言葉を使わず物語を語る『Ephemerid: A Musical Adventure』(箭本進一のいま積みたいインディーゲーム)

写真拡大

ジャンルを問わず興味深いインディーゲームについて語る本連載、第1回目は言葉無しに物語を語り、プレイヤーの心を揺さぶる『Ephemerid: A Musical Adventure』を見ていきましょう。

本作の大きな特徴は、「言葉」を全く使わず物語を描いている点にあります。2匹のEphemerid(カゲロウ)の出会いと恋と別れ、危難と冒険......といった美しくも哀しいストーリーが、ナレーションやメッセージ、歌詞といった言葉を一切使わずに展開されるのです。

【ギャラリー】Ephemerid: A Musical Adventure (9枚)


[ご注意:ゲームを紹介するため、物語の展開について触れる場合があります。何も知らないまま楽しみたいかたは末尾のリンクまで飛んでください]

このゲームをひと言で表現するなら、「インタラクティブな『みんなのうた』」といえば分かり易いでしょうか。

『みんなのうた』といえば、挿絵やCGなど様々なスタイルの映像が歌を彩る、物語性の高いPVが特徴ですが、本作では切り絵のようなビジュアルを用い、流れる音楽に合わせて画面をクリックする、音楽ゲームのフォーマットで物語が語られていきます。



ある時は、寄り添って飛ぶカゲロウの動きに合わせて花をクリック。
またある時は、邪悪なクモに捕まった虫たちが喰われてしまわないようにクリックしてこれを助ける。
羽根を失ったカゲロウが虫たちに運ばれるシーンでは、行く手を阻む障害物をクリックして虫たちがスムーズに進めるようにする。

ある時は喜びと共に、またある時はドキドキしながら。同じクリック一つとっても、物語の展開によって込められている気持ちが変化しているわけで、これは物語が持つ力といえるでしょう。

プレイしていると、「物語の先を知りたい」「かわいそうなカゲロウたちが結ばれるかどうか見届けたい」という衝動が、ゲームを上達したいというモチベーションに変化しているのに気付きます。こちらはゲームの持つ力。

ゲームのプレイと物語の進行が一つになっており、言葉を使わずに物語を体験・理解するという、受動的な映像メディアとはひと味違った体験を味わえるというわけです。

ビデオゲーム、特にインディーゲームを遊ぶ上では「英語版しか存在せず、語られているメッセージの意味が掴みきれずに充分ゲームを楽しめない」など言葉が問題になることも多いのですが、言葉のない本作なら、どこの国に住む人でも直感的にプレイできます。

SteamやAppStoreなど、世界に向けて作品を発信できるダウンロード配信の環境が整いつつある昨今だけに、本作のような国と言葉の壁を越える試みが増えていくのではないでしょうか。

「敢えて言葉を廃する」という勇気ある試みにも敬意を表したいところです。本作では、オプションとタイトル画面以外では言葉が出てきません。スコア表示すらないのですから徹底しているといえるでしょう。

そのため、物語の細かい部分はプレイヤーそれぞれの解釈に委ねられることになります。天に昇るカゲロウの周囲に揺らめいた、東洋の龍の如きオーラは何だったのか。自らの身を犠牲にした時、カゲロウは何を感じていたのか。ゲーム内で「正解」は提示されず、全てはプレイヤーが自分で考えるしかありません。

プレイヤーの解釈が作り手の構想と異なっている場合も少なくないでしょう。語り手にとっての恐怖は「自分が語った言葉が意図しない形で受け止められてしまう」ことにありますが、本作の作り手はそうしたことを恐れていないのかも知れません。

ゲーム内のテキストが饒舌になっていく昨今だけに、本作の様な試みは実に意義深いものであるといえるでしょう。

また、年齢を問わずに遊べるようになっているのもポイントです。スマートフォンやタブレットの普及など、今まで以上に広い年齢層が触れることになっていくのがこれからのゲームなので、本作の様な作品が増えていくのかも知れません。

言葉に頼らず物語を語る『Ephemerid: A Musical Adventure』。本作のような尖った作品に出会えるのはインディーゲームの大きな魅力です。