現在豪州代表を率いるアンジ・ポスタコグルー監督【写真:Getty Images】

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懐かしいサッカルーズの顔ぶれ。4年前とは様変わり

 自国開催となったアジアカップで見事な優勝を遂げた“サッカルーズ”(豪州代表の愛称)は、ここまで確かな進歩を辿っている。4年前にブラジルW杯予選を戦ったホルガー・オジェック体制からは顔ぶれも変わり、アンジ・ポスタゴグルー現監督のもとには有望な若手も揃う。若手の台頭には不安と期待が入り混じっているが、それと同時に新たな“黄金世代”到来をも予感させる。

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 いやはや、時間が流れるのは本当に早い。先日、仕事場に溜まった古雑誌や新聞の切り抜き、取材した試合のスコアシートやマッチデー・プログラムなどの山を整理していた。そこで、行き当たったのが4年前のサッカルーズのW杯予選のゲームの取材メモ。

 4年前の2011年9月2日、サッカルーズはブラジルW杯に向けてのアジア3次予選の初戦となるタイ戦をブリスベンで戦った。当時の豪州代表を率いていたのは、ホルガ―・オジェック前監督。すっかり、過去の人になってしまった感はあるが、サッカルーズの監督を解任されたのは2013年の10月だから、解任からまだ2年しか経っていないのは少々意外に思える。

 その試合は、前半に先制されながらも、後半、ジョッシュ・ケネディ(当時・名古屋グランパス)とアレックス・ブロスク(当時・清水エスパルス)という2人の”Jリーガー”が相次いで得点して豪州の勝利に貢献した試合として、はっきり記憶している。

 ここで注目したいのは、その当時のサッカルーズの顔ぶれ。いわゆる“黄金世代”偏重の傾向が見られたオジェック政権下、その顔ぶれはキャプテンのルーカス・ニールやブレット・エマートンなど、今となっては懐かしい名前が並ぶ。

 それでも、この時の代表は久々のブリスベンでの代表戦ということもあって、地元ブリスベン・ロアー絡みの若手を招集した「ブリスベン贔屓」ともいうべき顔ぶれで、オジェックにしては新しい選手を試しているなとの印象だ。

 そのタイ戦のメンバーで、4年の紆余曲折を経て、今もサッカルーズに定期的に招集されている選手は決して多くない。絶対的エースのティム・ケーヒル、現主将のミレ・イェディナック、今は中堅としてチームを支えるマシュー・スピラノヴィッチ、ジェームス・トロイジ、ロビー・クルーズら7名ほど。それ以外の選手は、既に現役引退、または代表引退、現役は続けているものの他の選手の台頭で出番の回ってこない代表構想外の選手達だ。

ポスタコグルー現監督の悩み事

 4年前から代表メンバーの“生存率”を弾きだすと23分の7、率にして0.304。この数字は、4年で大幅に顔ぶれが入れ替わっていることを表すには充分であろう。あらためて、就任から2年が過ぎた今、アンジ・ポスタコグルー監督が世代交代の大ナタを振るってきたことが分かる。

 そのポスタコグルー監督の下で、サッカルーズが確実な進化を遂げていることには疑問の余地は無い。しかし、かと言って不安材料が無いわけではない。

 攻撃陣では、もうすぐ36歳になるケーヒルを脅かす存在が出てこない。ケーヒルは、W杯2次予選でも3試合全てに出場するなど、相変わらずのフル稼働。9月8日のアウェイでのタジキスタン戦では、後半残り20分を切っての2連発で試合を決め、相変わらずの存在感を発揮した。

 本来であれば、攻撃陣を引っ張っていく立場のクルーズは、ケガに次ぐケガでアジアカップ以降、まともにプレーができていない。典型的な“9番”タイプのFWとして、ここ数年、期待を集めるも不完全燃焼が続いたトミ・ユリッチ(ローダJC)は、新天地のオランダで徐々にフィットしてきており、本格的なブレイク間近と期待できる。

 主力のケガもあってDFラインも、なかなか安定しない。ポスタコグルー監督は代表招集の度にイングランドの下部リーグでプレーする新しいDFを試すなど試行錯誤を重ねてきた。GKを含む守備陣の戦力充実が目的でのポスタコグルー監督の選手探索は、実にイングランド4部リーグの「リーグ2」にまで及んでいる。W杯2次予選を戦う現代表のバックアップGK候補として初招集されたアレックス・セサックは現在、リーグ2のレイトン・オリエントでプレーしている。

有望な若手が揃う攻撃的MF。人選は悩みの種に?

