大事なんです」

 たとえば、捕手の中村は4月17日のDeNA戦に3−1で勝利した後、顔をしかめながら言った。

「完封で終わらせないといけない試合でした。9回に失点してしまったことで、明日のゲームの入り方が重要になってきます。ちゃんと気を引き締めないときつくなる。明日の試合前ミーティングで(先発予定の)石川さんとしっかり話をしたい」

 その翌日の試合、中村の細心の注意が功を奏し、ヤクルトが4−0で快勝した。

 8月21日の中日戦では、敗色濃厚の終盤に山田のエラーがきっかけとなり失点。その翌日のゲームの1回表、中日の先頭打者・大島洋平がライトへ抜けそうなゴロを放つも、山田が好捕。1アウトをもぎ取ると、この試合で山田は1試合3本塁打を放ってみせた。

「昨日の試合でエラーをして1点を失っていますし、今日は初回から集中していこうと思っていました。その意識があったから、初回のゴロをさばくことができたんだと思います」(山田)

 三木コーチは山田の初回の守備について、こんなことを話してくれた。

「大島のゴロがヒットになっていたら......。昨日のゲームのつながりから、ちょっと空気が重くなって、先発の石山(泰稚)もプレッシャーを感じただろうし、いろんなところに影響が出たと思います。(山田)哲人自身も守備で貢献することで、『これでいける』と思い切って打席に入れたんじゃないですかね」

 試合を線として考えることが、今年のヤクルトの特長である「粘り強さ」にもつながっている。ショートの大引啓次は昨年オフにFAでヤクルトに入団。春のキャンプで「チームのために何がしたいか?」という質問に、こう答えた。

「(ヤクルトの)選手たちと話をして、昨年の悔しさをすごく持っていると感じました。その悔しさをどう表現するのか。試合終盤にリードされていて、『今日も負けか』と思えば、そこで終わってしまいます。負けている試合でも、最後まであきらめずにボールに食らいつく姿勢が浸透すれば、強いチームになっていくと思います」

 そして指揮官である真中監督も同じようなことを言っていた。

「失点しても、『何とかそこで食い止めよう』ということは口を酸っぱくして言っています。それが終盤の逆転につながりますから。負けていたとしても、次の1点を防ぐことで相手チームの継投も変わってくる。そうなれば、次の試合にも影響が出てきます。そういう意味で、今年はビハインドの場面でも集中力を持った守りができていると思います。昨年はプチッと切れて、そのままズルズルといってしまいましたから」

 今シーズンのヤクルトの粘り強さは、以下の数字が証明している。

逆転勝ち/31試合(リーグ最多)
延長戦勝敗/8勝1敗1分(リーグ最高勝率)
サヨナラ勝敗/6勝1敗(リーグ最高勝率)

 ちなみに、昨年の延長戦の勝敗は2勝10敗3分で、サヨナラ勝敗は1勝6敗である。この終盤での粘り強さがヤクルト躍進の大きな理由になったことは疑いようがない。

 また、今シーズンのヤクルトにおける最大の武器は、監督をはじめとする首脳陣と選手たちの強い信頼関係だろう。真中監督は言う。

「(一軍の)監督としては1年目ですが、ファームで監督をしていましたし、一軍でも打撃コーチをしていたので、選手たちの性格は把握しているつもりです」

 一方、選手たちはこのように語っている。

「昨年は1点を恐れて、初回から試合終盤のようなリードをして、3〜4点取られるケースがたくさんありました。今年は試合前のミーティングでカツノリさん(野村克則バッテリーコーチ)が『ソロ本塁打なら仕方がない。腹をくくれ』と言ってくれるので、思い切ったリードができています」(中村悠平)

「真中監督からは技術的なことを言われることはありませんが、『思い切っていけ』とか『右打ちとかはしなくていいよ』という言葉をもらっているんで、打席で迷うことがないです」(山田哲人)

 天王山となった9月27日の巨人戦(東京ドーム)は、真中監督が目指してきた野球がまさに実現した試合だったのではないだろうか。1回表、先頭打者の上田剛史が出塁すると、2番の川端はバントで送るのではなく強攻策。結果、ショートゴロに終わり、初回は無得点に終わったが、「ブレることなく、これまでやってきたことができた」と三木コーチは胸を張った。

「ベンチで監督たちと話した結果、『慎吾に任せよう』と。あそこは、監督も僕らも『やり切る』ことが求められた大事な場面でした。あそこでバントのサインを出せば、選手たちは今までと違う作戦なので戸惑ったでしょうし......」

 その一方で、5回表の無死一、二塁のチャンスには、8番の中村に送りバントのサインを出し、投手である石川雅規に勝負を託したのも大胆な作戦だった。試合後、真中監督はこの場面を次のように振り返った。

「中村の調子もありますが、巨人はスクイズをかなり警戒するチームなので、まずはランナーを三塁に進めてからどうしようかを考えました。石川はバットに当てるのがうまいので、最低でもゴロを打ってくれるイメージがありました」

 その石川はライト前にタイムリーを放ち、先取点という最高の結果をもたらした。

 直後の5回裏は、逆に一死二、三塁というピンチを迎えた。ここで代打・井端弘和が痛烈な打球をライト線へ放つも、あらかじめ自らの判断で右寄りに詰めていた雄平が好捕。犠牲フライとなり1点は失うものの、このピンチを最少失点で切り抜けたヤクルトが1点差を守り切ったのである。

 そして10月2日の阪神戦。この試合でもヤクルトは粘り切って、勝ちをつかんだ。まさに今シーズンのヤクルトを象徴する戦いだった。真中監督は秋の夜空に7回舞い、ブルペンの前ではゲーム中盤以降を支え続けた投手陣が肩を組んで、満面の笑みで写真におさまった。セレブレーションはいつ見ても素敵なものである。

「ウチらはチャレンジャーなんだから、思い切って戦おう」

 真中監督がシーズン終盤に何度も口にした言葉である。ヤクルトは「セ・リーグチャンピオン」という肩書きで、CSファイナルステージを迎えることになったが、「チャレンジャー」の姿勢は変わらないはずだ。シーズンと同じ戦いをやり切ることができれば、その先には日本シリーズが待っている。

島村誠也●文 text by Shimamura Seiya