GIスプリンターズS(中山・芝1200m)が10月4日に開催される。秋のGIシリーズの幕開けを告げる「スプリント王決定戦」には多くのファンが注目しているが、そうしたファンの誰もが頭を抱えるほど、今年は稀(まれ)に見る"大混戦"となっている。

 短距離界の絶対王者として、GI通算6勝を挙げたロードカナロア(牡)が2013年に引退。以来、スプリント戦線は主役不在の状態が続いている。実際、今春行なわれたGI高松宮記念(3月29日/中京・芝1200m)も、香港馬のエアロヴェロシティ(せん7歳)が優勝。日本勢の人気馬は、"ホーム"でありながら完敗を喫した。

 そして今回、そのエアロヴェロシティは来日しない。代わって本命視されているのが、ベルカント(牝4歳/父サクラバクシンオー)、ウリウリ(牝5歳/父ディープインパクト)、ストレイトガール(牝6歳/父フジキセキ)という牝馬3騎である。しかし、どれも押し出された有力馬という印象が否めない。伏兵たちの逆転も十分に予想され、人気薄の馬が先頭でゴールするシーンがあってもおかしくない。

 そこで振り返ってみたいのが、過去にこの舞台で大金星を挙げた伏兵たちだ。名馬が人気に応えたシーンも多いスプリンターズSだが、前評判を覆(くつがえ)して勝利を飾った馬たちも決して少なくはない。例えば、過去10年を振り返っても、6番人気以下で勝った馬が3頭もいる。

◆2009年=ローレルゲレイロ(6番人気=単勝1380円)
◆2010年=ウルトラファンタジー(10番人気=単勝2930円)
◆2014年=スノードラゴン(13番人気=単勝4650円)※新潟開催

 このうち、香港からの遠征馬であるウルトラファンタジー(せん)を除くと、ローレルゲレイロ(牡)とスノードラゴン(牡7歳)には、伏兵馬としての"共通点"がある。それは、同年春に行なわれた高松宮記念で好走していることだ。

 ローレルゲレイロは2009年の高松宮記念を逃げ切って快勝、スノードラゴンも2014年の高松宮記念で2着に食い込んでいる。にもかかわらず、ともにスプリンターズSでは人気を落とした。というのも、高松宮記念のあと、ローレルゲレイロは、GI安田記念(東京・芝1600m)で15着、秋初戦のGIIセントウルS(阪神・芝1200m)でも14着と惨敗。スノードラゴンは、地方のダート戦では2着と好走したものの、スプリンターズSの前のレース、GIIIキーンランドC(札幌・芝1200m)で8着と完敗したからだ。

 この2頭のことを考えれば、たとえ近走が振るわなくても、今春の高松宮記念で激走した馬を見限ってはいけない。むしろ、そういった存在こそ"狙い目"となる。

 今年、それに当てはまるのが、ハクサンムーン(牡6歳/父アドマイヤムーン)だ。

 ハクサンムーンは、今春の高松宮記念で2着と奮闘したが、それ以来となる前走のセントウルS(9月13日)では8着と大敗。この結果を受けて、人気を落としそうな状況にある。だが、ローレルゲレイロとスノードラゴンの例を踏まえれば、軽視はできない。巻き返す可能性は十分にある。

 次に、過去10年で大金星を挙げた3頭のうちの残りの一頭、ウルトラファンタジーに目を向けてみる。

 重要なポイントは、同馬が香港所属馬ということだ。香港は、競馬界の「スプリント王国」として知られる。世界的に見ても、スプリント戦線におけるレベルは高く、スプリンターズSでもウルトラファンタジーの他に、サイレントウィットネス(せん)が2005年に1番人気に応えて優勝している。

 前述したとおり、今春も香港馬エアロヴェロシティが高松宮記念を制した。つまり、香港馬が出走してきた場合、実績があればもちろんのこと、たとえ実績が乏しく、事前の評価が低くても、無条件にマークしたほうがいい、ということだ。

 そして今回も、香港から一頭参戦する。リッチタペストリー(せん7歳/父ホーリーローマンエンペラー)である。

 同馬は、エアロヴェロシティやサイレントウィットネスほどの実績があるわけではない。その分、前評判は高くないものの、同馬は昨年10月、アメリカのGIサンタアニタスプリントチャンピオンシップS(10月4日/アメリカ・ダート1200m)を制覇。その際、1分7秒59という芝レース並みの勝ちタイムを記録している。近走は際立った成績を収めていないが、日本の硬い芝に対応できる可能性はある。ウルトラファンタジーの再現があっても不思議ではない。

 最後に、大金星組のウルトラファンタジーとローレルゲレイロが、ともに逃げ切り勝ちだったことに着目したい。それら2頭を含めて、スプリンターズSでは、近10年で4度も逃げ切り勝ちがある。とすれば、逃げ馬のマークも外せない。

 今回注意すべきは、前走のセントウルSで逃げ切り勝ちを収めたアクティブミノル(牡3歳/父スタチューオブリバティ)。前走がフロックと見られて人気しないようであれば、積極的に狙ってみても面白い。

 ゲートが開く瞬間が刻一刻と迫ってきたスプリンターズS。主役不在の中、新たな"絶対王者"が誕生するのか、それとも伏兵馬が大波乱を起こすのか。70秒弱で決着がつく"快速ドラマ"から目が離せない。

河合力●文 text by Kawai Chikara