 ポスタコグルー監督が頭を悩ませるのは人材不足ばかりではない。有望な若手が多く出ている攻撃的MFのポジションの人選は、今後の大きな悩みの種になりそうだ。

 そんな若手有望株の中で一歩先を行くのは、アジアカップの大活躍で一気に代表の欠かせない主力へと駆け上がったマッシモ・ルオンゴ(QPR)。今年から、チャンピオンシップ(イングランド2部)でプレーするなど、クラブレベルの実績も確実に積み重ねてきただけに、代表での中盤の攻撃的なポジションを盤石なものにすると予想されていた。

 しかし、ここに来てルオンゴ優位の流れにストップを掛け得る存在が現れた。長らく悩まされたグロイン・ペインがようやく癒え、スコットランド随一のビッグクラブのセルティックで徐々に頭角を現しつつあるトム・ロギッチ。早くから豪州の将来を担う存在として期待されてきた若手の星がようやく戻ってきた。

 ロギッチは、W杯2次予選の9月シリーズで代表復帰するやいなや、バングラデシュ戦(パース・3日)でゴールを挙げて存在を大いにアピールした。 

 それでも現時点での序列ではルオンゴが上であることは、衆目の一致するところ。共に先発したバングラデシュ戦では、ルオンゴはフル出場もロギッチは途中交代。続くタジキスタン戦でも、先発フル出場したルオンゴに対して ロギッチは68分からの途中出場だった。

 現時点での2人の優劣はさておき、23歳のルオンゴ、22歳のロギッチのピッチ上での競演には、サッカルーズの明るい未来を 見いだせた。

 さらに、彼ら以外にもMFには若手有力株がひしめき合う。先月取り上げた18歳のダニエル・ダシルバ(ローダJC)は、既に新天地でトップデビューを果たすなど順調な成長を見せる。

ふと感じた新しき“黄金世代”到来の予感

 さらには、ラツィオに所属する20歳のクリス・イコノミディスはトップでの試合出場はまだながら、既に3キャップを得ている代表では招集の度にチームメイトから様々な薫陶を受けている。この2人は、近い将来に必ず豪州攻撃陣を引っ張る存在になるのは間違いない。

 それだけではない。18歳でボルシア・ドルトムントに移籍して以来、将来を嘱望され続けてきたアフロヘアのファンタジスタ、ムスタファ・アミニ。彼も4年在籍したドルトムントを離れ、今季からデンマークのラナースFCに移籍。すぐに定位置を確保し、主力として試合出場機会を得ているだけに、なかなか実現しないままのサッカルーズ選出が22歳の今年になって実現する可能性は高い。

 とここまで、取り上げた若手有望株の5人はいずれもMF、しかも全員攻撃的なポジションが本職だ。最年少のダシルバが18歳、最年長のルオンゴでも23歳と世代的にはほぼ同じといって差し支えない。

 しかし、現実的にこの5人が一緒にプレーすることは難しい。彼らのうちの2、3人は弾き飛ばされることになる。そこを踏まえて、18年のロシアW杯までのチーム作りで、誰をメインに据えるのか。この豊富なタレントを少しでも多く活用できるような方策は無いのか。そんなことにも、ポスタコグルー監督は大いに頭を悩ませることになる。

 ストライカーのユリッチ、中盤のルオンゴ、ロギッチ、23歳のセンターバックのトレント・セインスベリー(FCズウォレ)、そして23歳の守護神マット・ライアン(バレンシア)。彼らの世代が順調に伸びて、ここから3年の経験と自信を携えてロシアへと乗り込めるのであれば、豪州サッカーの将来を悲観せずともよい。

 もしやこれは、新しき“黄金世代”の台頭なのかもしれない――。今まで特には意識していなかったが…。

 とはいえ、あまり先のことを話すと鬼が笑いかねない。まずは10月8日の敵地でのヨルダン戦にしっかり集中しよう。アウェイの厳しい戦いの中、次世代の主力候補たちの躍動に希望を見いだせるようにじっくり見守りたい。

text by 植松久隆