いよいよ2015年のレギュラーシーズンは大詰めを迎え、地区優勝決定のニュースも次々と舞い込んできました。その一方でもうひとつメジャーファンが気になっているのは、個人タイトルの行方です。前回、注目バッターのタイトル争いを紹介しましたが(「初タイトル奪取を狙う『打撃部門』のすごい新顔たち」)、今回はピッチャーにスポットを当ててみたいと思います。

 とはいいつつ、今シーズンのピッチャーで紹介したい選手は、29歳の先発右腕ただひとり。それは、シカゴ・カブスに所属するジェイク・アリエッタです。10月1日現在、アリエッタの勝ち星はメジャートップの21勝(6敗)。2位のゲリット・コール(ピッツバーグ・パイレーツ/19勝8敗)とダラス・カイケル(ヒューストン・アストロズ/19勝8敗)に2勝差もつけています。さらに被打率.187、被長打率.276もメジャー1位。並み居るスラッガー相手に、驚異的な数字を叩き出しているのです。

 防御率1.82はナ・リーグ2位。メジャー全体で防御率1点台なのは、1位のザック・グレインキー(ロサンゼルス・ドジャース/1.68)とアリエッタのふたりだけです。また、奪三振数(229個)もナ・リーグ4位で、クレイトン・カーショウ(ロサンゼルス・ドジャース/294個)、マックス・シャーザー(ワシントン・ナショナルズ/259個)、マディソン・バムガーナー(サンフランシスコ・ジャイアンツ/234個)といったメジャー屈指の本格派に次ぐ数字を残しています。

 これらの数字のなかで、特に目を引くのはやはり勝ち星でしょう。カブスの歴史を紐解いてみると、1971年に24勝(13敗)をマークしたファーガソン・ジェンキンス以来、チームでもっとも多い勝ち星なのです。さらに特筆すべきは、6月21日から19試合連続でクオリティスタートをマークしている点でしょう。これは1914年以降のカブスのデータを見ても、球団初の大記録です。

 また、オールスター後の成績はメジャー史上1位の防御率0.80。さらに8月以降のデータを見てみると、なんと防御率0.44という驚異的な数字です。11試合の先発登板で82イニング3分の1を投げて、自責点はたったの4点。ちなみにアリエッタに次ぐ数字を残しているのは、カーショウの防御率1.36。これも素晴らしい成績なのですが、アリエッタの活躍はそれすら霞(かす)むような快進撃だと言えるでしょう。

 いまやアリエッタは、メジャーリーグで「最高のピッチャー」と評されています。しかし実は2年前まで、彼は「二流のピッチャー」と呼ばれていました。

 テキサス州で育ったアリエッタは、2007年に地元の大学からドラフト5巡目(全体159位)でボルチモア・オリオールズに入団。荒削りながら若手有望株として期待され、2010年には念願のメジャーデビュー。2011年には先発ローテーション入りも果たし、初のふたケタ勝利(10勝8敗)もマークしました。

 ところが2012年、アリエッタは防御率6点台と伸び悩み、勝ち星も3勝(9敗)どまり。当時のメジャー関係者は、「2012年シーズンに先発した投手のなかで最低クラス」とアリエッタを酷評しました。その結果、2013年はマイナーに降格し、3Aでくすぶる日々を過ごします。アリエッタは当時を振り返り、「野球を辞めようかと思った」というほどでした。

 そんな矢先、アリエッタに思いがけない話が舞い込んできたのです。「7月2日、カブスへトレード」。アリエッタにとって、それが最大の転機となりました。カブスに移籍した彼は、ピッチングコーチのクリス・ボジオにマンツーマンで指導を受け、投球スタイルをイチから見直すことにしたのです。

 先発投手として中4日の調整方法や、対戦するバッターの分析など、アリエッタはさまざまな角度からピッチャーとしてのありようを勉強し直しました。スカウティングレポートをしっかりとチェックし、たとえば初球の被打率が悪いと知ると、それを克服するために研究を重ね、それに応じて投球スタイルも変えたのです。

 オリオールズ時代のアリエッタは、ストレート(フォーシーム)とシンカー主体のピッチングでした。ただ、被本塁打が多く、制球難でも苦しんでいたのです。しかし、カブス移籍後はシンカーとスライダーをメインにしたピッチングに変更。その結果、初球からストライクを多く取れるようになり、相手バッターから空振りを奪えるようにもなりました。

 また、バットの芯を外す投球術を身につけたことで、ホームランを打たれる数も激減。前述した19試合連続クオリティスタートのなかで、打たれたホームランは2本だけ。ホームランの出やすいリグレー・フィールドを本拠地とするカブス投手陣において、この数字は驚愕です。

 9月27日、ワイルドカード争いで首位の座を争っているピッツバーグ・パイレーツをホームに迎えました。この大事なゲームで、アリエッタは6回までパーフェクトの内容でパイレーツ打線を封じ、見事に21勝目を飾ったのです。試合後、ジョー・マドン監督は、「サイ・ヤング賞だけでなく、シーズンMVPを与えるべき」と、アリエッタを大絶賛しています。

 カブスは昨年12月、ボストン・レッドソックスのエースだったジョン・レスターを6年総額1億5500万ドル(約185億円・当時)で獲得しました。しかし、今のカブスのエースは、間違いなくアリエッタです。「メジャー最低のピッチャー」から「メジャー最高のピッチャー」へと変貌を遂げたジェイク・アリエッタ――。まさに2015年シーズンを象徴するピッチャーだと思います。

福島良一●解説 analysis by Fukushima Yoshikazu