『本を読む人だけが手にするもの』(藤原和博/日本実業出版社)

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 いま、本を読まない人が増えている。昨年の文化庁調査で、16歳以上の47.5%の人が「本を一冊も読まない」という衝撃的な数字が明らかになった。実際、出版業界では販売金額が9年連続で前年割れしている。だが、先頃登場した『本を読む人だけが手にするもの』(日本実業出版社)は、そんな世の中を少し変えるかもしれない。元リクルート出身、東京都では初の民間人公立中学校長として注目された教育実践家の藤原和博氏による本書は、数々な現場や人を見た実感から「成熟社会では本を読まない人は生き残れない!」と断言するからだ。

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 藤原氏は、「20世紀型の成長社会では“みんな一緒”であることが幸福の原則だった。だが、21世紀型の成熟社会では各々が幸福について考えていかねばならず、その軸を作るには読書で得る教養がベースとなる」と根源的な読書の必要性を述べた上で、「これから先の日本では、身分や権力やお金による“階級社会”ではなく“本を読む習慣のある人”と“そうでない人”に二分される“階層社会”がやってくる」と大胆に予測する。

 たとえばパチンコをする、しないで考えたら、しない人は社会全体の1/2に当たる。さらにケータイゲームもしない人は1/4、その上で「本を読む」という選択をする人を考えれば全体の1/8となる。実は「パチンコやゲームなどをしない=時間の浪費をしない=時間マネジメント能力がある人材」ということであり、単純に「時間を無駄にせず本を読む」という人生の選択をするだけで、ざっくり言えば「10人に一人」の階層に入ることができるのだ。

 また、報酬においても、社会は時給800円のアルバイトから、1時間1万円以上、中には講演などで100万円も稼ぐ「エキスパート」まで社会は階層化されている。著者の経験からハイレベルの「エキスパート」に本を読まない人はおらず、自身を限りなく彼らに近いレベルに引き上げようと思うなら、本を読むのは必要不可欠といえるだろう。

 興味深いのは、これからの成熟社会では身につけた知識や技術を組み合わせて納得解を引き出す「情報編集力」が必要となるが、その力を高めるためのリテラシー<コミュニケーション力・ロジック力・シミュレーション力・プレゼンテーション力・クリティカルシンキング力>を磨く手段としても、読書が有効ということ。読書によって著者という「他者」の視点を共有し、想像し、論理的に組み立て、反対側から考える……こうした実践的な有益性は、あらためて読書の戦略的意義を印象づける。

 では、そんな読書にはどんな本を読むべきか? 意外なことに、藤原氏のオススメは「習慣化した“乱読”」だ。人生の偶然の出会いを効率的に設定するのが不可能なように、自分にとって「いい本」と出会うためには、やはり数をこなすのが一番とのこと。たしかに感性は十人十色、押しつけではなく自覚的な「読書」への取り組みを促すのも藤原流ということだろう。

 とはいえ、巻末には藤原氏がセレクトした必読の50冊が紹介されているので、まずはこれを足がかりにするのもいいだろう。ちなみにビジネス系で紹介されている本にいわゆる定番の人生訓的なものはなく、グローバル時代の先端感覚が刺激的なものが並んでいるのも新鮮だ。

 あなたが人事部長だったら、電車の中で、読書をしている人と、ずっとスマホとにらめっこの人、どちらを採用するだろうか?---文中で投げかけられるこの質問は、単純だが時代の核心をついている。本を読むか否かはもちろん本人次第。かつて寺山修司は「書を捨てよ、町に出よう」と体験の重要性を語ったが、ネットやスマホが当たり前の今こそ、読書は「武器」になる。時代に取り残されたくなかったら、いまこそ、書を取って、町に出よう!

文=荒井理恵