シリアはいま、サッカーどころではない、世界が救いの手を差し延べなければならない一番の国。スポーツと政治は別とはいえ、そのシリアとの一戦が大一番になろうとは。笑えない話とはこのことだ。

 そのシリア戦、続いて行われるイラン戦(親善試合)のメンバーが発表された。話題を集めているのは20歳の南野選手だが、肝心な問題は試合に出るか否か、だ。出場しても15分程度では、チャンスは与えられたことにならない。見る側にも善し悪しは伝わらない。

 とはいえ、これまでの流れに従えば、そうなってしまいそうな気配は濃厚だ。

 シリアは、2次予選の中で最も FIFAランクが高い国。日本は、それよりランクの低いシンガポールに、ホームで勝ち点2を落としているので、余裕がない状態にある。

 4年周期で回る代表チームには、時期に相応しい強化方法がある。既存のベストメンバーで戦わざるを得ない状況に追い込まれているハリルジャパンは、そのサイクルに照らせば、理想から外れたステップを踏んでいる。2018年6月から逆算して物事を考えている余裕がない。目の前の試合に勝利を収めることに汲々としている状態だ。

 シンガポールに引き分けたからそうなったわけではない。ハリルホジッチが特段、小心者だからでもない。

 一番大きいのは、監督交代の影響だ。ハリルホジッチはアギーレジャパンから、上手くバトンを引き継げなかった。

 ハリルホジッチが監督に就任したのは今年3月。チーム作りはそこから始まったわけだが、ブラジルW杯後からアジアカップまでの数ヶ月間は、前任監督のアギーレが、チーム作りを行ってきた。そしてその間、アギーレジャパンとして、それなりのストーリーを築いてきた。
 
 4年で一周する代表強化を400mのトラックに置き換えれば、1年は100m。8か月の遅れは67mに相当する。そこまで走りながら、ハリルホジッチ就任を機に、振り出しに戻ることになった。67m強走る間、アジアカップでベスト8に沈んだとはいえ、露見した点は多くあった。それは日本の財産に他ならないのだが、ハリルホジッチ就任を機にそれは0になった。アギーレジャパン時代の収穫は、ハリルジャパンに反映されていない。

 アギーレのメンバー起用はこうだった。最初の4試合は完全なテスト。新たなメンバーを積極的に登用した。長編小説の始まりを思わせる、これから始まる長い4年間に道のりに相応しいスリルにあふれていた。4戦目の対ブラジル戦も例外ではなかった。しかしその試合に0−4で敗れると、メディアは一斉に反発。長編小説を読む余裕を失い、アギーレの実験的なやり方に異を唱えた。

 それに屈したのか、結果が欲しくなったのか、アギーレは5試合目(対ホンジュラス戦)、6試合目(対豪州戦)に、遠藤、今野、長谷部といったベテランを招集。チームは2連勝を飾り、その流れのままアジアカップに臨んだ。ザックジャパンと大差ないメンバーで、だ。

 そしてそのグループリーグと、準々決勝対UAE戦の計4試合を、アギーレはなんと全く同じスタメンで戦ってしまった。

 就任して4試合目まではリラックスしていたが、5試合目からは、絶対に負けられない戦いの呪縛にはまり、まるで別人のようにガチガチになったアギーレ。その結果、準々決勝で敗退した。

 もし、アギーレがそのまま監督を続けていたら、その後どんなメンバーを起用しただろうか。いま、どんなメンバーで、アジア2次予選に臨んでいるだろうか。

 敗戦を機に、改革は一気に進んだだろう。就任後の4試合で見せたようなテストモードに、再び戻ったと思う。ファンもメディアもそれを受け入れたはず。そのガチガチ感はなくなっていたに違いない。