海外では理学療法士が腰痛を診断 (shutterstock.com)

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 腰痛の85%は「非特異性腰痛」と呼ばれる"原因不明"のものだ。画像診断では、15%しか正しく診断することができない。では、実際のところどのようにすれば良いのか、海外の取り組みを紹介する。

 腰痛の診断について、ほかの国ではどうしているのだろうか。たとえばオーストラリアでは「Physiotherapist(理学療法士)」がそのような「診断」を担っている。

 日本では理学療法士は「医者の元で」でしか働けないため、自ら診断することは法律的に禁止されている。だが、多くの先進国では、理学療法士に開業権があり、理学療法士が診断をすることができる。

 さらに、理学療法士は"身体のスペシャリスト"であり、"動きのスペシャリスト"でもある。触診などの体に触れる技術も充分にトレーニングを積んでいることが多い。つまり、腰痛のように動きの分析や触診による判断が不可欠な分野においては、医者よりも理学療法士の方が正しい診断ができると諸外国では認知されているのだ。

理学療法士に開業権が認められているメリットとは?

 具体例を挙げると、ある公立病院では、整形外来においてまず医師が診療するが、そこでは深刻な疾患(悪性腫瘍、炎症、骨折、感染症、大動脈溜など)を除外(ルールアウト)するのが主な役割だ。

 また、画像診断などを元に特異的な腰痛であるかどうか、手術が適応かどうかも含めて診断する。そこで深刻な疾患もなく、さらに手術も必要ではないと判断されれば、あとは理学療法士の出番である。医師から理学療法士に引き継がれ、さらに詳細な検査を行うのだ。 

 詳細な検査とは、画像診断などの「静止している状態」での検査ではない。生活習慣、睡眠時間などを含む詳細な問診から始まり、脊柱の動きの固さ、どの方向で痛むのか、さらに骨盤帯の痛みなのか腰部の痛みなのか(患者は骨盤の痛みと腰の痛みを混合していることがよくある)などだ。

 実際に患者に触りながら、動いてもらいながら診断する。最初にかかる診療時間は平均して60分ほど。これは日本でかける時間よりもはるかに多い。

理学療法士の"ファーストチョイス"が一般的

 この逆のパターンで、理学療法士が先に検査をする場合もある。これは諸外国では理学療法士に開業権が認められており、患者が医者を通さずに理学療法士のクリニックを訪れることが可能になっているためだ(諸外国には整骨院はなく、その代わりを理学療法クリニックが行っている)。

 実際、オーストラリアでは、腰痛などで身体が痛いと感じた時には、医師ではなく理学療法士を"ファーストチョイス"にするのが一般的だ。そのくらい理学療法士の存在が社会に馴染んでるのだ。

 先に理学療法士が検査する場合、理学療法士が深刻な疾患がないかを検査をして、なさそうだと判断すればそのまま詳細な検査に進み、もし何か怪しいと判断したら検査は一旦中止。医師にリファーラル(紹介状)を書き、医師や放射線技師に「画像診断」を依頼し検査をしてもらう。

理学療法士と医者の協力体制が患者と医療費を減らす

 このように理学療法士が"診断ができる"国では、医師は手術適応の腰痛に専念すればよく、保存療法適応の患者は理学療法士が中心になって対応することができる。これにより医師の負担も減り、医療費も削減できているという報告もある。

 日本も海外の先進国のように医者と理学療法士が協力体制で腰痛を見ることが日常的になれば、85%の非特異性腰痛も、残り15%の特異性腰痛も正しい治療、アドバイスを受けることが容易になるはずである。

 医者が画像所見で重大な疾患を除外し、理学療法士が触診や動きの検査で腰痛の原因を突き止める。そのような体制が整えば、日本の腰痛患者がもっと減るはずだ。さらに医療費もいまよりも削減でき、強いては日本全体に良い影響を与えるはずである。


三木貴弘(みき たかひろ)
理学療法士。日本で理学療法士として勤務した後、豪・Curtin大学に留学。オーストラリアで最新の理学療法を学ぶ。2014年に帰国。現在はクリニック(東京都)に理学療法士として勤務。一般の人に対して、正しい医療知識をわかりやすく伝えるために執筆活動にも力を入れている。